寝転がったまま、ナツがうっすらと目を開ける。

「ルーシィ……?何やってんだ?」
「見てのとおりよ」
「……催眠術か?」

ルーシィが手を離した。ナツの顔に、ぽとりとてるてる坊主が落ちる。
それを掴んで、ナツは緩慢な動作で起き上がった。

「てる坊か」
「そんな略し方初めて聞いたわ」
「なんかこれヘンな顔だな」
「ぷっ」
「ん?なんだよ?」

さっと目を逸らしたルーシィとハッピーを、ナツの不審げな声が追いかける。ハッピーは笑いを堪えつつ、ルーシィに向かって右手を上げた。

「あとは吊るすだけだね!」
「そ、そうね」

しかし二つだけだ。やはり、ナツにも参加して欲しい。
ハッピーはちらりとナツに視線を送った。

「これで晴れたらオイラ達のおかげだね。オイラと、ルーシィの」
「んなっ」

思ったとおりに反応がある。ナツはばしん、とテーブルを叩いた。

「お前らだけに任せてられっかよ!」

素早く布を手繰り寄せて、乱暴な仕草で頭を形作る。が、ナツはそこでぴたりと手を止めた。

「ナツ?」
「オレはもっとでっかいの作る!」
「へ」

言うが早いか、ナツはカウンターへとどたどたと走り寄った。「でっかい布くれ!」とせがんで、テーブルクロスのようなものを貰ってくる。

「よーし!」

広げた布は本当にテーブルクロスだった。ルーシィが困ったように笑う。

「ちょっと大き過ぎない?」
「これくらいでっかくねえと。オレだって、つか、オレの方がお前らより楽しみにしてんだからな」
「えー?あたしだって」
「いんあ、オレの方が絶対楽しみにしてる!」

ばさばさと布の下に空気を入れながら、ナツが言い切った。くい、とルーシィに顎を向ける。

「夜景がキレーなんだろ?見たいっつってたじゃねえか」

行く予定の町には建物だの食べ物だの名物が多くて、ハッピーはその全てを把握していない。ルーシィがそう言っていたかもしれないが、正直、あまり記憶になかった。
ナツはしっかりと覚えていたらしい。ぼそりと、しかし強く、希望を告げる。

「オレだってルーシィと見たい」
「え」

ハッピーは布の大きさが気になって首を傾げた。

「それ、中に何入れるの?」
「オレ」
「あい?」
「こうすんだよ」

ふわっ、と舞った布を被って、ナツがもぞもぞと動く。絵本のおばけのような彼は、ハッピーに指示を出した。

「縛ってくれ!」
「あい、わかった!」
「え、ちょ、ちょっと。首絞まるわよ?」
「大丈夫だ、手ぇ挟んどくから。こんだけ大きければ絶対晴れるだろ!」

大きさが関係するとは思えないが、ナツならば強引に天気を変えてくれそうな気もする。ハッピーはくるくると縄をまわした。

「よっしゃ、これで雨乞いすればばっちりだな!」
「逆、逆!」
「ほう、てるてる坊主か」

声に振り向くとエルザが居た。感心したように頷いている。

「これは大きいな。どれ、私が吊るそう」
「へっ、お、おい?」

重さなどないような気軽さで、エルザがナツを持ち上げた。布の下からばたつくサンダルが見える。

「エルザ!オレだっつの!」
「私もこの雨には鬱屈とした気分になっていてな」
「聞け!」

ハッピーはルーシィと顔を見合わせた。

「どうしよう」
「止められる?」

止めるも何も、すでにナツは窓際に吊るされてしまっている。エルザが手早く固定しているのを見つつ、ハッピーは頬を引き攣らせた。

「だ、大丈夫だよね」
「そ、そうね。自力でなんとか……とりあえず、ナツの横にこれ、吊るしましょうか」

ルーシィが摘まんだ二体のてるてる坊主がぶらりと揺れる。ハッピーは同意した。

「あい。雨、止むね、きっと」

てるてるナツの動きは雨脚と同様、少しずつ鈍くなっていった。






ぶらーん。
お付き合いありがとうございます!



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