てるてるぼうず





「あーあ、降ってきちゃった」

ギルドの窓から空を見上げていたルーシィが、残念そうに呟いた。シャルルの天気予報はさっき聞いたばかりで、それを信用していないわけではなかっただろうが、外れることを期待していたのだろう。ハッピーもそれは同じだった。
明日は観光地にもなっている町へ仕事に行く。せっかくならば、天気は良い方が良い。
窓ガラスには雨粒が不ぞろいな水玉模様を作り始めた。それをしばらく眺めて、ルーシィがぱん、と両手を打つ。

「そうだ、てるてる坊主、作ろう!」
「え?」
「何よ、知らないの?てるてる坊主」
「知ってるよ!」

そんなことで聞き返したわけではない。ナツならばともかく、ルーシィが提案するのが意外だったのだ。てるてる坊主といえば子供が作るものと相場が決まっている。十代後半の人間が良いことを思い付いたとばかりに手を鳴らすようなことではない。

「ルーシィってホント……」
「なによ?」

言いたいことは伝わったのだろう。軽く頬を膨らませたルーシィに呆れた仕草で首を振ってはみたが、ハッピーは思い直して両手を上げた。

「オイラも作る!」

子供っぽかろうがなんだろうが、面白そうなら参加する。それはハッピーがナツから学んだ姿勢でもある。楽しんだもの勝ち、だ。

「そうこなくっちゃね!」

ルーシィは嬉しそうな顔で頷くと、小走りでカウンターに向かった。「ミラさん、要らない布ないですか?」と訊いているのが聞こえてくる。
彼女から視線をずらすと、ナツの足が目に入る。ベンチシートの背もたれに無造作に乗っかったそれは、呼吸の波に合わせてわずかに動いていた。本体は椅子の上に仰向けになって寝こけている。
彼は空が曇り始めた頃から眠気を訴えて、あっという間に眠ってしまった。ウェンディが気圧の変化のせいかも、と分析して以来、ハッピーはこれをひそかにナツの雨予報と呼んでいる。

「ナツはどうする?」
「んぅー……」

返事とも言えない音を発して、ナツは眉間に皺を寄せた。変化と言えばそれくらいで、覚醒には至らない。
もちろんそれは予想範囲内だった。と、言うよりもむしろ声をかけたくらいで起きるとは思っていなかった。後で自分も作りたかった、とごねるかもしれないが止むを得ない。

「よーし、やるわよ!」

ルーシィは古いランチマットのような白い布を何枚か持って戻ってきた。ぴっ、と鍵を一本取り出して、翳す。

「開け、巨蟹宮の扉!キャンサー!」
「エビ」
「ありがとう!」

瞬きの合間に居なくなってしまった。二音だけ発してあっと言う間に消えた星霊を、ハッピーは少し残念に思いはしたが、綺麗に小分けされた布がテーブルの上に整然と並んでいるのを見た途端、彼の存在を忘れた。

「オイラこれ!」
「じゃああたしはこっち」

一枚ずつ取って、丹念に皺を伸ばす。ハッピーはもう一枚を取って丸めたものを中心に置き、くりくりと包み込んだ。頭の形を整えながらゴムで縛る。

「できたー!」
「意外に早いわね。はい、ペン」

渡されたペンでてるてる坊主に命を吹き込む。なんとなく顔になったそれを、ハッピーは頭の上に掲げた。

「できたよ、マスターてるてる坊主!」
「え、マスター?」
「あい、ハゲてるから」
「ぷっ……ちょ、笑わせないで」

今まさに顔を描いていたルーシィの手元が震える。覗き込んでみると、笑んだ吊り目を描き込んでいるところだった。大きく弧になった口には牙がある。
出来上がったそれをナツの上で揺らして、ルーシィは悪戯っぽく笑った。

「似てない?」
「似てる!」
「んだ……?」

寝言のトーンで、ナツがもごもごと口を動かした。






ルーシィとハッピーの組み合わせは微笑ましい。


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