「ルーシィ!」
「ナツ!?」
テントの中は人でいっぱいだった。女ばっかだ。こいつら全員、捕まってんのか。なんつー本屋だ。
邪魔だなって思った瞬間、身体が宙に浮く。ハッピーがオレをルーシィの前まで運んでくれた。
「ルーシィ、無事か!?」
「え、うん?」
「店主はどいつだ!?」
「ルーシィさんの仲間?」
ルーシィの後ろに居た、ひょろっとした男が声を上げる。やっぱコイツか。一人だけ男が居るって時点で怪しすぎだもんな。
オレはルーシィを背中に庇った。
「ルーシィ攫ってどうしようってんだ!」
「ちょ、ちょっと待って、ナツ」
「攫ったって良いことねえぞ!ルーシィは金かかるんだからな!食費すげえぞ!」
「それはアンタでしょ!?」
痛っ。なんだよ、殴るなよ。殴んならこの男だろ!あ、それはオレがやって良いってことか。いよーし。
「ちょっと!」
「あん?」
振りかぶった拳の前に、女が出てきた。それも一人や二人じゃねえ。
「アンタ何すんのよ、この人に!」
「いきなり出て来て何なの!」
「今暴力振るおうとしたわよね?野蛮人!」
「な、なんだよ……」
女の集団ってなんかこう、エルザとは違う怖さがある。つか野蛮人って何だよ、傷付くじゃねえか。
「オレはソイツがルーシィを攫ったから」
「何よその言いがかり!」
「見ればわかるでしょうに」
「頭悪いんじゃない?」
「言えてるー」
「る、ルーシィ」
「うわ、泣いたわ」
「情けなー」
「泣いてねえよ!」
「ああ、はいはい」
ルーシィは小さいガキにするみてえに、オレの頭をぽんぽんと撫でた。ムカつくけど、なんか落ち着く。
「あたし攫われてなんてないわよ。どうしてそんな風に思ったの?」
「……帰ってこなかった。すぐ戻るって言ったじゃねえか」
言葉にするとマジでガキみてえだ。情けねえ。
けど、仕事だって行きてえし、早く帰ってきてもらわねえと困るだろ。だから探して――。
……いあ、仕事に行かなきゃならねえのは、ルーシィを探してたときに出来た理由だ。
わかってる。オレは我慢できなかっただけだ。
ルーシィが戻ってこないこと。
オレの隣に、居ないこと。
ルーシィの手首は細い。掴んで軽く引っ張ったら、ルーシィはバツの悪そうな顔をした。
「あ……それは、えと。うん、ごめん」
「何してたの?」
ハッピーがルーシィを見上げて訊いた。チラッとだけ男を見てから、ルーシィが右手を上げる。
「ここが移動本屋ってのは知ってた?あの女の子の中に埋もれちゃってる人が、店主さんで。各地を転々としながら商売してるんだって」
「ふうん」
「で、行く先々で、まあ、あのとおりになっちゃうらしいの」
あのとおり……ああ、埋もれてることか。なんでこの女どもは群がってんだ?
首を捻ったオレの足元で、ハッピーが感心したような声を出した。
「モテるんだねー」
「……ふーん」
なるほどな。そういえばルーシィと初めて会ったときにも、こんなんなってる奴居たっけ。