改めて見ると、まあ、そうだな。顔の良い奴って感じだ。でもこれ、異常じゃねえか?
「魔法か?」
「違うみたい。あたしも驚いたんだけど、ホントただ単純に、モテるみたいね」
肩を竦めたルーシィは、周りの女どもとは全然違う目をしてた。興味ねえんだな。うん、ルーシィだし。心配なんてしてねえけど。つか心配って何のだ。
「で、それとお前とどう関係あんだよ?」
「護衛をね、依頼されたの。乱闘になっちゃうことがよくあるんだって」
「護衛?」
「その代わり、本を半額で売ってくれたの!ほら見て、良いでしょ!」
「半額……」
ルーシィは袋に入った本を見せびらかしてきた。そんなモンはどうでも良いし、適当に流す。
そうか、それであの看板、魔導士にしか読めなかったのか。一応、魔導士をおびき寄せてるってのは当たってたんだな。
あれ、ちょっと見ない間にあの男、女どもに流されて壁際に追い詰められてんじゃねえか。ルーシィ……はのほほんとしてんな、おい。
「働かなくて良いのか?」
「あ、あたしが守るのは本なの。角が立つから、お客さんの相手はしなくて良いって言われたわ」
「へえ。手伝うぞ」
早く終わらせて……って、まさかこれ、店閉めるまで帰れないのか?
「アンタと本屋は相性悪過ぎるでしょ」
「何時帰れるんだよ。オレ仕事行きてえ」
「誰か代わりになれる人が来たら帰れるけど」
「オレはイヤだぞ」
「だからアンタと本屋は相性が」
「ん?」
この匂い。
「身代わり来たぞ」
「え?」
「わあ、思ったよりちゃんと本屋だ」
入り口に、レビィとエルザが顔を出した。ハッピーの尻尾がくねくね動く。
「エルザ、レビィ!こっち!」
「ハッピー。ルーシィは見付かったんだな」
「あ、なんか迷惑かけちゃって」
「いや、良いんだ。無事で良かった」
「やっぱり普通に本屋に居たんだね、ルーちゃん。本屋にだったら一日中居ることくらい当たり前だよね」
「それはあたしには当たり前じゃないけど……」
オレはルーシィの肩を掴んで、入り口に向かって押した。
「よし、後は頼むな!」
「ちょ、ちょっと、ナツ」
「え?何?」
「後とは何だ?」
「そこの店主に聞いてくれ!」
あ、なんか掴み合いになってる。エルザも居るし、乱闘にはちょっと混ざりたい……気もしたけど、さっさとテントを出た。このままじゃ何時まで経っても仕事行けねえ。
「ルーシィ、仕事行くぞ」
「あ」
「あ?」
「えと、うん。行く。けど、ちょっと先行ってて」
ん?なんだこの、歯切れ悪い感じ。
「駅で待ち合わせ、ね!」
「んんー?怪しいな」
「怪しいね」
「なんでもないから!先行ってて!」
何そわそわしてんだ。
ルーシィはカツカツ歩き出したけど、オレはその後ろを付いてった。もちろんハッピーも付いて来る。すれ違った女どもがイケメン本屋だのなんだの言いながら公園に向かってった。
ルーシィは戻るつもりじゃ……ねえみてーだけど。あ、振り向いた。
「ちょ、付いて来ないで」
「なんでだよ」
「や、その、良いから。後で合流で良いでしょ」
ムカつく。そんなの良いわけねえだろ。
ルーシィの爪先がまた前を向く。逃げそうだ、と思った瞬間、手がルーシィの腕を捕まえてた。
「おい、ルーシィ、何が」
「放しっ……」
ぐぅううう、って……なんだこの音?あ。
「腹減ってんのか?」
ルーシィは中途半端に口を開いたまま固まった。顔が真っ赤になってく。
「やだぁああ……」
「んだよ、そんなことか」
腹が鳴るくらい、別におかしいことじゃねえだろ。飯食ってねえんなら。
「でも凄い音だな」
「地鳴りみたいだよ」
「信じらんない、放してよ、もう!」
言われて放す奴なんて居ねえよ。
「行こうぜ」
「だから、あたし何か食べてから行くから、先に――」
「飯食いに」
お、ルーシィの腹が返事した。
「わ、わわわわわ」
「誤魔化せてないよ、ルーシィ」
「ぷぷっ、面白ぇな」
「うう、泣きたい……」
「鳴いてるじゃねえか」
「オイラも同じこと思った」
項垂れたルーシィを連れて、ギルドに戻る。仕事はまず飯食ってからだ。
待ち構えてた請求書の金額に、ちょっとだけ、涙が出た。