しゃっくり





今の今まで普通に話していたナツが、突然肩を跳ねさせた。

「っく」
「へ?」

妙に可愛い声でしゃくり上げる。本人はきょとん、とした表情で、自分に起きた現象が飲み込めない様子だった。

「あん?オレ、ひっく!」

ぱちぱち、と瞬きを繰り返す。固まったように動かない彼に、ルーシィはぷっ、と吹き出した。

「あんた、可愛いしゃっくりするのね」
「かわ、っく!……変なこと言、っく!」

しゃっくりの直後、もう出ないかどうか警戒しながら発言するも、裏切られて眉を寄せている。一瞬驚いたような顔をするのが堪らなく可愛らしい。
普段思い通りに動いてくれない分、可愛いと余計に愛らしく思える。ルーシィがにっこりと微笑むと、テーブルの上で魚を齧っていたハッピーがぷるぷると震えた。

「ハッピー?」
「な、ナツが……しゃっくりしてる」
「そうね。でもまあ、こんなのすぐ、」
「みんなぁー!ナツがしゃっくりしてるー!!」

猫の叫びに、酒場の全員が注目した。シーン、と静まり返ったギルド内で、ナツがひっく、と頭を揺らす。

瞬間、空気が轟いた。

「嘘だろ!?」
「またか!」
「避難しろ!対応できる奴は今すぐかかれ!」
「え、な、何……?」

右往左往する仲間達に呆気に取られて、ルーシィはナツと顔を見合わせた。明らかに不貞腐れた彼が何か言うよりも先に、ハッピーが「ルーシィ、逃げて!」と警告を発する。

「ナツのしゃっくりは炎が出るんだよ!前回はギルドの中がメチャクチャになったんだ!」
「昔の話だろ、今はちゃんと制御くらいできるってのっ、ひっく!」

ぼふ、と炎が水平に噴き出した。狙ったんじゃないかと疑うほど、綺麗にハッピーを直撃する。

「うぎゃああああ!やっぱりぃいいい!」

燃える猫が火を消そうと転げまわる。ルーシィはそろそろと後退った。

「今のはちょっとした、っく!間違いだろ!えっく!」
「こっち向くな!」

気が付けば、おのおの皿やらフライパンやらを翳してナツを包囲していた。何も持っていない――その上何も着ていない――グレイがガン、と椅子を蹴る。

「さっさと止めるぞ!ジュビア!」
「はい、グレイ様!」
「どわっ!?」

水の塊がナツを飲み込んだ。もがく彼がぶくぶくと泡を出す。

「何してんの!?」
「水を飲ませる。常套手段だろ」
「それってこういうのだった!?」
「んんんー!!」
「ね、ねえ、もう良いんじゃない?死んじゃう」
「ちっ、なかなか死なねえな」
「ちょっと!?」

ぱしゃん、と軽い音を立てて水が割れる。放り出されたナツはその場にぼとりと落ちた。

「げほっ、何しやが、えっく!る!」
「ダメか」

さほど残念そうでもなく、グレイが首を振る。濡れ鼠になったナツが小さな炎を吐いた。






しゃっくりはそうでもないですがくしゃみの個人差って凄いですよね。たまに本気かって思うようなくしゃみする人居る。


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