前マスターは伊達じゃなかったのかもしれない。マカオはてきぱきとバリケードの指示を出しつつ、みんなを見回した。

「次は!?」
「息を止めてみるってのは?」
「ああ、よく聞くよな」
「よし!ミラちゃん、濡れタオル!」
「はい、どうぞ」

丁寧に折り畳まれたそれを受け取って、マカオはそろそろとナツに近付いた。まるで野生動物でも捕まえるかのように腰を落として、タオルを投げ付ける。

「んぶっ!?」
「かかれ!」

ナツの顔を覆ったタオルを、男数人が押さえつける。
殺人事件が起きようとしていた。

「ん、んんんー!んぅー!」
「ナツ!」
「おいルーシィ」

駆け寄ろうとしたところを、グレイに止められる。「苦しくなったら自分で燃やすだろ」という言葉が終わらないうちに、ぼふ、と炎が上がった。

「うわぁあ!」
「ほらな」

とりあえずほっとして、胸を撫で下ろす。グレイが飛んできたタオルの残骸を払い落としながら訊いてきた。

「ルーシィは知らないのか?しゃっくりを止める方法」
「えー……横隔膜の辺りを押さえるとか」
「ほう。おーい、腹を殴れってよ」
「違うわよ!?」

実際何人かは殴ろうとしたようだが、散々捏ね繰り回されたナツも臨戦態勢に入ったらしい。ざわざわと遠巻きになっていく仲間達の中で、マカオがナツを制するように両手を出した。

「ナツ、どうどうどう」
「オレは暴れ馬か!?」
「よし、穏やかな方法から行こう。まずは飛び跳ねろ!」
「えっく、え?こ、こうか?っく!」
「ダメだな。次は砂糖だ砂糖!舌出せ!」
「お、え、えほっ!っく!」

そういえば舌に砂糖を乗せる、というのも止める手段として知られていることではある。が、これは果たして効果があるのだろうか。
よろよろと猫が近寄ってくる。ルーシィは砂糖の袋ごと口に突っ込まれたナツを遠巻きに見ながら呟いた。

「ねえこれ、このせいでギルドがメチャクチャになってない?」
「……」

煤けたハッピーは無言だったが、ルーシィとて何か返答を期待したわけではない。濃度の高い砂糖水で濡れる床をマックスが絶望的な顔で見ているのを一瞥して、再度ナツに視線を向けた。
砂糖を吐き出すナツに、ウェンディが果敢に挑戦しているのが見えた。彼の後ろから、口元に両手を当てて一声叫ぶ。

「わっ!」
「うお!?わ、ウェンディか。ビックリした」
「止まりました?」
「……おお、さんきゅ!止まったみてぇ、えっく!くそ!」
「うぉお、また炎かよ!」

驚かせるのは少し面白そうだった。足元にこっそり穴を掘ってやろうかと鍵を取り出す。
顔を上げると、今のしゃっくりで出た炎がルーシィの前の人垣を割った。ナツと目が合う。

「ルーシィ、そんなとこに、っく!居たのか」

こっちの動きを認識されていたら、インパクトが損なわれる。後ろ手に鍵を隠すルーシィに、ナツはふらりと寄って来た。

「え、こっち来ないで」
「酷ぇ!お前、なっ!?」

半分悲鳴のような声を上げて、ナツが宙に浮いた。砂糖水で滑ったのだろう、頭から突っ込んでくる。

「わあ!?」
「ぐも!」

引き倒されて、背中に衝撃が走る。止まった息を吐き出すと、胸に違和感があった。

「な……」

桜色が、埋まっている。

彼は埋もれたまま、もごもごと呟いた。

「あ、止まった」
「っ、っ、っ、きゃあああああ!」
「へぶし!」

この日以来、『ナツのしゃっくりはルーシィの乳に埋める』がギルドの教訓の一つになったことを、ルーシィはまだ知らない。






ギルドの標語って書きそうになった。
お付き合いありがとうございます!



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