「ふぁ!?」
「逃げんなよ、傷付くだろ」
「ちょ、待って!何!?何しようとしてんの!?」
「何って……まあ良いから動くなよ。そしたらわかるだろ?」
「わかっ、ちょっ、待って!待って、待っ……!」
ナツが強引に近付いてく。ルーシィが目を閉じた。なんで。
やめろ。ダメだ。それは、
「……んな殺気立つなっつの」
「ぇ、え?」
「んあ、なんでもねえ」
気付いてやがった?それとも、今気付いた?――どっちでも良い。
ナツはルーシィから離れて、ぎろりと睨んできた。ふざけんじゃねえよ。怒ってんのはオレの方だ。いあ、怒ってる、てのは違うな。オレは今まで怒ったとき、こんな感情じゃなかったはずだ。
昂り過ぎて身体が震える。殴っても蹴っても燃やし尽くして灰にしても、落ち着きはしない。こんなの怒りじゃない。なんて言うものかはわかんねえし、知っても意味ねえから知りたくない。
「あ、な、ナツ?やだ嘘、今の」
ルーシィが赤い。腹が立つ。
オレは舌打ちして吐き捨てた。
「ルーシィは黙ってろ」
「おい、ルーシィに当たんなよ」
「当たってねえよ、わかってる。悪いのは全部てめえだ」
「悪い?」
ナツはバカにしたような目で見やがった。
「オレの何が悪いってんだよ。ルーシィとちゅーしようとしただけだろうが」
「ルーシィに、だ!事実を捻じ曲げんじゃねえ!」
ルーシィが変な声で鳴いたけどほっとく。よろよろして、ちょっとだけど離れたから好都合だ。ナツの手の届かないとこにやらねえと、マジでコイツ何するかわかんねえ。
オレはナツの行動を止める意味でも、距離を詰めて胸倉を掴んだ。前にもやった。でも前とは全然違う。
オレは今、心底本気でコイツを排除したい。
ほとんど考えずに飛ばした拳は、難なくナツの頬に入った。衝撃がマフラーを掴んでたオレの腕にも伝わって放り投げそうになったけど、堪えた。倒れさせてなんかやんねえ。
「ってぇ!くそ、避けられなかった!」
「ルーシィに手ぇ出すんじゃねえ」
「あぁ?」
額を突き合わせて、オレは出来るだけ小声で言った。コイツのバカでアホで足りない頭に突き刺さることを念じて。
「ルーシィはオレんだ。てめえには渡さねえ」
ルーシィのこと、オレがナツと同じ意味で好きなのか、わからなかった。考えても上っ面だけで、そうじゃないはずだって思い込んでた。
けど、ナツがオレの目の前でルーシィを盗ろうとするから。
誰かに奪われそうなルーシィなんて見せ付けやがるから。
オレがどんなにルーシィに惚れてんのか、最悪の方法で理解した。独占欲だ、嫉妬だ?くそ、丸っきりコイツと同じじゃねえか!
いあ、ナツがルーシィに惚れてるからじゃない。オレがルーシィに惚れてるから、ナツもルーシィに惚れてんだ。
ナツは一瞬目を丸くしただけで、すぐにオレに頭突きをかましやがった。
「その言葉、そっくりそのまま返してやんよ!」
「ぐぅっ!」
こんの石頭!意識が遠のいたじゃねえか!
オレは歯を食いしばった。ナツと至近距離で睨み合いながら、提案をする。
「勝負だ。負けた方はルーシィを諦める。それで良いだろ」
オレならそうじゃなきゃ納得できねえ。ナツが先に自覚してたんだろうがなんだろうが、順番なんか関係ねえ。
ナツは変な顔をした。
「……お前はオレに勝てねえぞ」
なんだ?まさか哀れんでるつもりかよ、上等じゃねえか。
「一度勝ったくらいで調子乗ってんじゃねえぞ」
こんなモチベーションの高さで負ける気なんか、これっぽっちもしねえ。
数分後、地面に倒れてるなんて、オレは想像も出来なかった。