「痛ぇ……」

転んだのは良かったかもしれねえ。ちょっとだけ、ほんの少しだけ、落ち着けたような気がする。
でもすぐに立ち上がる気にはなれなかった。目だけ動かして、ここがどこだか確認する。
風の音。誰の気配もない。マジでどこだ、ここ。
地面すれすれの景色ってのがわかりにくいのかもしんねえな。立ち上がれば、多分すぐわかる……けど、起きたくねえ。

「ナツ!」
「……ハッピー」

空の上から声がする。近くはないけど、はっきりこっちを見てるな。はあ……このままってわけにいかねえな、仕方ねえ。
土やら砂利やらを落として、オレは起き上がった。知ってる建物が見える。町外れってとこか。
ハッピーが下りてきた。

「ナツ、大丈夫?どうしたの?突然」
「ん……」

誰かに話すにはもう少し時間が欲しい。頭の中がぐちゃぐちゃだ。つか、考えたくねえし。
目を逸らしたオレに、ハッピーは追及してこなかった。ただ、困ったように「戻ろうよ」とだけ言う。

「ルーシィ達もナツのこと探してるよ」
「……二人で?」
「あい」

なんだよ。ハッピーがここに居るってことは二人きりじゃねえかよ。ホントにオレを探してるかどうか、わかんねえな。
店先を覗きながら歩くあいつらを想像して、オレは奥歯を噛んだ。でもルーシィは、本気でオレのこと心配してる。間違いねえ。
正直まだ、あいつらと顔を合わせる自信はない。どう接して良いのかわかんねえし。けど、このまま放置して家に帰るわけにもいかねえし。
オレは渋々、町の中心に向かって歩き出した。聴覚と嗅覚を集中しながら、できるだけゆっくり。これで近くなればわかる。いきなりばったり、は避けられるだろ。
ハッピーは何も言わないで付いて来てくれた。オレの様子がおかしいの、気になるだろうに。ちゃんと説明できるようになったら、真っ先に話すからな。

「あ」
「ナツ?」

意外と近い。こっちの方に歩いて来てる……いあ、立ち止まってる?何やってんだ。
オレは気配を辿ってそろそろと移動した。十字路の角にある家の陰に隠れて、壁に貼りつく。こそこそしてんのは性に合わねえけど、こっちから出て行くには心の準備ってモンが要るだろ。そのためだ。うん、そう。

「何やってんの、おじちゃん」
「誰がおじちゃんだ」

家の前で道に落書きしてたガキが、不思議そうに見上げてくる。オレは手で追い払って、二人が居るっぽい方向を覗き見た。風向き良し。向こうからは多分、気付かれない。
静かにするよう、ガキとハッピーに対して人差し指を立てる。ルーシィとナツは……やっぱり居る。耳を澄ますと、ルーシィが戸惑ったような声を出してた。

「ナツ……?」
「放っておいたって、すぐ戻ってくるだろ」

なんだ?ナツが怒ってる?ルーシィの手首、掴んで……あ、ルーシィ、顔顰めた。痛ぇんだ。

「ちょ、ちょっと。放してよ」
「オレよりアイツの方が良いのか?」
「何言ってんの?どっちもナツじゃない」

何だ、この状況。いあ、多分、オレを探してるルーシィにナツが嫉妬してんだろうけど。嫉妬……。
オレは音に出さずに咳払いした。何つーんだ、これ、優越感?ちょっと気分良い。いあ、ちょっとどころじゃねえかも。
ルーシィはナツを下から睨み上げた。

「あたしは、出て行ったのがあんたでも追いかけてるわよ」

…………。
そりゃ、そうかもしれねえけど。なんかそれ、嬉しくねえなあ。
ナツの顔が明るくなる。け、あんな嬉しそうな顔しやがって。別にオレよりお前って言われたわけでもねえだろ。バカ。
ああアイツ、ホントにルーシィのこと……あ。ヤバイ。ナツにそんなこと言ったら、勘違いすんじゃ……!

ぞくりと背筋が凍って、身体が強張る。

ナツが、ルーシィの唇目掛けて、動いてた。






平等ルーシィ。でもそれを受け取る側にとって平等とは限らない。


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