オレとナツの前にあるファイアドリンク。オレのはもう半分以下、ナツのは全く減ってない。ルーシィのジュースを飲んでるからだ。
「ルーシィってホント変だよなー」
「ヘンー」
「あんたに言われたくないんですけど!?」
「じゃあ、妙」
「もっと酷い!」
ナツはハッピーと一緒にルーシィをからかいながら、ジュースを揺らしてる。なんでルーシィ、気付かねえんだよ。鈍すぎるだろ。
脳みそに薄っぺらい膜が張ってるみたいな感覚で、オレはそう考えてた。表面だけ、ルーシィがおかしいって繰り返す。
違うんだ――ホントはわかってんだ。
これ、オレがいつもやってることだ。ファイアドリンクの炎が消える直前まで、ルーシィのジュースを弄る。口は付けるけど喉が渇いてるわけじゃないから、ほとんど飲まない。ルーシィは気付いてないんじゃなくて、慣れてるんだ。
今までは疑問にも思わなかったけど、ナツがやってんの見ると気になる。昨夜ナツがルーシィに……じゃねえかって思ったせいだ。くそ。
オレはナツの頭のてっぺんからジュースを持ったまま離さない手まで、じっくりと観察した。随分と楽しそうだ。さっきから笑ってばっか。
こうして見てると、やっぱそうかもしれないって思っちまう。でもそうじゃないだろうな、とも思う。だって、 ナツの行動ってオレの行動と被ってるだけだからな。いあ、ナツはオレなんだから当たり前なんだけど。
そうだよ。ルーシィに変わったとこがないんだから、オレはこれが普通なんだ。ナツがルーシィしか見てないような気がすんのも、ベタベタくっ付いてるように見えるのも、全部気のせいだ。
オレの気のせい、だ。うん、そうだ。うん……。
「はあ……」
「どうしたの?」
「へっ、あ、あい?」
やべ、声が裏返った。ルーシィがいきなりこっち向いたりすっからだ。
「あい、って。何?何か隠してるの?」
「なっ、なんでそうなるんだよ!?」
「だって、あんたがハッピーみたいになるのって、ねえ?」
「あい。後ろめたいときだよね」
「そんな癖あるか、オレ?」
ナツがイヤそうに引き攣る。オレだって初耳だ。
「何よ。言いなさいよ、ナツハッピー」
「いあ、ハッピーナツだろ。それじゃオレみたいなハッピーじゃねえか」
「オイラ、燃えてきたぁー!」
「マネしなくて良いっつの!」
お、ナツ達の話がズレてきた。このまま忘れてくんねえか……って、そう上手くは行かねえよな。
でもナツがルーシィのことどう思ってんのか探ってた、なんて言えるわけねえじゃねーか。誤魔化すにはどうしたら良い?くっそ、頭回んねえ!
「あ、怪しい!」
ルーシィが身を乗り出してくる。うわ、完全に楽しんでやがる。オレがこんな悩んでんのはお前のせいでもあんのに!……いあ、違うか?うがー、どうでも良い!何か一言言ってやんねえと気が済まねぇ!
「お前な、」
「おいルーシィ」
ナツが唸った。ルーシィの腕を引く。
「近付き過ぎだ」
「へ?」
「そっちもオレだけど、ルーシィの後ろ頭見てんの、しっくり来ねえんだよ」
頭が真っ白になる、ってこのことなんだな。
オレは気が付いたときには叫び終わってた。
「止めろよ、そういうの!!」
「ぇ……ナツ?」
遅れて、ガタンと椅子が倒れる。ルーシィの丸くなった目に、はっとした。
「あ……」
何か言わねえと、なんて考える隙はなかった。ルーシィの腕が、まだナツの手に掴まれている。そこにぐ、と力が加わったのを見て、オレは駆け出した。
「ナツ!?」
何も考えられなくなるくらい、走りたかった。全力でギルドを出て、とにかく足を動かす。
なんだよ、あの独占欲。
マジでそうなんじゃねぇか、アイツ。
でもオレは?ルーシィの、こと。
息が切れる。でもまだだ。まだオレは考えてる。考えられる――。
「おあっ!」
頭より先に、足が縺れた。