ナツはオレには構わずベッドの方を気にしてる。くっそ、ルーシィの奴マジで熟睡してんな。オレも眠くなってきたじゃねえか。なんでナツは眠くねえんだ。そんなにベッドじゃなきゃイヤなのか？わけわかんねえ。なんでオレがナツを理解できねえんだ。

「お前、ホントにオレかよ？」
「オレにはお前がオレだってのが信じらんねえよ」
「あ？」

失礼な奴だな。いあ、オレもだけど、逆に言われるとムカつく。
ナツは声を低くした。何か大事なことでも話すみたいに。

「お前はなんで床で寝られるんだ？ルーシィがベッドで寝てんのに」
「そりゃ、ルーシィだけずるいって思うけどよ」

でも別に、言うほど本気でずるいなんて思っちゃいねえ。ルーシィの部屋だしな。
ナツはガシガシと頭を掻いた。んだよ、これ見よがしに溜め息なんて吐きやがって、感じ悪ぃな。

「も、良いや。眠いし」
「お前、勝手だって言われねえか？」
「覚えがねえな。じゃあ引くけど、お前もちゃんと床で寝ろよ？」
「オレは初めからそのつもりだっつの」
「張り合いねぇな」
「なんだそれ？」

勝負したかったのか？いあ、それは大きな音がしちまう。ナツはルーシィを起こしたがってなかった。
思わず視線が動く。布団の山がもそりと動いた。やべ、ルーシィ起きたか？

「んぅ……？ナツ？まだ起きてるの？」
「「いあ、寝てる」」
「そぉ……」

また寝た。ツッコミもなく。
オレは笑いを堪えて手の甲で口を押さえた。ルーシィってホント、良い。何してても面白いし、一緒に居ると飽きなくて楽しい。ハッピーは相棒だけど、ルーシィはこう……なんて言ったら良いのかわかんねえな。うん、ルーシィはルーシィだ。
オレは満足して毛布を手繰り寄せた。じっとルーシィの方を眺めるナツに、寝るように言おうとして、

「っ……！？」

ひゅ、と息が喉の奥に押し込められる。なんだその顔。バカみたいに幸せそうって言うか、え、まさかオレも今、そんな顔してたんじゃねえよな？

それじゃあ、まるで。

こういうことには鈍感な自信がある。けど、そうとしか見えなかった。でもでも、そんなこと、信じられるか？

ナツが、ルーシィに惚れてるみたいだ――なんて。

愕然としたオレを置いて、ナツはくぁっと欠伸した。

「ふぁあ、おやすみ」
「ま、待て。お前、」
「んん……」

ルーシィの呻きはほんの一瞬だったけど、くっきりと耳に届いた。ナツもそうなんだろう、ちらりとベッドを見て、オレに向かって首を傾げる。

「なんだ？」
「……いあ……おやすみ」
「ん、おやすみ」

落ち着け、オレ。勘違いだろ、きっと。暗いし、たまたまそう見えたってだけだ。
毛布を被って、きつく目を閉じる。そうだ、気のせいだ。だって、ナツがルーシィに惚れてんなら、オレもルーシィに……いあ、ねえだろ！
でもそうだとしたら、ナツの今までの行動にも理由が付く……いあいあ、だからねえって！
うわああ、気になる！ルーシィの寝息が大きく聴こえる！なんだよこれ、寝れないだろ！？今どっち向いて寝てんのかな。うぐぐ、こんなんだったら、ベッドに入りたいってのも頷けるかもしれな……ん？

「ぐがぁ……」
「……」

ナツの野郎、あっさりと寝付いてやがる。こりゃ絶対に違うな。なんだ。オレだけドキドキして、バカみたいじゃねえか。
毛布から顔を出す。カーテンの向こうに、月が透けて見えた。