「きゃああああ!!」
「ふぎゃあ!?」

声を出したらそのまま息が吸えなくなった。苦しい。重い。何かが肺の辺りに落ちてきたんだ。何だこれ……人間?あ?オレ!?……ああ、ナツか。
そこまで理解して、オレはさっきまで寝てたことを思い出した。昨夜、ルーシィの部屋に泊まって。オレとナツは床で転がって寝てたはずだ。なんでナツがオレの上に落ちてくんだよ?
振り落として、オレは起き上がった。ルーシィの部屋はもう明るい。目がなかなか開かない――

「このバカナツ!」
「うお?」

胸倉が掴まれる。起き抜けにこんなことされてもすぐに反応できねえよ。ぐい、と引っ張られて、オレはそのまま倒れこんだ。

「や……っ、きゃああ!えっち!!」
「うご!?」

頬に張り手を食らった。目が覚めるどころか混乱する一方だ。でもまあ、今のはオレの右手が悪いんだろう、多分。柔らかかったし。

「いてぇ……朝っぱらから何騒いでんだよ、ルーシィ」

ルーシィって朝強ぇな。寝惚けてんのなんて見たことねえかも。大抵オレより早く起きるし。
ルーシィはオレの鼻に人差し指を突きつけてきた。

「アンタがあたしのベッドに入ってたからでしょうが!」
「…………は?」

なんだって?
オレはルーシィのベッドを見た。起きたばかりで捲れた布団に、ハッピーがまだしがみ付いてた。ふかふかして寝心地良いんだよな。二人で寝るには少し狭いけど、寝れなくはない。知ってる。
でもよ、オレは昨日、床で寝たんだ。そうじゃなきゃ追い出すって、ルーシィが言ったから。

ぴんと来たどころか、ずがんと来た。なんだそれ。オレが我慢したってのに。

「それで、お前、蹴落としたのか?」
「それくらいじゃ足りないんだから、覚悟しなさい!」
「それ、あっちだ。オレの上に落ちてきたから」
「え」

ナツは転がってた。オレがアイツと一緒に吹っ飛ばした毛布に丸まって……って、ああこりゃ、こっちが元から床に寝てたように見えるな。
オレはナツを蹴飛ばした。

「起きろ、てめえ!」
「うー……ヤダ。ルーシィ怒ってるし」
「起きてんじゃねえか!」
「代わりに怒られといてくれ」
「オレだってヤダよ!」

もぞもぞと動いた芋虫みたいなナツが、ひょこりと顔を出した。

「悪ぃ。便所行った後、間違えた」
「どこをどうすりゃ間違えんだよ!」

コイツ絶対わかっててやったぞ!同じオレだからわかる!
こう見えて、オレは眠いときでも一度起きればちゃんと意識ははっきりしてる。たまに眠いことを言い訳に楽したりするけど、オレが床で寝てるのにそれを跨いでベッドに入るなんて、どう考えてもわざとだ。

「待ってろルーシィ、コイツ引きずり出すから!」
「……なんかもう良いわ」

ルーシィはオレに「ごめんね」と謝った後、肩を竦めた。

「気が削がれちゃった。朝ごはん用意するから、ハッピーも起こしといてね」
「……おう」

もう怒ってねえのか。ルーシィのこの後腐れないとこ、さっぱりしてて良いと思うけど……もうちょっと、怒ってても良いのに。これから二人でナツを叩いたり踏んづけたりすんじゃねえの?そんな簡単に、許して良いのか?

「つまんねえの」

なんだかすっきりしねえ。パジャマのままキッチンに向かったルーシィの背中を見送って、ナツが毛布から這い出した。

「ルーシィならあんなモンだろ」
「にしてもあっさりし過ぎじゃね?」
「一発殴れば大体気が済むじゃねえか」
「ああ……って、殴られたのオレだぞ!?」
「乳触ったんだからそっちはそっちで自業自得だろ」
「うぐ」

やっぱ乳だったのか。まあそれなら仕方ねえ……か?んん?
ナツはベッドのハッピーを揺さぶった。

「おーいハッピー。朝だぞー」
「にゃー……」
「おい、今の聞いたか?にゃーって言ったぞ、ハッピーが」

声は楽しそうだけどこっちを向かない。不自然だ。
オレはナツの肩に手をかけた。

「お前、なんでルーシィのベッドで寝てたんだよ」
「言わなかったか?間違えて」
「なんでホントのこと言わないんだ?」

オレにまで嘘吐く意味はねえだろうに。なんかイヤな感じがする。
ナツはようやくこっちを見た。

「……別に。オレならわかるだろ。寝たかったから寝たんだよ」

なんでだろう。オレは全く理解できなかった。この世界の言語じゃないみたいに、頭に入って来なかった。
多分、ナツの『寝たかったから』に違和感があったからだと思う。どうしてか、オレの『ルーシィのベッドに寝たい』理由――『布団がふかふか』とか、『寝心地が良い』とか、『眠りが深くなる』とかじゃ、ない気がしたんだ。






どこでも眠れるけどベッドは格別。


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