じっちゃんは難しい顔をして目を瞑った。
「ふむ……」
オレは思わず隣のルーシィを見た。こういうときはいつも目が合うはずのルーシィは、ハッピーを抱えたままじっちゃんを見つめてる。代わりに、その向こうに居るもう一人のオレと目が合った。
つか、オレ達、なんでルーシィを挟んでんだ。この立ち位置じゃ、ルーシィが主役みてえじゃねえか。
同じこと考えたんだろな、向こうもニヤッと笑いやがった。
「幻覚魔法でもない。様子を見るしかないようじゃ」
「お、おお」
「ビックリした」
「は?」
やべ、意識が完全にじっちゃんから離れてた。えーと、様子を見る?それしかねえのか。今すぐどうにかしなきゃってもんでもねえし、二人でも別に問題はねえから良いけど。ってか、これ、いつでもバトルの練習できんじゃねえか!ラッキー!
ルーシィが不思議そうな顔でちらっとオレを見てから、反対側を向いた。ナツがぱちくりと瞬きする。
「なんだ?ルーシィ」
「こっちのナツは心当たりないって言ってたけど。あんたは?あんまり慌てた様子もなかったし、どうして二人になったのか、わかってるんじゃないの?」
「ん?んー……わかんね。ま、良いじゃねえか。そのうちわかんだろ」
「楽観的ね……」
ん?なんか隠してる気ぃしたけど……ルーシィが気付かないんだから気のせいか?まあ、オレなら隠すわけねえか。
オレは納得して周りを見回した。ウェンディが「傷、治しますか?」と訊いてきたけど、手を振って断る。もう痛くもねえし。
「傷が無くなったらいよいよもって区別付かねえな」
グレイがそばにあった椅子に座りながら、面倒臭そうに言った。点々と落ちた服をジュビアが拾ってる。げ、匂い嗅いだように見えたぞ。
ハッピーが唸った。
「そうだよね、せめて明日から違う服着るとか」
「ちぇ、面倒くせえな。つか、別に区別しなくても良いだろが」
両方オレなんだから、どうせ一緒に行動するんだろうし。そう思って言うと、ナツも大きく頷いた。
「だな。呼び方も、ナツで良いし」
「なんかややこしくない?」
ルーシィが頬を掻く。それに、ナツが鋭く反応した。
「ややこしくない」
「え。な、何?」
「おい?」
いきなりルーシィを睨みやがった。いあ、睨んでんのとは違うか。吊り目だから一瞬そう見えんだよな、コイツ。って、オレだけど。
「絶対、両方ナツって呼んでくれ」
「え、あ、うん……?」
「ナツって呼ばれなくなるとイヤだ。お前だってそうだろ?」
言われて、考えてみる。『ナツ』以外の呼ばれ方……ナツ君とか、ナツさんとか、ナッちゃんとか?ルーシィから?
「……すんげえ、イヤだ」
ぞっとした。ルーシィは会ったときからオレのこと、『ナツ』って呼んでたんだ。それ以外、考えられねえ。オレがオレじゃなくなるみたいだ。
ナツも想像したのか、沈んだ表情で拳を握った。
「もし、お前が『ナツ』って呼ばれて、オレが『ナツ様』だったら」
「おいこら」
「お前だけがオレみたいで気持ち悪ぃし」
「……ん」
そうだ。片方が『ナツ』ってこともあるんだ。だからナツはルーシィに『両方ナツ』って言ったのか。
ルーシィは「わかった」と首を縦に振って、ハッピーを床に下ろした。