邪魔者を排除するなんて、一つしかねえだろ!勝負だ!
オレはぐ、と片足を踏み込んだ。腰の回転を最小限に、まずは奴の左頬に一撃。
「!?」
避けられた!?くそ、読まれた。オレだからか。……って、オレじゃないはずだろ!
「うっ」
何だ今の、肩で攻撃された?でも威力はねえ――あ、体勢崩すのが目的か!やられた!
「んぎ!」
「顔に出過ぎだぞ、お前。ほいほいっと」
「くそっ、てめえっ!」
「おっと危ねえ……なぁんてな」
当たらねえ。なんだよ、これ。オレ同士なのに!一方的に殴られるって、何なんだよ!
半分ヤケだった。大きく振りかぶった拳はあっさり避けられて、オレは床に前のめりに倒れた。
どたん、って音がバカみてぇに響く。
負けた――。
いあ、終わっちゃいねえ。まだやれる。ここで勝たなきゃ、コイツにオレの居場所が盗られちまう!
立ち上がったオレに、奴は拳を構えた。
「まだやるか?」
「……何がしてえんだよ、お前は」
「ん?何が、って?」
「どうするつもりなんだよ、オレを追い出して!」
「追い出さねえよ?」
「は?」
奴は脳天気な顔で腰に手を当てた。
「オレもナツ、お前もナツ。それで良いじゃねえか」
「それで良い……?」
「何もたくらんでねえよ。オレは妖精の尻尾だからここに居てえだけだ」
あ。同じだ。
やっぱコイツ、オレなんだ。
肩の力が抜ける。オレは頭を掻いた。オレが二人、か。
「仕方ねえな。認めてやんよ」
「おう。オレならそう言うと思った」
手首がずきっと痛い。思わず顔を顰めると、ルーシィとハッピーが寄ってきた。
「大丈夫?」
「自分同士で喧嘩するなんて、ナツらしいって言えばナツらしいよね」
「おう……?」
左腕が勝手に持ち上がる。見ると、もう一人のオレが、オレの拳を自分の頬に押し付けてた。
「いてー。ルーシィー」
棒読みでそれだけ言って、奴はオレを突き飛ばした。転ぶほどじゃなかったけど、グレイにぶつかりそうになる。
「うお、こっち来んなよ、弱い方のナツ!」
「弱っ!?……って、それは後だ!おいナツ、てめぇ、何しやがる!」
他に呼びようねえもんな。でも自分の名前呼ぶのって、違和感がすげえ。
もう一人のオレは、ルーシィしか見てなかった。頬を突き出して、人差し指でふにふにと押す。
「ルーシィ、ここ痛ぇ」
「いや、痛いわけないでしょ。見てたからね」
「なでなでは?」
「はい?」
「なでなでー」
ルーシィの手を取って、頬に擦り付ける。数秒も経たないうちに、しゅば、とルーシィが後ろに飛びのいた。
「なっ、なな、何してんのっ?」
「そっちのオレばっか心配されててずりぃもん」
「アンタは怪我してないでしょうが!」
「おっ、オレだって怪我なんかしてねえよ!」
怪我って言うほど酷くねえ。そんなこと言われたら、さっきのグレイもそうだけど、マジでオレが弱いみてぇじゃねえか。変な呼び方が定着したらどうしてくれる。
オレはもう一人のオレに――ナツに対して、びしりと指を突きつけた。
「再戦するぞ!次勝った方が『強い方のナツ』だ!」
「おっし、泣き言言うなよ!」
さすがにオレだ。同時に、拳から炎が出る。鏡みてえな感じになんねえのは、向こうも右利きだからだな。
「「行くぞ!」」
「やめんか」
「「ぷぎゅ!?」」
オレ達を押し潰したのは、じっちゃんのでかい拳だった。