「この変態氷野郎!」
「んだと、このバカアホ炎が!」
喧嘩の理由なんて覚えちゃいない。多分、グレイだって同じだ。
胸倉掴むのと拳を出すのはほぼ同時。いあ、攻撃の方が早いくらいだ。そうしてても、グレイ相手じゃ大体九割の確率でカウンター食らっちまう。ああ、ほら。まただ。ガキの頃から喧嘩してるせいか、考えてることが一緒になんだよな。つーか気持ち悪ぃんだよ!
「ぐっ、てめ!」
「む、うぅうう!」
口を引っ張られたら引っ張り返す。それが礼儀ってもんだ。全力でやってやろうじゃねえか!そっちが片手ならこっちは両手だ!
「いはっ、ふぬぅ!」
あ、やべ。グレイが脱ぎ出した。ちょっと距離取らねえと、オレまで変態臭くなっちまう。
「グレイ様、頑張ってー!」
「ナツぅー、ファイトー!」
「おう!」
グレイの腹を蹴飛ばした反動で、オレは転がった。間髪入れずに立ち上がって、ハッピーの声援に親指を立てる。
ハッピーって応援してる時楽しそうなんだよなぁ。一緒に戦ってる気がしてくんだ……って、あれ?
「へ?」
ぴん、とした青い耳。その向こうに。
「って、え?」
オレは目を擦った。でも何も変わらなかった。
カウンターに座ったルーシィに、男が一人飛び付いてる。
ルーシィはあんまり驚いた感じがなくて、それどころか完全にソイツを、
「余所見とは余裕じゃねえか!」
「がっ」
頬に一発食らった。痛ぇ。くそ。ああもう、邪魔すんじゃねえよ。ルーシィとアイツ、どうなった。
このくらいの距離なら、余裕で会話が聞こえる。
「そろそろ仕事行くか。オレ選んで良いよな?」
「そうね。でも変なの選ばないでよ、ナツ」
うん、そうだよな、ルーシィ。それ、オレだよな。
…………。
「オレぇええええ!?」
「なんだよ、とうとうおかしくなった……って、あ?ナ、ツ?え?お前?」
やっぱオレだけがオレに見えてるわけじゃねえんだ。んう、なんかややこしいな。
と、とにかく、グレイの相手なんてしてる場合じゃねえ!
「ルーシィ、離れろ!ソイツ、偽者だ!」
「えっ?え、え?ナツ?」
「あん?」
こっちを向いたルーシィとオレじゃないオレ。なんだこれ、マジでオレじゃねえか。鏡みてえだ。
あ。アイツ、笑いやがった。わかんねえくらい、一瞬だけ。
「誰だ、てめえは!」
「オレはナツだ」
「ナツはオレだ!」
「え、ええ?何これ……」
「ルーシィ、下がってろ」
うわ、なんでルーシィを庇ってんだよ。これじゃあオレの方が偽者みてえじゃねえか。
誰かが変身してんのか?ミラ……居る。じゃあマカオか?あれ、居るな。
そうだ、匂い!……よくわかんねえ。なんだこれ。調子おかしい。
「ウェンディ!」
「は、はい!」
「お前なら匂いでわかんだろ!オレがナツだよな!?」
「あ、あの……同じ匂いがします……」
「ぬぁに!?あっ、なら、ジェミニか!?」
「違うわ」
ルーシィが腰の鍵を揺らした。やっぱその線を疑ったか。でも違うなら、コイツは誰だ?