「新築になったみてーだ!」
「大袈裟ね、ナツ」

ケリーはくすくすと笑いながら、折り畳み式の箒を荷物の中に押し込んだ。

「ケリー、良いお嫁さんになりそうってよく言われるの」

ナツの反応と彼女の瞳から逃げて、ルーシィは天井を見上げた。しかしまた、ケリーに呼びかけられる。

「ルーシィはお掃除好き?」
「あたしは……人並みに」
「ケリーはお掃除大好きよ。ルーシィのおうちもお掃除する?」
「え。ううん、大丈夫。ありがとう」

少し引っかかる発言だったが、ルーシィは笑顔を返した。これで解散になるだろう。
ほっとしたのも束の間、ナツが目の前に割り込んできた。

「ケリー、今日どうすんだ?礼もしてえし、オレんち泊まってけよ」
「は、はあああ!?何バカなこと言ってんのよ!?」

咄嗟にマフラーを引っ張って、ルーシィはすぐ手を離した。口を出すことが、そのままナツへの想いを肯定することに繋がりそうで、尻込みする。

「んだよ、ルーシィ?」
「あ……と、泊まるなら、あたしんちに」

これは常識的な提案だ。頭を素早く回転させて、ルーシィは不自然なところがないと判断した。しかし脳を全力で働かせているために口まで神経が行き届かない。
しどろもどろになった挙句に声が震えたルーシィに対し、ナツは冷たく言い放った。

「お前関係ねえだろうが」
「っ!?」

身体が引き裂かれて、視界が砕ける。バラバラになったナツが、酷く嫌そうな顔をしているのが見えた。
空気が冷たくて固い。黒く重い何かが自分を覆って、周りには何もなくなってしまった。逃げ出したいのに、それも出来ない。

ここはナツの家。ケリーが掃除したナツの家。
ルーシィとナツとの繋がりも、綺麗さっぱり消えてしまった。

ショックが強すぎて、涙も出て来ない。数秒もすれば塵になって消えるかもしれない、と頭の片隅で誰かが嗤う。それも良い。それが良い――

「ケリー、もう宿決めてるの。二人ともありがとう」
「え」
「そうなのか。残念だな」

急に世界が戻ってきて、ルーシィはよろめいた。脳が点滅している。呼吸を忘れていたらしい。
なんとか浮上はしたものの、喪失感はそのままだった。ナツが彼女にアプローチした事実は変わらない。血液が元のように流れ出すまで、俯いて瞬きを繰り返す。

「お礼も良いわ。ケリー、こういうおうちお掃除するの大好きだから。ありがとう」
「って、お前が言うのかよ。こっちこそありがとうな」
「ケリー、ありがとー!」

ハッピーの声色は無邪気で温かく、胸に沁みた。青い子猫はぴこぴことしか形容の出来ない可愛らしさで両手を振っている。
ようやく口元が緩んだとき、ぽん、と肩を叩かれた。

「じゃあ、帰りましょ、ルーシィ」
「あ、うん……」

ケリーに促されるとは思ってもみなかった。背中が押されて、爪先を玄関に向けさせられる。

「わ、ちょ、自分で歩けるから」
「一緒に帰るのか?宿ってどこだよ」
「大聖堂の近くよ。ルーシィのおうちがどこかは知らないけど、ここからなら同じ方向でしょ?」

ナツの家はマグノリアの外れにある。街に向かう道は一本しかない。






消沈。


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