ナツがマフラーを巻き直した。
「送ってく」
初めから決まっていたかのように、ハッピーが胸に飛び込んでくる。ルーシィがそれを受け止めると同時に、ケリーはからかうような、あからさまに語尾の上がった「えー?」を発した。
「なんだよ、えーって」
「ルーシィとゆっくりお話したかったのに」
するりと、腕にケリーが絡み付いてくる。ルーシィは傾きながら、突然懐いてきた彼女の横顔を見上げた。
もしかして、ナツのこと聞きたいのかな。
しかしどんな子が好みだとか、恋愛に通じるようなことは何一つ知らない。苦痛の時間を想像して、ルーシィはハッピーを抱き締めた。
ナツが炭でも食べたかのような苦々しい顔付きをした。
「やっぱり、お前……ルーシィのこと気に入ったんだろ」
「そうよ?良いじゃない。ね、ルーシィ?」
「う、うん」
「ぁあ?」
ナツが顎を上げた。こめかみにくっきりと青筋が浮かんでいる。
「ルーシィ、ふざけんのも大概にしろよ」
「え……」
感情の振れ幅が大きいナツは怒ることも珍しくないが、ルーシィは彼に本気の怒りをぶつけられたことなど、記憶にない。
腕の力が抜ける。それなのに肩に力が入る。身体が逃げようと、後ろに下がりたがる。
床に下りたハッピーに、足がぶつかった。
ナツはケリーともっと一緒に居たかったのかもしれない。彼女がルーシィと一緒に帰ろうとしたから、こんな。
「じゃ、邪魔、だった?」
「そこまでは言ってねえ」
「ナツ、落ち着いてよ」
「やだ、ルーシィ怯えちゃってるじゃない」
「可哀想」と、ケリーが抱き寄せてくれる。それでようやく、自分の身体が震えていることに気が付いた。泣くつもりなどなかったのに、涙が滲む。
「いっ……!?」
突然、二の腕が悲鳴を上げた。掴んでいるのは、怒りをそのまま伝えてくるかのような、容赦ない熱さ。
「何ぼさっとしてんだよ!」
「痛っ、痛い……」
「お前にそういうことして良いのはオレだけだろーが!!」
突風が吹いた。と、思ったのは間違いで、ルーシィ自身が動かされていた。引っ張られて一瞬浮いた身体が、ナツに激突する。
ほぼ同時に潰されて、肺の中身がなくなった。
「抵抗しろよ!嫌がれよ!」
「ちょ、ん、うっ」
「今じゃねえ!」
ナツに抱き締められている――恐らく。
断言できないのは、そう形容するにはあまりにも乱暴すぎるからだ。背中に加わる圧力から逃げるため、ルーシィは目の前の物にしがみ付く。それがナツ本人であることはわかっていたが、そうしないと生命が危ない。
「っ……そ、そうだ。それでいんだよ」
「な、にがっ」
少し力が緩んで、息が吸えるようになった。酸欠気味で目の前が白っぽい。
まだ思考は正常に働かない。さっきナツは何と言ったのか。