「ナツってば、凄いだなんて。まだケリーのお掃除、見せてないのに」
「これからうち来るんだろ?」
「えっ?」
上擦った声が出たが、ルーシィは構わなかった。無意識に浮いた腰をそのまま上げて、ナツの袖を掴む。
「ど、どういうこと?」
「今からうちの掃除してくれるんだってよ。ルーシィも来るか?」
「んふふ、どうぞー。ケリーのお掃除、早いから瞬きしないでね」
「ちょ、ちょちょちょ」
ルーシィはナツを引っ張って彼女から離れた。彼の首をマフラーごと引き寄せる。
「どういうことなの?」
会ったばかりの女の子を家に上げるなんて非常識だ。ロキならそうですか、と流すところだが、ナツがそんなことを許可するとは思っていなかった。
「あん?だから、ケリーがうちの掃除してくれるって言うから」
「どうしてそうなったのよ?」
「だって見てみてーだろ?」
言いながら、ナツはケリーに視線を向けた。それに気付いた彼女がにこりと笑って手を振ってくる。
それは女のルーシィから見てもドキッとするような笑顔だった。ナツが右手をひらりと振って応える。
頭を重い物で殴られたような気がした。鈍い音が脳に響く。
「ナツがお願いしたの……?」
「おう」
ナツはルーシィのショックに気付いてすらいない様子で肯定した。しかし数秒そのまま固まった彼女に、ようやくおかしいと悟ったらしい。
「ルーシィ?あ、まさかエロ本見付かるとか思ってんじゃねえだろうな。オレ持ってねえぞ」
「そんな心配してない」
黙っているとナツの思考回路では明後日の方向にしか行かない。それでも、ルーシィは直接『女の子を家に誘うなんて』と言えなかった。それをナツに意識させたくない。
「そうだ。あたしんち、掃除して貰おうかな」
「ルーシィんち?」
「そう。こっちの方が近いし」
これなら問題ない。ほっとしたルーシィにナツは首を振った。
「ダメだろ」
「えっ、なんで?」
「お前の部屋、片付いてるだろうが。掃除のし甲斐がねえだろ」
「あんたがするんじゃないでしょ」
「良いから!オレんちに呼ぶんだ!」
ナツはルーシィの手を払って、ケリーのところに戻っていった。
「待たせたな、行こうぜ!」
「うん!お掃除楽しみ!」
足が動かなくなった。一瞬だけ当たった手が、いつまでも衝撃を訴える。
ナツのことだから、単純に掃除してもらって楽をしようというつもりだろう。しかしルーシィには、彼がケリーを家に呼びたがっているように思えた。
なんで?
二人がギルドを出て行くのを、ルーシィは黙って見送った。振り返ったハッピーが手招きしてくる。
「ルーシィ?行くよー」
「あ、うん……」
その子供のような声が金縛りを解いてくれる。ルーシィはバッグを掴んで彼らを追った。