おかたづけ





ナツの声がする。

ルーシィは時計を確認してからギルドの入り口を見やった。朝の準備に時間のかかる彼女と違って、ナツはギルドに来るのが早い。それなのに、今日は随分と遅かった。
そろそろ仕事に行きたい。待ちくたびれたルーシィは彼に呼びかけようとして口を開けた。が、すぐに閉じる。

彼の横に、見たことのない女の子が居た。

ナツはルーシィを見付けると、真っ直ぐこちらに向かってきた。足元を、ハッピーがぴこぴこと付いて来る。

「ルーシィ」
「ナツ、ハッピー……あ、えっと、誰?」

たまたま同時に入ってきた、というわけではないらしい。ルーシィと同年代だろうその少女は、ナツの後ろを目を引くような綺麗な所作で歩いてきた。

可愛い……。

心臓を直撃するような美少女だった。
滑らかな頬に、薄く乗ったチーク。目はぱっちりとやや垂れ目がちで、唇が厚く魅力的だった。サイドで結んだ髪は長いが、袖を捲ったTシャツにショートパンツというマニッシュな格好で、背中に大きな荷物を背負っている。
ナツはにこにこしながら、彼女を親指で示した。

「そこで拾った」
「拾った、って」
「ケリーよ。旅行中なんだけど、妖精の尻尾に興味あって声かけさせてもらったの」

ケリーはナツの右肩をちらりと見た。そこには赤いギルドの紋章がある。
ルーシィは自分も名乗ってから、彼女の瞳を意識して見た。さっきからどうも直視できていない気がする。
心構えもなく急に知らない人に会ったから、落ち着かないのだろう。ルーシィは居心地の悪さに適当に理由を付けて、腹に力を入れた。

「興味あるって、魔導士なの?」
「ううん、ケリーは違うわ。この辺で一番大きい酒場がここって聞いてたから、見てみたくて」

ジュビアのように一人称が名前の人らしい。声も鼻にかかっていて、加えて大袈裟にふるふると首を振る。演技がかった仕草に、ルーシィは軽い苛立ちを覚えた。

「酒場に用?お客さん?」
「うーん、そういうわけじゃないの。ケリーが見たかったのはこの建物よ。綺麗だけど……掃除がマメっていうよりも新しいって感じね」
「はあ?」

それはマックスをバカにしているのか。
彼だけがギルドを掃除しているわけではないが、ルーシィにとっては――恐らく誰にとっても――ここの掃除責任者はデッキブラシの友達、マックスだ。
しかしケリーが見ているのは天井で、どう考えてもブラシは届かない。彼の管轄外のことを言っているのだと理解して、ルーシィは眉間の皺を解いた。

「こいつすげえんだぞ、ルーシィ!」
「あい!」

何故かナツとハッピーが興奮した様子で顔を輝かせた。

「掃除のプロなんだってよ!」
「はい?」
「掃除ギルドの子なんだってー!」
「掃除ギルド?そんなのあるの?」

聞いたこともない。思わず目が丸くなるが、ルーシィははっとして表情を改めた。失礼なことを言ったかもしれない。
しかしケリーは気を悪くした風もなく、両手の人差し指を唇に当てた。

「お掃除ギルド、ゴッドブルーム所属。民家から遺跡まで、依頼されればどこでもお掃除に行くわよ。こう見えてもケリー、神速の磨き屋って呼ばれることもあるんだから」
「すっげえだろ!な!な!」

ナツのテンションが高い理由がよくわからない。
テーブルに身を乗り出した彼に、呆気に取られる。とりあえず頷こうと思った矢先、ケリーが身を捩らせた。






ゴッドブルームは妖怪箒神から命名。


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