「よぉおおし!そういうことならやってやんぞ!」
「ちょっ、ちょっと、何大声出してんの!まさか邪魔する気じゃないでしょうね!?」
「ちょっとくらい良いだろ!」
「良いわけないでしょ!?」
ルーシィはナツに詰め寄ってきたが、ふと、怯んだような表情を見せた。さらりと金髪が額を滑る。
俯いたルーシィは、何やら苦しそうに呻いた。
「邪魔って……ナツって、レビィちゃんのこと」
「オレも混ざる!」
「なんでよ!?」
「面白そうだからに決まってんだろうが」
理由など訊かれること自体が意外だった。驚いて目を瞬かせると、ルーシィが大きく溜め息を吐く――目元を綻ばせながら。
「あんた、なんか勘違いしてない?」
「嬉しそうだな?」
「うっ、嬉しくなんてない!」
「そうかー、やっぱルーシィも喧嘩は嬉しいよな。しょうがねえ、向こうも二人だし、タッグバトルといくか!」
「聞いてないし!」
腕を振り上げて、その勢いのまま駆け出す。ルーシィが後を付いて来るのを気配だけで感じつつ、ナツは口角を上げた。
「燃えてきた!」
お互いに視線を向けた会話も楽しいが、同じ物を見て行動することも心が躍る。加えてガジルをぶちのめせるのだ。
が、ナツはすぐに足を止めた。
「しっ」
「きゃっ」
ルーシィを木の陰に引っ張り込んで、ナツはそろそろと前方を窺った。ガジルの背中が見える。女子寮はもう少し先だった。
「何だ、あんなとこでやんのか?」
言ってはみたが、ナツは実際にはそう思えなかった。雰囲気がバトルとかけ離れている。
「どこ?あー……あれ?」
ルーシィの目には黒い背中はまだはっきりと判別できていないらしい。彼女のためにもう少し近付こうとして、ナツは思い止まった。ガジル達が何か話している。
「これ以上近寄ったら勘付かれるな」
「あんたらの五感、ホントどうなってんの……。てかねえ、これ盗み見みたいじゃない。帰ろうよ」
「そんなんじゃねえよ、盗み聞きだ。ん?」
「尚更悪い!」
「騒ぐなって」
ルーシィの口を塞いで、ナツは木の幹に彼女の背中を押し付けた。真ん丸に開かれた瞳が抗議してくる。
「んっ、んんんっ」
「黙ってろ」
暴れかけた彼女を抑えるために、ナツは適当に足をかけた。太ももの間に、とす、と右足がはまる。ルーシィはそれだけで息でも止まったように大人しくなった。
耳をガジルに向けて、集中する。やはり気のせいではない。『バニー』と言っている。
「ルーシィ……?」
「ふ……?」
ここで彼女の話題などと、あまりにも唐突に思えた。ガジルだけが発する『バニー』の呼称が、ナツをざわついた不安感に陥れる。