みっけ





ん?

前方に、一人の人間がしゃがみこんでいた。道の端で、きょろきょろと頭を左右に動かしている。何かを探している様子だった。
ナツは普段、そんなものに興味を示さない。人が何をやっていようと気にすることはほとんどない。しかし今回は話が別だった。近寄る。

そこに居たのが、ルーシィだったからだ。

彼女のことを、綺麗だな、とナツは思っていた。 よく動く瞳、口、優しい手――きっと、彼女を初めて見たときから、ナツはルーシィに惹かれていた。魅力、というのか、万物に通じる力があるような気がする。彼女のペンや机さえも、彼女を愛しているに違いないと思う。
日の下で見る彼女は太陽にまで愛されていた。照らされた美しい金色は秋の稲穂を思い浮かべる、豊穣の色――。

あ。

声をかける前に、視線に気付いたのだろうか、ルーシィがこっちを向いた。ナツはどきりとして、何も言えずに固まった。
少しの間の後、ルーシィが目を丸くする。

「あれ?ナツ……?なんでここに?」

彼女の疑問はたいして意味もなかったらしい。すぐに「まあ、どこに居てもおかしくないか」と一人納得する。
何か探しているのか、と問うと、彼女は「鍵を探してるのよ、あたし」と自嘲気味に笑った。

「大事な鍵なのに……ちょっとこう、飛んでっちゃって」

顔には焦燥も見える。彼女のキラキラした大きな瞳には、もっとハツラツとした表情が似合うのに。勿体無く感じる。
力になってやりたい。彼女には何度も助けてもらっている。いや、そうでなくても、ナツはルーシィが大好きなのだ。いつも明るい笑顔で、ナツを温かく受け入れてくれる。
ナツ以外の仲間達だって、同じ気持ちだろうと思う。だが、今この場には自分しか居ない。ならば全力で、仲間達の分まで力になろうと誓う。

「一緒に探してくれるの?ありがとう」

ナツはルーシィの隣で、同じように地面を探してみた。
ルーシィは器用にしゃがみ歩きで道を進んでいく。その動きは不可思議で面白くはあったが、ナツは観察をそこそこにして鍵の捜索へ集中した。

「うーん」

唸る彼女とは反対の方向へ進みながら、鍵と呼べそうな物を探してみる。

鍵、鍵……。

発展したマグノリアといえど、金属が地面に落ちていることは珍しい。目立つはず、だ。
しかしルーシィはまだ見付けられていない。きっと藪の中や、もしかしたら、木の――

あった。

チカリと、太陽に教えられて気が付いた。誰かが拾って引っ掛けたのかもしれない、木の枝にぶら下がっていた銀色の鍵は、思ったよりもずっと鍵の形をしていた。漠然と鍵っぽい物、を探していたナツはその思い描いていたギャップに少し驚いて、それでもこれがルーシィの探していたもので間違いないだろうと首を縦に振った。
振り返ってみたが、ルーシィの姿はなかった。角を曲がったらしい。
大声でルーシィを呼ぶ。

――のをやめて、ナツは鍵を見つめた。

思えば、ルーシィと自分だけ、ということは珍しい。
これが見付かったなら、ルーシィはここに居る理由がなくなる。きっとすぐにでも家に帰ってしまう。
このまま見付からなかったら――例えば、少しの間、隠してしまえば――そう、少し。ほんの少しだけ。

彼女を独占しても、罰は当たらないのではないだろう、か。






天の羽衣。


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