告白





空と木の境目あたりを見ながら、ナツが言った。

「ルーシィに教えてやんねえとな」

声が羽のように軽く、弾んでいる。彼女の反応を想像しているのだろう。
南の雲の切れ間から太陽の光が漏れている。穏やかな光の柱が、幾筋も天空から地上へ下りていた。確か、『天使のはしご』という名前が付いている現象だ。
美しく荘厳な風情のあるこれを見れば、きっとルーシィも喜んでくれる。
ナツはもうそちらは見ずに、ほとんど反対方向を向いている。ハッピーもその方角――ルーシィの部屋の方――をちらりと見てから、ナツに目を戻した。人懐っこくはあるが好意的には見え難い彼の吊り目は、今は優しく細められている。
ナツはルーシィのことが好きだ。仲間として、家族としてだけでなく、恋愛感情で――ハッピーはそう思っている。判断しているというより、感じている。

しかし。

「ナツって、ルーシィのこと、ホント好きだよね」
「はあ?」

煩わしげに目を眇めて、ナツが首を引く。またか、と顔に書いた彼は、やはり口でも「またか」と呟いた。

「そんなんじゃねえって言ってんだろ」

照れ隠しのような柔らかい否定ではない。が、真実でもない。
生まれたときからナツをそばで見ているのだ。彼の瞳の動きに焦りがあるのは、ハッピーからは明確だった。

ナツはルーシィを好きなことを、何故か隠そうとしている。

何度となく指摘しても、頑なにそれを認めようとしない。初めはそれでも不自然には思わなかった。その時はこっちも彼をからかおうと思ってした発言だった。それを勘付かれたのだと、そう思っていた。
しかし今はそんなつもりはない。確認、いや、情報を共有したいだけだ。

オイラはシャルルのこと、ナツに相談だってするのに。

どうして隠されなければならないのだろう。
打ち消しても打ち消しても、ナツがルーシィへの想いを否定するたびに、頭の片隅を悪魔の槍が突いてくる。

相棒だと言ってくれたのは嘘だったのだろうか。

ハッピーは拳を握った。

「ナツはオイラのこと信用してないの!?」
「は?んなわけないだろ!」
「じゃあルーシィのこと」
「だからそんなんじゃねーよ!」

一層強く落とされた否定が木々を揺らす。ナツの瞳ははっきりと苛立っていたが、ハッピーの気持ちも同様だった。ざわざわと鳴る葉が治まると同時に、翼を出す。

「もう良い!オイラ帰る!」
「ああ!?」
「ルーシィのとこ行きなよ!大好きなルーシィのとこに!」
「違うっつってんだろーが!!」

吼えたナツを置いて、ハッピーは木と木の間に飛び込んだ。 腹がむかむかする。 振り返っても彼が見えないところに、すぐにでも行きたかった。
声を荒げるほど派手な喧嘩は久しぶりだった。自分は悪くない。むしゃくしゃが止まらない――。
宣言通り家に戻ろうとして、ハッピーはふと、空の美しさが目に入った。

「……ルーシィ」

きっとナツは、ルーシィの部屋へ行く。この景色を教える目的ではなく、自分と喧嘩したことを話すために。
ナツは昔からそうだ。喜びも悩みも、誰かに言わないで溜めることはしない。自分ひとりでは抱えきれないことを知っている。
そしてそれは、ハッピーだって同じだった。ルーシィに聞いて欲しい。だが、喧嘩の内容が内容なだけに、彼女は除外していた。
しかしナツはそうではないだろう。内容は言わず、喧嘩したことだけを告げ、宥められ慰められ、仲直りするよう諌められて――随分と都合の良い話ではないだろうか。
ハッピーはくるりと向きを変えた。速度を上げて、ルーシィの部屋を目指す。

先に相談してやる。

ハッピーは口角を歪めた。けれど笑みの形になったかどうかは、自信がなかった。






イライラ通り越して寂しいハッピー。


次へ 戻る
main
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -