が、ナツに手首を掴まれる。

「何よ?」
「だって倒したらコタツ消えるんだろ?」
「ルーシィのバカー!オイラの楽園を奪わないでよー!」
「アンタらどっちの味方よ!?このままじゃ廃人になるのよ!早く倒さなきゃ、」
「はは、冗談だ。俺を倒しても消えたりしない」
「そっちが冗談なの!?」

ぐったりして肩の力を抜くと、女性がぱたぱたと手を振った。

「廃人はただの比喩ですよ。出たくなくなるというだけです」
「驚いたか?コタツジョークだ」
「なるほど。確かに出たくない……」
「あ、初心者は呪いにかかりやすいから気を付けてください」
「え?」

また身構えてしまうような言葉を、彼女はさらりと説明した。

「必要な物をコタツの周りに置く呪いです」
「なんだそりゃ」
「絶対かかんねえよ」

女性はくすりと笑った。父親が「帰るぞ」と背を向ける。
ナツが拳を男に向けた。

「待ってるぞ!」
「あ、そっか。妖精の尻尾に入ってくれるんなら買わなくてもコタツ入り放題よね」
「ルーシィが貧乏くさいこと言い出した」
「失礼すぎる!」

男は不思議そうな顔をした。

「妖精の尻尾?いや、俺は青い天馬に入りたいんだ」
「え」
「兄さん?でも、大魔闘演武で一番だったギルドって」
「そう、一番だろ、ジェニー・リアライト。ミス・フィオーレだぞ」
「……」

言葉を失ったのは皆同じだった。父親の顔が怒りに染まる。

「お前はまた女の尻を追いかけるつもりか!?」
「今度こそ本気だ!運命を感じたんだよ、世界にただ一人しか居ない、俺だけの清純な女性……!」
「彼女はヒビキの恋人のはずだが」
「あのビッチ!」

綺麗に手のひら返しをして、男が奥歯を鳴らす。

「もう良い!魔導士になんてなるか!帰る!」
「ちょっと兄さん!」
「待て!今度という今度は我慢ならん!少しは成長したかと思えば、お前という奴は……!」

遠ざかっていく怒鳴り声を、ルーシィ達は追わなかった。少なくともルーシィには追おうという気持ちさえ起きなかった。勝手にすれば良い。
ナツがばたん、と仰向けになった。無かったことにしたかのように、のんびりと呟く。

「眠くなってきたな」
「あい」
「……仕事行かなきゃ」

窘めつつ、ルーシィも寝転がってみる。冷たい空気が頬を撫でるが、ナツの言うとおり眠気が襲ってくる。目を閉じれば本当に眠ってしまいそうだった。

「もうちょっと休憩してくか。おいナツ、足伸ばしてんじゃねえよ」
「うむ。少しだけ、な」

グレイとエルザの声が少し遠くから聞こえた気がした。意識が落ちかけているのかもしれない。ゆるゆると唇を噛んで、持ち堪える。

みかんの香りがした。

「んう?ルーシィ、居るか?」
「居るわよ」

ナツの手が目の前でもそもそと動いている。きっとこちらを見ないままに探っているのだろう。
握ってやると、ナツは安心したように呟いた。

「おう、居た」
「何?」

きちんと語尾が上がったかどうか自信がない。ナツの声がやや不明瞭なのと一緒で、ルーシィの唇もスムーズに動いてはくれなかった。半分以上睡魔に食われている。

「なんか静かに……なった、から」
「うん……」
「居なきゃ、困る、だろ……あ」
「……あ?」
「オレ、呪われ、た……」
「寝ちゃダメよ……」

ナツの手も温かくて気持ちが良い。寝言になりそうだとは自覚していたが、コタツに活力が吸い取られたかのように、身体が動かない。


日が落ちてからの到着は依頼主の怒りを買い――報酬は半額以下になった。






翌日、風邪を引かない三人を、本当に人間なのだろうかと疑ったルーシィだった。
お付き合いありがとうございます!



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