「じゃが、何をやっても中途半端なお前が村を出てやっていけるわけがないじゃろう!転職ばかりでもなんとかやってこれたのは村の皆のおかげじゃ!」
「そんなことない!親父はわかってないんだ、俺の本気を!」
「兄さん……」
「わしはお前の飽きっぽいところしか見たことがない。唯一入れ込んだものはあのなんとかいう小娘じゃろうが」
「小娘じゃない、アイドルだ!」
「結婚できる相手を見付けろ!」
「心は繋がってたんだよ、俺らファンはみんな!でもあの女、調子乗りやがって熱愛報道なんか!」
「そんなもんは知らん!」

脱線しかかった二人を眺めながら、ルーシィは冷凍みかんを転がした。溶けない。

「おいルーシィ、見ろよ。爪の間が黄色くなったぞ」
「はいはい。ていうか空気読んでね、一応」

目の前に突き付けられたナツの手を押しのける。
父親が白い息を長く吐き出した。

「わかった。ならば、奥義を伝授する」
「父さん!?」
「親父!」
「ただし、覚えられなかったり途中で投げ出したりしたらこの話は無しじゃ。お前の本気を見せてみろ。良いな?」
「ああ!」

男の顔に喜色が走る。そのままの表情を、彼はこちらに向けてきた。

「そのコタツはやるよ。入ってくれてありがとうな!」
「マジで!?お前良い奴だな!」
「あと三つほど欲しいのだが」

図々しくも当たり前のように希望したエルザに対し、男は少し考える素振りを見せてから頷いた。

「お買い上げありがとうございます」
「あ、お金取るの……まあ、当たり前よね」
「この先の村で売ってるんだ。今は親父の店だけど、実力を付けたら継ぎたいと思ってる」
「……そんなことを考えておったのか……」

父親が眉間を押さえた。感動したらしい。
グレイが指し示された方向を見て呟いた。

「それって依頼主が居る村じゃねえか?」
「よし、今回の報酬でコタツ買おうぜ!」
「あたしんちに置かないでよ?」
「ルーシィだって欲しいだろ?温かいし気持ち良いぞ。しかもオレとハッピー付き」
「おまけ要らない」
「要らないって……」
「ナツはともかくオイラまで……」
「ガチ凹みすんな!」

なんだかんだ言っても聞くような奴らではない。許可を与えずともコタツはルーシィの部屋に置かれるに違いなかった。
せめてコタツ布団は自分の好きな柄を選びたい。思い切り女の子らしく、ナツ達が入るのを躊躇するような――。

そんなのお構いなしよね。

ほぼ確定した未来図に肩を落とす。しかし本気でイヤだというわけではないのだ。振り回されていることが心地良くもある。

絶対、言ってやんないけど。

男がにやりと笑った。

「だが、気を付けろよ。一度コタツの魔力にとりつかれたら最後。やがて……」
「やがて?」
「廃人になる」
「はい!?」

あまりにも唐突な単語に、ルーシィは目を剥いた。男がぴ、と人差し指を立てる。

「俺を倒さない限りコタツは消えない」
「た、倒すって」

他の三人に視線を走らせるが、誰も動こうとしなかった。お互い探り探りで目配せし合う。

「……誰か行けよ」
「む……」
「言いだしっぺが行くんだろ、ナツ」
「寒ぃからイヤだ」
「お前暖房要らねえっつったじゃねえか!」
「お前だって要らねえだろが!」
「もう!」

ルーシィは仕方なく腰の鍵を探った。






ナツはすぐコタツムリになると思う。


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