「むぐ、んぐ」
「おい、汁飛ばすなよ」
「ハッピーはみかん食べないのか?」
「オイラ柑橘類はちょっと」
「もぉ……」
ルーシィは大きく深呼吸した。コタツに近付いて、グレイの向かいに座る。
「おう、ルーシィも入ることにしたのか」
「だって抵抗する意味もないじゃない」
仲間はずれになったような気がして寂しかった、とは言えず、頬を膨らませる。
コタツに入ると、まるで温泉にでも浸かったかのような安堵感があった。冷えた足がぬくぬくと温められていく。
「あったかい……」
「ほらよ」
「ありが……グレイ?これ何?」
「冷凍みかん」
「剥けないんだけど!?」
「あ、オレが燃やしてやろうか?」
「せめて溶かすつもりでいて!」
氷で冷たくなった手をコタツの中に入れる。触れた毛皮がびくりと動いた。ハッピーは真ん中よりこっち寄りで丸くなっているらしい。
ルーシィはぺたりとテーブルに頬を付けた。ずっと歩き通しだったこと、おかしな喧嘩に巻き込まれていること。疲労感がコタツに溶けていく――。
「きゃあ!?」
さわさわと太ももが撫でられた。
「ナツ!」
「あん?」
「今のオイラです」
「あ、そう……ごめん」
伸びた背筋を元に戻して、ルーシィは小さく縮こまった。ナツがむ、と口を尖らせる。
「冤罪だ」
「ごめんってば。てかちょっと誤解しただけで冤罪って……ひゃあ!?ちょ、こら、ハッピー!」
「今のはオレだ」
「何してんのよ!?」
「冤罪を免れた」
「お前らイチャつくんなら他所でやれよ」
「いっ、そんなことしてない!」
「見ろよ」
勝ち誇ったような声に、ルーシィは忘れかけていた男の存在を思い出した。彼は父親に向き直っている。
「オレだって十分やっていける」
「此奴らが弱過ぎなんじゃ!」
どうしても認められないらしい。唾を飛ばす。
「大体みかんに釣られおったんじゃろう!お前の功績ではないわ!」
ナツが煩わしげにみかんを振った。
「ったく、ホントぎゃあぎゃあうっせぇじっちゃんだな。孫の顔が見てぇよ」
「いや、それ言うなら親の顔だし」
「孫の顔ならわしだって見たいわ!」
「プレッシャーかけるなよ!」
ぎょっとした男に、グレイがみかんを一房向けた。
「あんた、ギルドに入りたいんだろ?」
「そ、そうだ」
男の返答に父親は肩を聳やかしたが、エルザが勇気付けるように笑った。「歓迎するぞ」とみかんを持ったまま手招きする。
女性が不安そうに両手の指を絡ませた。
「でも、この魔法で闘えますか?」
「戦闘だけが依頼じゃない。素晴らしい魔法じゃないか。人を幸せにできる」
魔法を褒められたのが嬉しかったのが、父親が得意顔で首を縦に振った。はっと気付いたかのように咳払いをする。