ルーシィは意外な情報に目を瞬かせた。父親と、出現したコタツとやらを見比べる。
「暖房?」
「なるほどな。ハッピーは温かいとこに敏感だから」
「それホントに猫じゃないの」
ナツはすっかり納得した様子で一つ頷いた。拳を構え直す。
「オレには効かねえぞ!暖房なんざ必要ねえ!」
「これ、コタツ……だったかしら?それに入ったら負けなの?」
「入る奴居るわけねえだろ」
グレイの言うことはもっともだった。寒いとは思うが、強制力としての魔力もあまり感じない。ハッピーが入っていったのは本当に彼の本能でしかないようだ。
エクシードと猫との境目を不安に思いつつ、ルーシィはエルザとナツの動向を探った。エルザは興味があるのかまだコタツの周りを回っている。ナツは勝手に戦闘態勢に入っていた。
「ついでにこっちにはグレイが居るからな!もうお前の負けは確定してるぞ、降参しろ!あっ、やっぱすんな、かかってこい!」
「そんな風に言っていられるのも時間の問題だ」
男は不敵な顔で胸を張ったが、父親に頭をすぱん、と叩かれた。
「なっ、何すんだよ!?」
「お前は……」
父親はぎり、と奥歯を噛んだ。
「敷物の下には断熱マットを敷けとあれほど言ったじゃろうが!どうしてこうも手抜きばかりする!?」
「みかんすら置かないなんて何考えてるの、兄さん!」
妹が素早く左手を閃かせた。瞬間、しゅぱっ、とコタツの上にカゴに入ったみかんが現れる。
「おおっ!」
ナツの瞳が輝いた。光の速さで頭からコタツに突っ込む。
「ちょ、ちょっと、ナツ!?」
はみ出した足がぱたぱたと動いて、ゆっくりと力を失くした。
「うぉー……気持ち良いな、これ……」
「あい……」
「そんなに?」
あまりにも蕩けた声音に、ルーシィはグレイと目を見合わせた。別に許可を求めたわけでも入れと命令したわけでもないのだが、彼はふるふると首を振る。
女性が困ったように首を傾げた。
「あの、それ、普通は座るものなんですけど」
「おお、そうか。みかん食えねえもんな」
入ったところと反対側からもぞもぞと這い出して、ナツはテーブルの天板に顎を付けた。目だけ上げて、みかんに手を伸ばす。
「んぅ、良いなあ、これ」
「ふん、この程度のコタツに魅入られおって」
父親がバカにした目で吐き捨てる。男はそれに反発した。
「この程度?はっ、親父こそ物の価値ってのがわかってねえな。ハートクロイツ社の高級コタツ布団だぞ!」
「温かいな」
「エルザー!?」
ちゃっかりとナツの向かいに座って、エルザがこくりと頷く。彼女もみかんを一つ手に取って、穏やかに微笑んだ。
「ふむ、これはギルドに良いな」
「ルーシィんちにもコタツ欲しいなあ」
「なんであたしんち!?」
「オレんとこ置けねえもん」
「いよいよもってルーシィの部屋に住みそうだな、てめえ」
「オイラとナツとコタツの部屋になります」
「あたしんちよ!?……って、ちょっと待って。なんでグレイまで普通に入ってんのよ。あんた暖房要らないでしょ」
「心配すんな、みかんはお前の分取っといてやるよ」
「そうじゃない!」
妖精の尻尾の最強チームと謳われた三人と猫が、無力化――にしか見えないダラダラ具合だった――している。完全に乗り遅れて、ルーシィは地団駄を踏んだ。