男は決意を湛えた瞳で真っ直ぐに父親を見据えた。寒さのためかやや赤くなった人差し指を、ゆっくりと上げる。

「今からこの人達と勝負する」
「は?」

ぴ、と指した先にはナツが居た。完全に悪役の顔で、拳を鳴らす。

「ほっほー、一人でオレらに挑むってのか」
「命知らずも良いトコだな」
「お前達、無茶はするなよ」
「エルザに言われたくねえっつの!」
「ちょ、ちょっと」

もうすでにやる気にしか見えない三人に、ルーシィは頭を抱えた。掴んだままのハッピーがぽよん、と宙を舞う。
男は両手を頭上に上げて、いくつか印を結ぶような動作をした。

「俺だって……やるときはやる!」
「うお!?」

ぼふり、と煙が立った。どうやら何か召喚したらしい。
ルーシィは息を飲んで身構えた。この召喚には少し時間がかかっていた。理由は二パターン考えられる。
単純に魔法発動までの熟練度が低いのだとしたら問題ない。しかし、これが大物を喚ぶ魔法だったなら。

「……!」

後ろへ退こうかと思ったが、ルーシィは留まった。前にはエルザ達も居る。何より、今まで何度か潜ってきた修羅場のそれのように、本能的な危険を感じない。

「あ……」

煙が晴れる。左右対称に構えたナツとグレイの前に、何か四角いものが現れていた。

「何?」
「んだこりゃ?テーブル?」

ローテーブルに見えるが、下は隠されている。何かが出て来るのかもしれない。
手の中の尾がふるふると震えた。

「ハッピー?」
「なんだろう……オイラ、すごく……」

愕然としたような表情で、ごくりと喉を鳴らす。手をすり抜けた尻尾は柔らかく空中に留まった。ばさり、と翼が広がる。

「ど、どうしたの?」

ハッピーは、一度もルーシィを見ないまま、出現したばかりのそれに向かって飛んでいった。

「ハッピー!おい!?」

ナツの声にも振り返らない。青い猫はずぼり、と吸い込まれるように中に飛び込んでいった。一拍遅れて、尻尾が全て入る。

「ハッピー!」
「……オイラ、眠い……」

中からくぐもった声が聞こえる。特に苦しんでいる様子はないが、捕獲されたと見るべきだろうか。
男がふぅ、と息を吐いた。

「まずは一匹」
「ハッピー倒したくらいでいい気になってんじゃ」

はっとしたような顔をして、ナツは言葉を切った。仁王立ちしてふんぞり返ったかと思えば、言い直す。

「ふっ、ハッピーは我が四天王の中でも最弱!」
「何それ!?」
「一度言ってみたかったんだよなー。あ、悪ぃ、ルーシィも入れて五天王だった」
「むしろ入れないで!」

ハッピーが捕まったというのに、ナツは随分と心配していない――が、自分の中にも同じ余裕があるのに気付いて、ルーシィは嬉しくなった。危険に対しての勘が養われてきている。これも成長なのだろう。
エルザとグレイは早々に攻撃魔法ではないと見切ったのか、ハッピー入りのそれを遠巻きにじろじろと眺め始めた。

「ハッピーは中に入っただけのようだな」
「で、何だよ?これは」
「東洋の小さな島国で使われている――」

答えたのは男ではなく父親の方だった。腕を組み、誇らしげに頷く。

「コタツ、と言う暖房器具だ」






猫には効果覿面。


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