ルーシィが到着したときには、エルザが馬鹿でかい天秤を振り上げていた。止める間もなく、一人の男――ハッピーがおじさんと言っていた人物だろう――にぶち当てられる。
ガイン、と音がして、男は雪の中に倒れた。

「……今から他人のフリって出来るかな?」
「無理よ」

ハッピーの尻尾をしっかり掴んで、ルーシィはひとまず手前に居たナツとグレイに近寄った。二人は完全に引いた表情でエルザを眺めている。

「何も言わずに張り倒したぞ……」
「やっぱエルザは怖ぇ……」
「それをアンタらもしようとしたんでしょうが」
「「しねえよ!」」

ぴたりとハモッたそれが降り積もった雪に吸い込まれる。目の前で起こった惨劇に呆然としていた老人が、はっとしたように動いた。

「なっ、なんじゃ、お前らは!?」

年老いた、と言ってもまだそれほどではないかもしれない。日焼けした顔はややたるみがあるものの、隠居するようには見えなかった。
その隣では、ストールを羽織った20代くらいの女性が怯えた目をこちらに向けている。ルーシィは無理やりに笑顔を作ってみた。

「あ、ええと。喧嘩、なさってたんですよね?仲裁とか出来ないかなーって」
「余計なお世話じゃ!それにどこが仲裁じゃ!」
「ご、ごもっともです……」

エルザは「何が原因で喧嘩していた?話せ!くっ、黙秘権の行使か?」と気を失った男を揺さぶっている。
ぐうの音も出ないルーシィに代わって、ナツが一歩前に進み出た。

「まあ良いからよ、話してみろって」
「うるさいわ、ガキ共が!」
「じっちゃんこそうるせーよ!」
「てめえじゃ話になんねえよ、下がってろナツ」
「ああ!?」
「もう、あんたらまで喧嘩しない!」
「あ、あの……」

女性はルーシィを唯一の話が通じる相手と踏んだらしい。ナツ達を迂回するようにして、話しかけてきた。

「その紋章、妖精の尻尾ですよね」
「は、はい!」
「そうですか……やっぱり」
「あの、何を言い争っていたんですか?」

女性は意思の強そうな太目の眉を下げた。

「大魔闘演武を見て以来、兄が、妖精の尻尾に入りたいと言って……」
「え?」

エルザが気絶させた男のことだろうか。

「あなた達からも言ってやってください!無謀だって!」
「えっと……」

ギルド加入には試験などはない。実力も人それぞれで、誰でも出来るというわけではないがやる気と向上心さえあれば決して無謀な道とは思えない。魔導士なら――

「あ、魔導士じゃない、ってことですか?」
「いえ、魔法は……使えるんですが」
「なら、妖精の尻尾は拒んだりしないですよ」
「でも!あんな魔法……!」
「あんな魔法とはなんじゃ!」

老人が女性の言葉に敏感に反応した。唾を飛ばして、主張する。

「わしが編み出した、この世で唯一の魔法じゃぞ!お前達二人にだけ教えてやったと言うのに!」
「父さんだって見たでしょ、一撃よ!?」
「彼奴は半人前だからじゃ!」

エルザ相手では普通の魔導士は大抵一撃で沈むだろう。男の実力を確かめる指標にはならない。グレイと目が合ったが、彼も軽く首を竦めただけだった。
妖精の尻尾に加入したい男と、反対している家族。ルーシィも似たような思いで家出した経験があるため、男の肩を持ちたいと思う。が、まずは反対する理由を詳しく聞いてからでも遅くはないだろう。
父親は顔を怒りの色に染めて、足をだむ、と踏み鳴らした。

「兄の癖にお前にだって劣っとるわい!あの程度でギルドだなんだと、馬鹿馬鹿しい!」
「俺の魔法が……通用するとわかれば良いんだな?」

その声は地の底から湧いたように聞こえた。

エルザの前で、男が立ち上がっていた。






エルザの問答無用さが好き。


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