「こっちじゃねえか?」
「む?」

グレイが三叉路で指し示した方向は、先頭のエルザが歩き出していた道と逆だった。振り返った彼女がさくりと雪を踏む。
依頼先の村には、途中の山道が障害となって徒歩でしか行き着くことが出来ない。ここで間違うのは大きなロスになる。
グレイは指先をもう少し遠くへ向けた。

「ほら、あの看板。よく見えねえが、多分そう書いてる」
「ホント?ねえ、ナツ」

ルーシィは振り返って、目の良いナツを呼び寄せた。ハッピーと一緒になって虫のような生き物を追いかけていた彼は邪魔されたことに不機嫌そうな顔を作ったが、首を伸ばす動作を一瞬だけして頷いた。

「みてえだな」
「そうか」

それは結果的に正解だったわけだが。
ルーシィは、間違っていた方が良かったのではないかと、後々思うことになる。





冬の思い出








「この先、誰か居るよ」

飽きて偵察という名の暇潰しに飛んでいたハッピーが、パサパサと乾いた音を立てながらルーシィの目の前に降り立った。冷たい空気に息を白く吐き出す。

「なんか喧嘩してるみたい」
「なにっ!?」

ナツが目を輝かせた。

「オレも混ざる!」
「いや、普通止めるでしょ」
「コイツに普通を期待するなよ」

グレイは呆れ返った表情で肩を竦めたが、いざ殴り合いの喧嘩を目の当たりにすれば彼も同様に乱入するだろう。
ルーシィはしゃがんで、ハッピーと目線を合わせた。

「喧嘩って何?どんな感じ?」
「えっとね、女の人と、おじいさんと、おじさんが、わあわあ言い合ってた」
「それ、女の人が危険って感じでもないの?」
「暴力はないみたいに見えたよ」
「口喧嘩ね。ほら、混ざれないわよ」

ナツは興味を失うかと思ったが、ぐっ、と握った拳を掲げた。

「それを喧嘩にすんのが面白いんじゃねーか!」
「面白くないわよ!?」

とりあえず、マフラーを掴まえて勝手に走っていくのを阻止する。ざざっ、と踵が雪を掘り起こすのと同時、エルザが腕を組んで頷いた。

「仲裁か……私の出番だな」
「えっ!?」

グレイがぎょっとした様子で目を見開いた。声がやや裏返りかけている。

「何だ?」
「あ、いや、何でも」

ふるふると首を振る彼と同様の気持ちで、ルーシィはこっそりと冷や汗を流した。エルザの鉄拳制裁が一般人に耐えられるとは思えない。

「えっと。まあ、話を聞いてみて、それから、ね」
「ふふ、ルーシィ。この間正義の女神という鎧を手に入れてな」
「正義の?凄そうな鎧ね」
「凄いぞ。天秤で殴って剣で刺す」
「それどんな女神よ!?」
「仲裁には持って来いだろう」
「どこが!?」

叫んだ瞬間力が緩んだか、ナツがルーシィの手を振り払って駆け出した。

「へへーん、お前らが着くころにはオレが全員倒してるっての!」
「ああ!?待ちやがれ、ナツ!」
「私が先だ!」
「ちょ、ちょっとぉ!?倒すの前提!?」

ドカドカとモンスター並みの足音を響かせて、三人が走り去る。ルーシィは残されたハッピーと顔を見合わせてから、慌てて彼らの足跡を追った。






ギルド内で仲裁にもっとも向かない人たち。


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