こどもです





簡単な依頼をこなした後、ナツが思いがけないことを言った。

「次の仕事も取ってあんだよ」
「え?」
「同じ町だし、ミラが持ってけって」

ルーシィは当然初耳だったが、ハッピーも知らなかったことらしい。ヒゲをぴくぴくと震わせながらぱちくりと瞬きした。

「どんな?」
「えーと」

服の下からもそもそと、ナツは一枚の依頼書を引っ張り出した。

「これ」
「なんでそんなとこ入れてんの!?」
「ルーシィがボディブローしてきたときのために」
「そんな紙切れ一枚じゃ防げないよ」
「てか、しないわよ!?」

ぴらりと重力に従って頭を垂れるそれを受け取ると、一瞬ぎくりとするほど温かかった。一体何時から、とツッコみたいのを抑えつつ目を通す。
そこには、あまりにもナツに似つかわしくない依頼内容が記載されてあった。

「え、これ、書類整理って書いてあるんだけど」
「おう、ミラもそう言ってた。なんかよくわかんねえけど、魔導士に来てくれって依頼だってよ」

そうではなく、ナツが受けたということが気になったのだが、ルーシィはとりあえずもう一度依頼書に目を走らせた。まずはこれを把握する方が先だ。
依頼人は町役場で、要約すると、魔法評議院に提出する書類を用意するのを手伝って欲しい、ということらしい。魔導士でもない一般人からすれば、魔法関連の用語は難解なのだろう。
ルーシィは星霊魔法を学ぶにあたって専門の先生に教えてもらっていたので、ある程度の知識はある。しかしナツはどうなのか。

「ナツがこんなの受けるなんて思わなかったわ」
「て言うか、ミラがナツにこんなの渡すなんて思わなかったです」

彼の相棒も同意見らしい。言い返すかと思った桜色は呆れたような声音で手を振った。

「オレにじゃなくて、ルーシィに、だろ。ルーシィと行くのかって確認してきたからな」

そう言われると、ミラジェーンに頼りにされたようで嬉しい。ルーシィはにっこりと微笑んだ。

「じゃ、ナツは今回サポートね。キリキリ働いてよ!」
「へん、バカか!オレがそんな依頼で何の役に立つってんだ!」
「ホントにね」

ふんぞり返ったナツが青い猫にバッサリと斬り捨てられる。彼は二、三秒そのままの姿勢で胸を張っていたが、やがて肩を落とした。

「ちぇ。じゃあ報酬は要らねえよ」
「えっ、でも。さすがに一割くらい」
「んにゃ、要らねえ。仕事しねえのに貰いたくねえし」

本当に何もしないつもりなのか。それでも付いて来ることは決定しているようなので、ルーシィはほっとした。一緒に来たのに別々に帰るのは寂しい。

そして、一人で仕事するのも、やはり寂しい。

「ねえ、やっぱりタダって悪いわよ」

少しでも、書類を捲るだけでも良いから手伝って欲しい。
ナツは「良いこと思い付いた!」と手を打った。

「報酬要らねえから、帰ったら何か作ってくれよ」
「え?」
「煮込みハンバーグが良い!あの茶色くってとろとろした奴、美味いんだよな!」

それも一応報酬扱いには出来る。作ってあげるから手伝って、とは言うことが出来そうだ。

「うん、わかった。良いわよ」
「やった!」

声も身体も弾ませて、小さな子供のようにナツが笑った。可愛らしい反応に、ルーシィも嬉しくなる。

「煮込みハンバーグ、好きなのね」
「おう、好きだ。ルーシィの作る奴な!」
「なっ、ななな、何言ってんの」

思ったことをすぐ口にするナツには、その真正直さで傷付けられることも少なくない。しかし逆に、こうした口説き文句にしか思えないような発言にドキドキさせられることもある。
彼にそんな意図がないのはわかりきっているのだが、不意打ちでは冷静に流すことができない。ハッピーがにやにやとこちらを見上げているのも、ルーシィを焦らせる要因だった。

「へ、変なこと言わないで……」
「変?お前のハンバーグってギルドのと違うけど、変とは思わねえよ?美味いし。毎日食いたいくらい」
「も、もう!良いから!」

顔を隠してしまいたくなる。形を失くした口を手のひらで押さえてから、ルーシィは熱くなった首元を依頼書でぱたぱたと扇いだ。

「ん?ルーシィ、お前……」

ぎくっとして背筋が伸びた。

赤くなったのがバレた?

ナツにそのつもりがないのに一人で勝手に意識しているなど、恥ずかしすぎる。
だが、言い訳を必死で考える必要はなかった。ナツが人差し指で鼻の下を示す。

「なんか付いてんぞ」
「へっ?」

慌てて手の甲で擦ってみると、黒い何かが付いた。手のひらに返すと、親指にインクが付着している。
もしやと思って、ルーシィは依頼書の端をなぞってみた。やはり文字が伸びる。
そんなことがあるのかわからないが、ナツの体温でインクが溶けたのかもしれない。もしくは、最初から乾いていなかったのか。
ナツが片眉を上げた。

「鼻クソか?」
「違うわよ!」
「汚ねぇなあ」
「いや、インクだってば」
「えんがちょー!」
「だからインク……」
「バーリア!うぐっ!?」

放ったボディブローがナツの腹に吸い込まれた。






2014.12.8-2015.1.7拍手お礼文。


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