ドーナツの穴


 

「ぁ、……ぅ」
 これは、誰の声だ?
「は……はぁ、ァア」
 誰かが苦しそうな呻き声を上げている。誰だ、誰なんだ。煩い、今寝ていたのに起こされた。
「ぁ……あっ?」
 パッと目を開くと、真っ暗な闇が目に飛び込んでくる。身体を起こそうとしたが、何かに拘束されているようで身体は足しか動かない。どうして、何があったんだ。
「ぁ、あ!」
 身体を何かに弄られている、体内になにか……変なものがいる。
「ゃ、やえて……ァ」
 足をバタつかせるが、股座に何か巨大なものが鎮座しているようで、カエルのように足をバタバタさせるだけだった。生憎体が硬いせいか足が動いたとしてもろくに抵抗もできないようで、見えない相手を蹴り上げる事すら出来ない。
「ぁあ……あっ」
 体内に何かが入ってきた。今までぐるぐると身体の中を蠢いていたものとは質量が違う。ドンとくる重たさと芯を持ったそれは、尻の穴から侵入してきた。なんだこれは、虫とか何かそう言うものじゃないよな。
「ぁあー……ぁー、なに、入ってる……大きいよぉ」
 寝ぼけ眼で身体も楽に操れなく、ただただその質量に声を上げるだけしか出来ない。これはもしかして夢か、それとも現実なのか。足を持ち上げられたようで、とうとう足すらも動かされない。すると、突然何かが顔に近付いてきて息を吹きかけてきた。
「なに、なんだよ……ぁぐ」
 ドツンと身体の中心を割くようにして何かが奥深くまで突き刺さる。異物感も凄いが、身体がまるで熱い杭にでも打たれているように発熱している。誰か助けてくれ。
「ぁー……」
 そのまま動き始める熱い杭に身体ごと揺さぶられ始めた。カエルのように仰向けになっている身体がその杭と振動により揺さぶられて背中をシーツに擦り付ける。
 しばらく揺さぶられていると、グヂュグチュと汚らしい音を耳がキャッチをした。
 もしかして、俺の体に入っているものって男の……?
 バツンバツンという肉が弾けたような音に、足を掴んでくる腕と、熱い吐息が胸に掛かる。これは思い違いではないかもしれない。
 そのまま暫く揺さぶられ続けて腹が熱くなってきた頃、とうとう気を失うように意識を失った。

「……はっ」
 汗でビッショリ濡れた感覚が背中にある。額にも汗が馴染んでいたようでとても不快だった。Tシャツを脱ぎ捨てるように床に放り、パンツも脱いで下着一枚になる。二つとも拾い上げて部屋を出てからそのまま洗面所に駆け込んだ。
 シャワーを浴びながらも昨晩のことを思い出す。体にはどこも跡は残っていなかったが、妙な腹痛と尻の穴がヒリヒリとすることから、きっと昨晩のは夢ではない……恐らく。でも一体誰が、なんのために、どうして。
「……くそ」
「誰だシャワー使ってんの」
「……大浪」
 キュ、とシャワーの栓を止めて浴室扉を開くと、覗き込んだのはやはり大浪だった。大浪はキョトンとした顔で「どうした」と聞いてくるのだった。
「いや……もう出るから使っていいぞ」
「なんか顔色悪いけど、寝れなかったのか?」
「……悪夢を見たようで汗をかいて起きたんだ」
「そりゃ大変だったなぁ。じゃあありがたく入らせてもらうぞ」
「おう」
 交代のように風呂を出てから置いてあったバスタオルを手に取る。大浪のご機嫌な鼻歌が背後から聞こえてきた。もしかしたら本当に夢なのかもしれない、だってそもそもここには俺の知り合いしか住んでいないのだから。
「馬鹿な夢だ」

 ここは高校時代の同級生を集めたルームシェアハウスだ。メンバーは五人で、元々みんなつるんでいた仲だから特に気を使うこともない。その中の花苑というやつの家が大層な金持ちで、この物件を格安で貸し出してくれている。そこから各々の大学に通っている。
 大浪は陽気な男で、焼けた褐色の肌に白い歯が眩しい男だ。毎朝のシャワーは欠かせないらしく、そういえばよく温泉にも誘われるな。それと、花苑はセレブなことを少しも鼻にも掛けない優男で、友情に熱いやつだ。この貸し家も自分は本来別のもっと良い所で住めるのに俺たちが住むから、と自分も名乗り出てきた。あとは小菅と夢野だが、小菅は少し馬鹿でヤンチャが抜けないやつだ。大体の高校時代の呼び出しは小菅のせいだが、憎めない。そして夢野は少し表情が乏しいローテンションマイペースだが、犬のように顔色を窺ってくるところもあってなんだか可愛げがあるように思う。
 こんな四人の中に襲ってきた奴がいると?
 ……そんなのは馬鹿げた妄想だ。きっと悪い夢を見たんだろうな。もしかして最近欲求不満とかで、淫夢を見てしまった……とか。あんな欲望を抱いていたなんて、そんなことあるはず……無いよな?

「おう東、早いな」
「小菅も、今日はちゃんと起きたんだな」
 冷蔵庫からほうじ茶を取り出してコップに注ぐ。花苑がお茶に凝っているようで、毎週のようにお茶の種類が変わっている。
「おー今日は木村チャンの出番だからな!」
「木村アナか。可愛いよな」
「そうなんだよーこのおっぱいにこのお顔、国宝だよな」
 小菅の変わらない態度にどこか安心する。買っていた菓子パンを引きずり出して、レンジに投げ込んだ。それからその前でじーっと待っていると不意に肩を叩かれた。振り返ると花苑が朝にも関わらずキラキラした爽やかな笑顔で立っていた。
「おはよう東」
「おーはよ、お前もパン食うのか」
「ご飯にしようかな。ベーコンと目玉焼き作ってあげようか?」
「あるなら食べるけど無理することない」
「じゃあ、僕と東と小菅の分だけ作ろうかな」
 大浪は大体果物とプロテインを食べてから学校へ向かうから、朝ごはんにパンやらなんやらは考えられないらしい。飲み込めないだとか。
「まだ夢野は寝てるのか」
「んーどうだろう。起こしてあげる?」
「いや、俺が行く」
「じゃあ四人分作るね」
 ほうじ茶を飲み干してレンジからパンを出した。それから二階へ上がり、夢野の部屋をノックする。しかし音沙汰ひとつない様子で、まだ寝ているみたいだ。俺はため息をつきながら部屋のノブを回した。
「夢野」
「……」
「おい、朝だぞ。また遅刻するぞ」
 夢野をユサユサと起こすが、なかなか起きる気配が無い。夢野は一人で起きるのが絶望的に難しいらしく、だからこそルームシェアを選んだ。そして俺と同じ大学もそういう意味らしい。俺を目覚ましがわりに使うなと言いたい。
「ん、アズ……」
「わ……」
 夢野にしがみつかれて、ベッドの中に引き摺り込まれた。器用に布団の中に入らされて、夢野の腕の中だ。いつも寝起きはこうだ。いや、寝ぼけているのか。
「おい夢野。飯食うぞ」
「アズ、おはよう……」
「おはよう。早く下に行くぞ」
「まだアズと寝てたい」
「うぐ」
 頭を抱えられるように抱きしめられて、夢野の胸に頭を擦り付けてもがくが、夢野の力は強く離れない。
「おい! 早く飯食うぞ」
 ドスン、と布団の上からダイブしてきたのは案の定小菅だった。小菅は大の字になってダイブしたようで、夢野はグフリと声を上げて起き上がった。
「スガ、さいあく」
「起きないのが悪い。ほら早く行くぞ」
 小菅に腕を取られて二人ヨタヨタと部屋から出た。俺をアラームにするよりも小菅をそばに置いたほうがいいんじゃ無いかと常々思う。
 それから五人で朝食を取り、各々準備をした。俺は夢野と一緒の時間割だから、ほぼ同じ行動をする。今日はバイトも無いし、早く帰って来れそうだ。
 朝食の最中、みんなの顔色を窺っては見たが誰一人何も変わらない様子だった。やはりあれは悪い夢だったんだ。
 そう思って生活する事に決めた。

 それからその日はあっという間に過ぎて、夢野と共に家へ帰ってきた。夢野は買い食いしたあんまんを頬張っていた。
「夕飯作るの俺らなんだからな」
「んー」
 毎日の飯の当番が決まっており、土日以外は自炊する事になっている。まあ、これもみんなが許せば各自でも良いからそんなに重要なことでは無いが。
「ハンバーグ、夢野も捏ねろよ」
 夢野はコクコクと頷いた。
「今日は久々にみんな揃うのか」
 ラインを見ながら小菅がそう言った。夢野と並んでハンバーグを捏ねながら小菅に問う。
「今日みんなバイトないんだな」
「あー、俺は今日サークルパスしてきた。なんか疲れた」
「サークルか。なんか可愛い子が入ったって言ってなかったか?」
「んー、まあね」
 小菅はテレビを見ながら生返事をする。もしかして誰かに横取りされたとかで機嫌を悪くしてるな?
「それよりも可愛い子が近くにいるからさ」
「そんな子いたんだな。お前彼女できたら移り気はよせよ」
「恋人ができたら一途に決まってんじゃん、本命だもん」
 ジュウウと肉を焼く音が突然耳に入る。既に夢野は成形を終えていたらしい。手にあるハンバーグを慌てて形を整える。
「まさかあいつに本命がいるとはな」
 こっそりと夢野に耳打ちする。夢野は興味がないのか、無表情にコクリと頷くだけだった。
 それからほどなくしてみんな帰ってきた。丁度夕飯も出来上がった頃で、すぐに食卓を並べてみんなで手を合わせた。
「これ本当に美味しい、東も夢野も料理上手だね」
 舌が肥えているはずだろうに、花苑がそう言って褒めてくれた。こういうところが花苑の出来る所で、そう言われると今後も頑張ろうと思えるんだよな。これを女の子にも同じように接するもんだから、全く罪な男だ。
「ご飯もう無いのか……っ!」
 大浪は美味い美味いと言って、炊飯器の中を夢野と二人で空っぽにしてしまった。レンチンのご飯を引っ張り出して二人して温めていた。
「俺の番も変わってほしい」
 小菅は絶望的に料理が下手だ。大体働いている小料理店で賄いやら何やらを貰ってきてそれを夕飯に置いている。だからその日はちょっとだけ豪勢になるんだ。俺はそれも結構楽しみにしてるけどな。
 そうしていつもの日が終わった。……かのように思えた。

「ぁあ……ん、ふぅ」
 また、まただ。自分の喘ぎ声で起きるのは不愉快で、身体の自由が効かないのも不愉快だった。また以前のように視界は真っ暗で、四肢が拘束されている。二日続けてだなんて、最悪だ。本当に夢なら、早く終わってくれ。
 身体を弄られて、視界を奪われている身体は最も簡単にビクついてしまう。反応なんてしたくないのに。
 フェザータッチというものだろうか、なんだか昨晩とは違って荒々しい動きではなく繊細だ。よく覚えていないが、きっと昨日とは少し違う触り方だなと思う。
「ぁ、だれだ……んっ」
 口を塞ぐように、恐らくキスをされる。顔を動かすと、顎を持たれて動きを封じられた。生き物のように口内を動き回る舌は、逃げ回っていた舌に器用に巻きついた。
「ぁえ、ぁは」
 涎が溢れて顎を伝っているように思う。二人分の唾液で溺れそうだ。それからずっと乳首をこねくり回されるように絶えずつねられ続けて、とうとう股間にも手が伸びてきていた。
「は……ぁ」
 恐らく全裸に剥かれていたのか、いとも簡単に股間を掴んだその手は、高みに上らせようとイヤらしく動いているのが動きで分かった。こんな奴に反応したくない、という思いとは裏腹に身体がどんどん反応を示していっているのが分かる。
 それから尻の穴にも手が伸びてきて、ヌルヌルしたものが塗り込まれた。それから細長いものが侵入してきて体内を動き回る。俺はその最中ずっと呻いていた。
 股間と尻の穴を弄られ続けて、息も絶え絶えで胸で呼吸をする。立て続けに夜中に起こされて眠いのと、身体が暑苦しくて熱がぐるぐるしているのと、犯人への苛立ちが混ざってグツグツと何かが煮え立つようだった。
「ぁ、あ……」
 尻にはいつの間にか何本かの……恐らく指が出入りしていて、腹の裏側を押し上げるようにタイミングよくノックしてくる。すると俺は声を抑えられず、忽ち唇で叫び声を塞がれる。
 暫く口内で舌が動き回り、酸素不足になった頃に俺はとうとう意識を失うように眠ってしまった。

「……まただ」
 ゆっくりと起き上がり、汗をかいた寝巻きを脱ぎ捨てる。体は違和感があるが、昨日のような痛みなどは特になかった。
 本当にこの中に犯人がいるのか、それともどこか……。
「!」
 ハッとして窓を見ると、窓は空いており網戸になっていた。寝苦しくて開けたのだろうか……それとも。苦い気持で窓を閉じて鍵を掛けた。もう暫くは開けないようにしよう……。
 とりあえず、昨日は何をしていたのかみんなに聞けばいい。怪しい言動があれば問い詰めてみるのが良いだろう。
「夜? 東の飯をたらふく食って風呂も入らず寝ちまったよ」
 何かあったか、と頭をガシガシ拭きながら答える大浪に首を横に振った。大浪の言葉に嘘はなさそうだ。事実、大波は夕飯を食べてから部屋から出てこなかったように思う。
「確か、ジョギングをしてお風呂に入って寝たかな。あ、その前に予習をしたかも……もしかしてうるさかった?」
 花苑は卵焼きを焼きながらそう答えた。花苑の部屋は隣にあるから、俺が変なことを聞いてそう思ったのだろう。寧ろ俺の喘ぎ声が聞こえてなくて安心した。
「あー昨日は徹夜でゲームしそうになって、二時くらいで切り上げたな。お陰で寝不足だ」
 ふあ、と大きな欠伸をされて思わず移ってしまう。それ以上は小菅は何も言って来ず。本当に眠いようでダイニングに突っ伏し出した。ゲームで徹夜はいつもの事だし、嘘をついてるようには見えない……。小菅は嘘を言うと大体分かるんだ。
「夜は……寝たかな」
 夢野は十二時には眠ってそのまま朝起きない。むしろ朝も起きないんだ。今日も今日とて起こしに来て、またそのまま布団に引き込まれた。夢野は本当だ。
「誰なんだよ一体」
 開いていた窓を思い出して、外部から侵入してきたのではないかと考えた。やっぱりこいつらの中にいるとは考え辛いよな。
 それから窓を閉めるようにして暫く過ごした。
 最初の夜は警戒してたみたいで眠りが浅く何度か起きていたが、一週間程経つと気配すらなくなり眠りも深くなった。
 やっぱり外部の者の犯行だったのかもしれない。普通なら騒ぐかも知れないが、大事にしたくない。何も死にそうになったとか、そう言うわけではないだろうし。
「隈、なくなったね」
「え?」
 花苑に指摘されて目元を擦る。
「ここ最近隈が目立つから気になってたんだ」
「ああ……眠れなかったけど、少し良くなって」
「ラベンダーのオイルでも置いてみる? 良い匂いでよく眠れるから」
 花苑は頷く前に部屋に取りに行ってしまった。花苑は気が効くから、いつもこう言う細かい所にまで気が付くんだ。花苑になら相談してみても良かったのかも。
 もし、今後何かしらありそうならすぐにみんなに相談しよう……。

 それから数日後の夜中、またしても俺は誰か……いや、ナニカに嬌声を上げさせられていた。腹には質量のある無機物が押し込まれている。股間も生暖かい何かに包まれていて、気持ちいい感覚はあるが内心気持ち悪さの方が勝っている。
「ひ、ぃだ……」
 乳首をつねられて痛みに声をあげる。すると股間にヌルヌルとしたものが絡みついてきた。俺はたまらず呻き声を上げた。
 それから程なくしてヌルヌルは股間から去っていったが、生暖かいものが腹と胸を滑る感覚がやってきた。それがだんだん顔まで近づき、首筋をチクリと刺すような感覚。身体を捩るが腕を一纏めにされていて身じろぐ程度にしか動かない。
「っぅ?!」
 ブルブルと震えるものが股間に被された。先端部分を刺激されて腰がビクビクと勝手に反応をしてしまう。声をあげるのを阻止できそうに無く、歯を食いしばって首を横に振るがやめてくれそうにない。
「ふっぅぐ……っ!」
 ビリビリと先端から快楽なのか痛みなのか、最早わからない何かが下腹部を刺激する。
「ゃ、めて……痛い」
 尻にも無機質なものが突っ込まれていて、股間にも機械のようなものが嵌められている。最早俺は歯を食いしばる他無かった。
 暫くその辱めが続き、俺は涙や涎などを垂れ流しながら何度か射精をした後に疲れ果てたのか気を失ってしまった。

「…………」
 何度目かの不快な寝起きに、顔を顰めながら立ち上がった。腰や下腹部が痛くて股間がジクジクと痛む。下着に擦れるだけで悲鳴をあげそうだった。顔はなんだかバリバリしていて一刻でも早く風呂へ入りたい気持ちだ。
 大浪が来る前に風呂に駆け込んで身体を洗い流すが、やけに股間が腫れていて泣きそうになった。
「みんなに相談がある」
 夢野はまだ起きておらず、大浪、花苑、小菅の三人は揃っていた。各々朝の支度や食事を準備していたが、俺が神妙な面持ちでそう言うとみんな手を止めてくれた。
「ここ最近、不思議なことが起こるんだ」
「不思議なこと?」
 花苑が首を傾げながら聞き返す。それにコクリと頷いてから、どうやって話そうかと考えた。
 先程窓を確認したが、開いておらず部屋に入ってくるにはドアからと言う選択肢しかなかった。にも関わらず入って来れるのはこの家の住人か、もしくはすでに内側に入っているものしか侵入できないはずだ。
 流石に突飛な考えかも知れないが、コイツらの中に犯人がいるとは考え難く、外部からの侵入でも無いとすると、最早実態のない何かしか考えられない。変な思考かも知れないが、そうじゃないと説明がつかない。
「毎晩のように何者かが部屋に侵入してくるんだ」
「部屋に侵入?」
「毎晩?」
 大浪と小菅が各々首を傾げた。そうだよな、馬鹿なことを言ってると思うよな。ため息を吐きながらここ最近のことを振り返る。もうすべて洗いざらい話した方が良さそうだ。
「一番初めが大体三週間前の夜で、寝ていた時に何者かに起こされたんだ。身体が何かに揺さぶられているのに気付いて起きた」
「それから次の晩に、また夜中に何者かに身体を弄られて起きたんだ。身体中をスライムが這っているみたいだった」
「そのあとは暫く何も無かったのに、昨日また同じような事が起きた。とにかくここの所身体を弄ばれている不快感で起きるんだ」
「最初はこの家の中の誰かかと思ったけど、前二回は窓が開いていたみたいで……外からの侵入かと思った。だけど昨日はちゃんと戸締りもしていたのに入ってきた……幽霊とか、そんなんじゃないよな?」
 そこまで言うとみんなの様子を見る。しかしみんなポカンと見てくるだけで、誰もアクションを起こさない。
「待って、えっと……何?」
「何言ってるのかわかんないよな、俺もなんだけど」
 花苑が困ったように笑う。
「三回ってことか?」
 大浪がなんてこともないようにそう言い放った。確かに合計したら三回襲われていることになるな。もしかして俺以外にもいるのか?
「俺が最初じゃないのかよ」
 小菅が眉を顰めてそう吐き捨てた。もしかして小菅も同じような目に遭っていたのか、それだったら早く言えば良かった。
「どこまでされたの?」
「わかんないけど、最初の時点で尻に何か入ってた……何とかは、考えたくないけど」
「え……?」
 花苑にそう答えると、花苑は絶句したように言葉を溢した。それから深いため息をついて目元を手で隠した。
「じゃあ、俺が最初ってことだな」
「え? 大浪もなのか……」
 思わぬ仲間に、不覚にも安堵の気持ちが生まれる。俺だけが狙われているわけじゃなかったのか。
「いや、あり得ないんだけど。どう言うこと」
 小菅が不機嫌丸出しで舌打ちをする。
「僕が、最初だと思ったのに……まさか君たちまで手を出していたとは思わなかったよ」
「いや、もう耐えきれなくてな。すまん!」
「ふざけんなよ。俺がこれから開発していこうと思ってたのに」
「……え?」
 今度は俺がポカンとする番だった。
 みんなは俺を取り残して話を進めていく。
「大浪は誰だっていいんだろ、性欲大魔神が!」
「小菅だって、おっぱいだのなんだのよく言っているでしょ」
「花苑も意外とやるよな、俺達には手を出すなって口酸っぱく言ってた癖に」
「おい……お前ら、何言ってんだよ……?」
 ハハ、と渇いた笑いを浮かべながら三人に問い掛けると、三人とも一斉に視線がこちらに向いた。思わずビクリとして席を立つ。
「俺が東の初めての男だってこと」
「僕は君のことが好きだってことだよ」
「俺だって正直お前にしか勃起しない」
 馬鹿なことを言う三人に、後退って距離を取ろうとする。何を言っているのか分からない、こいつらどうなっちゃったんだ……?
 もしかして冗談を言っていると思われてるから、揶揄ってるのか。
「お、まえら怖いぞ……俺、本気で悩んでるんだし」
 冗談じゃない、と首を横に振ると三人ともヘラリと笑った。それにサァっと血の気が引いて、慌ててリビングから出ようと室内ドアを開けた。

「おはよ」
 目の前に立っていたのは夢野だった。夢野は唯一コイツらのしていたことを知らないし、夢野は犯人じゃない! だって、あの三日間だけだったし……そもそも夢野は寝たら起きないんだから……!
「夢野っ! あいつら、可笑しくて……俺、あいつらに襲われた!」
「襲われたの」
「そ、そうだよ! ここ最近夜に、体を弄られて起きて……おかしいだろ?!」
 夢野なら擁護してくれると思い、俺は慌てて事実を告げる。三人ともグルであれば、上手く言いくるめられてしまう可能性があるからだ。
「そっか」
「夢野、俺は本当のことを言ってて……」
「知ってるよ」
「それで……え?」
 夢野に縋りついた手をキュッと握る。知ってるって、今夢野はそう言ったのか?
「毎日見てるから、知ってたよ」
「な、なんだよ……毎日見てるって、何を」
 夢野のシャツを掴んでいた手を取られて、夢野はニコリと笑った。自分の口許がヒクヒクと痙攣するのを感じた。
「アズの事、一分一秒も見逃したく無くてずっと見てるんだ」
「は、は……?」
「だから全部知ってた。ナミに荒々しく抱かれて喘いでたのも、ゾノにいっぱい気持ちよくしてもらって叫んでたのも、スガにとことん責められて泣いてたのも……全部見てたよ。すごい可愛かった」
 絶句した。何を言っているのか訳が分からない。どうしていきなりこんな事、みんなで寄ってたかって……俺のことを騙そうとしているのか……?
「……お前ら、変だって……なに、なんかのドッキリなのかよ」
 四人を見回すが、誰一人同意してくれる人はいなかった。急にゾクリと恐ろしくなって、夢野を押し退けて出ようとしたが、夢野に身体を羽交締めするように呆気なく取り押さえられて身動きが出来なかった。
「な、な……やめて、」
「かわいい、アズ」
 後頭部にキスをされて、体がガタガタと震える。何をされるのか、何を言っているのか全く分からない。今まで何年も付き合ってきたというのに、誰一人として今考えていることが理解できなかった。
「みんな、いい思いをしたのに俺だけが置いてけぼりなんて……酷いよね、アズ」
「や、やだ……夢野、はなせ……」
 夢野はいつも寝起きだと何にも出来ないし、ましてや一人で起きるだなんて無理だったのに。なんで今日はこんなにもしゃっきりしていて、俺のことを困らせるんだ……?
「だーめ。アズは俺と一緒にお部屋に行こうね」
「だ、やだッ! 離せよっ」
 ズルズルと引き摺られて夢野の部屋に連れて行かれる。ベッドに放り投げられて受け身を取るが、夢野は机に向かってパソコンをいじっている。俺は逃げようと足を扉に向けたが、夢野が声を掛けてきた。
「ほら、見たくない?」
「……そ、それ……」
 色々なアングルから映し出された俺の部屋が早送りに進んでいく。それから夜になって、誰かが部屋に入って来る様子が映し出されていた。
「ここが一夜目だね」
「……お、なみ……」
 大浪は獣の様に俺に覆い被さって腰を振っていた。俺は苦悶の表情を浮かべて小さく口を動かしている。あの時のなんとも言えぬ感覚が脳にフラッシュバックして、ブルリと体を震わせた。
「これはすぐ次の日だ」
「花苑、」
 花苑は俺に貪り食うように顔を舐め回したり体を舐め回したりしていて、必死に食らいついているように見える。花苑のところだけやけに時間が長くて、ずっと吸い取るように俺の薄っぺらい身体に口づけていた。そして何よりも言葉を失ったのは花苑の性液を顔や身体に塗りたくられていたことだった。
「すごいね」
 それからは毎日日の上り沈みを繰り返して、やっと人が出てきたと思ったら小菅だった。小菅は紙袋を持っていた。それから俺のベッドに乗り上げたかと思うと徐に袋の中身を取り出し、グロテスクな物体たちがベッドに散らばった。
「なんだよ、これ」
「おもちゃだよ」
 小菅は俺の股間の先端に何か装置のようなものを取り付けたり、無機質な男の象徴の形をしたものを俺の尻に突っ込んでいた。
「酷い、あいつら……最低だ」
「そうだね。アズが可哀想だ」
「お前も、なんで黙ってたんだよ……!」
 夢野の肩を叩くが、夢野は動じず、ジッと俺のことを見下ろしてきた。
「最初は勿論気に食わなかったし、暴露してやろうと思った。だけど」
「……なんだよ」
「アズが可愛すぎて、可哀想なのに続きが見たくなっちゃったんだ。そしたらゾノまで手を出すし……何回これで抜いたか分からないよ」
 その言葉にゾワっと背中に冷たいものが走り、視線を落とすと夢野の膨らんだ股間が目に入った。その瞬間にバッと立ち上がり、夢野と距離を取る。
「あ、怖かったよね」
「おまえ……ソレ」
「アズのあんな恥ずかしいところ見てたらこうなっちゃうよ」
「や、やだ……こっち来るな」
 部屋の隅に追いやられて、とうとうベッドの角に足をぶつけた。夢野は薄寒いような表情で口角を上げて笑っている。
「!」
「これで完璧だね」
 夢野に手首を取られて身体を押されると、そのままの勢いで転ぶようにベッドに尻餅をついた。その上から夢野が覆い被さってきて、俺は目を閉じた。
 首筋に夢野がむしゃぶりついている時に部屋の角を見上げた。つるりと光る黒い瞳が、無様に重なった俺たちをジッと見ていた。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -