厄介なかれ





藤塚と暮らすようになって早1か月。
もうそろそろ家具とかいろいろなものを雅章のところから運んでこなければならないとは、思っている…のだが、面倒くさいし、なにより藤塚のことが一番面倒くさい…。

いや、別に藤塚自身はいたって問題ないのだが、雅章のことになるとちょっとおかしくなるっていうか…。この間洋服を取りに行くって言ったときには「ミヤが逃げないように俺も着いていくねっ」と笑顔で言ってきやがった。さすがに冗談だとは思っているが、


「ミヤ」

「わ、なんだよ」

ソファーの上で寝っ転がっていた俺の上におもむろに乗っかってきた藤塚。
びっくりした…っていうかいつ帰ってきたんだ…?

「今日はミヤがご飯作るって言ったから急いで帰って来ちゃった!」

ふふふ、と嬉しそうに俺を抱きしめる藤塚。
気色悪い笑みだなあ…と藤塚の顔を見ていると急に藤塚が俺のほほにキスをしてきた。

「ちょ、」

「今日は一歩も外に出てないの。」

「え、あー…うん。一回コンビニ行った」

今日はジャンプの発売日なのだ。
だから起きて早々に近くのコンビニへ直行した。
そのことを藤塚に話せば藤塚はえっ、と短く叫んだ。

「そんなの、俺に頼んでよ!」

「え、いいよ。」

散歩がてら買いに行くだけだし…と俺がそう言えば藤塚がよくないよ!と反論してきた。
最近、こういうやり取りが増えている。
多分藤塚は今までの女の子に接するように俺に接しているんだろうと思うけど…別に女の子扱いされたいわけじゃないし、俺だってそんな些細なことくらいやるし、

「別に、俺そんなに過保護にされたいわけじゃないから」

そう言って藤塚を退かして財布と携帯だけを持って俺は外に出た。
すこし頭を冷やそう。
藤塚も追っては来なかったし、あいつもすこし頭を冷やせばいいんだ。
さて、どこ行こうかな…。


そう思ってきたのは昼に来たはずのコンビニだった。
あー俺ってつくづく友達いねえなあ…。
そう思って立ち読みをしているとなんだか見覚えのある男が煙草を吸っていた。
あれ?まさあ…
男も気づいたみたいで驚いた顔をしてすぐこちらにすっ飛んできた。

「雅章」

「お前ッ!」

「えっ」

がっしりと肩を掴まれて大声で何かまくしたてられる。
ああ、きっと勝手に部屋に入ったの怒ってるんだ…それもそうだよな、あんなことした後すぐに藤塚んちに転がり込んだわけだし…。

「今から来い!」

「えっ、いいの、」

そう言えばはあ?と不思議な顔をされた。
まあ、そりゃそうだよな…。

着いたとこはまあ、同じ場所で前来た時となんら変わっていなかった。
とりあえずヤった後…とかではなさそうだな…。
ぶっちゃけ他人がセックスしたばっかの部屋とかちょっと、いやかなりイヤダ…。

「座れ」

そう言われて前の定位置だったとこに座る。
目の前には珍しく茶が置かれた。
こんな俺様のやつも気配りはできるようになったのか…と感心して出された茶を飲む。

「で、何の用だ」

「あ?…別に、」

片膝立てて座る雅章はそっぽを向いた。
そうだ、今荷物持ち帰れば楽じゃね…?

「ちょっと荷物持ってっていい?」

「…構わねえよ」

「歯ブラシとかはさすがに捨てたっしょ?」

俺がそう言うと口ごもるかのように何も返事を返さない雅章
え、もしかして、

「泊まってく子とかに使わせてるとかじゃないよな…?」

「…んなわけねえだろ、」

きたねえ、と呟く雅章。
もしかして新しい恋人でもできたのだろうか?

「ふうん」

どうせ否定されるだろうし、別にそこまで知りたいわけじゃないから適当に流す。
俺の部屋だったところに行くと徐々に部屋のものが少なくなっていってるのが目で見てわかった。

「…?捨てたのか…?」

ていうかむしろ見覚えのないものがいっぱいある気がする、
俺こんなもの持ってたっけ…?

「…ミヤ、」

「!!…び、っくりした、」

「ダメだ、もう」

「は?ちょ、雅章…?」

雅章はそのまま俺に近づいてきたかと思いきや俺にもたれかかってきた。
俺は踏ん張って雅章を支えたが全体重を掛けているのかその重さに雅章もろとも倒れてしまった。もっとも被害を被ったのは俺だけだったが

「…どけ、って、まさあ、ッ!?」

気まずさから雅章から背けていた顔をグイッと掴まれて無理やり雅章の方へ顔を向けさせられて口をふさがれた…雅章の口で。

「…ン、ふ…!」

口内に雅章の舌が侵入して来てそのままヌルヌルを無遠慮に口内を掻き回される。
気持ち悪い、まるで虫がはいずりまわっているようだ…
雅章を好きだったときなんかじゃ絶対に思わなかったこと。

「…ッは、!」

「お前は俺のモンだ、逃がさなねぇ」

俺は涎が垂れた口元を無造作に拭って雅章を睨んだ
意味わかんねえ、どういうことだよ、
もういいや、なんか部屋のもの無いし…帰ろ、

「もう帰る。ここには二度と来なきゃいいんだろ?」

ていうかこんな、わざわざ怒らせるようなことしなくてもただ必要なもの持って帰るだけだったのに…誘ったのだってそっちだったくせに、気分の上下激しいんだよ、雅章は。

「は?」

「はっ、なせよ!」

腕を掴まれてまた冷たい床に逆戻りだ。
なんなんだよ、一発殴らないと気が済まないとか言い始めるんじゃないだろうな…?

「もう二度とここから出ねえ、の間違いだろ?」

「…は、」

そう言われてニタリ、と笑う雅章。
ゾクリ、となにかが身体を駆け巡った瞬間雅章は立ち上がって俺は持たれていた腕を引っ張られながらズルズルと床を引きずられた。
一瞬何が起こったのかわからなかったが思考が追いついて「なんだよ!」と叫んだがそのまま担がれて空中に放られた。

「…わぁ…っ!?」

ドスン、と落っこちたのはもともと俺のベッドだったところ。
なんか綺麗じゃないか…?まさかここで誰かとヤってた…とか…?
…やめろよな、なんだそりゃ…。

「ハッ、最初っからわかってた…お前がまたここに戻ってくるのを、」

だからお前のためにちゃあんと、片づけといたんだぜ?この部屋、
そう言って舌舐めずりをする雅章に俺は嫌悪感で顔をゆがめた。
気持ち悪い、
この言葉が今一番この状況に当てはまると思った

「…ふざけんなッ、離せ」

「あ?嘘つくなよ、お前のその顔が離さないでって言ってるぜ」

「意味わかんね、」

つか、乗ってくるなし…
そう言えば雅章は笑って喜んでるのか、と飛んだことを言ってきた。
こういうプレイがしたいなら気に入った女の子呼んで勝手にやってろよ…何故そこに俺を巻き込むんだ…。

「てか、俺には彼氏いるからこういう事はやめて欲しいんだけど。」

俺、怒られるから。
そう言って視線を逸らせばバシン、と頬に衝撃が走った。
俺は唖然として口をあんぐりと開けながらその衝撃を作った張本人を見た。

「…あ?なんだそれ。」

着ていたシャツの襟元を掴まれてベッドに押し付けられる。
身体が沈んで喉仏が圧迫されて、とてつもなく息が苦しくなった。
なんで、こんなこと…。
俺は自棄になって雅章の手をガリガリとネコのように引っ掻いた。

「…ぐ、…う、ッ…はっ」

犬のような息づかいで雅章を見上げるが、俺の目に見えた雅章はなんだか欲情しているように感じた。…嘘だろ、なんで…
雅章は確かに少しサドっ気のようなものがあったがこんな一方的なことしたことがない。…もしかして溜まってるのか…?

「…は…ッミヤ…」

ふと違和感を感じて少し息が楽になったときに自分の下半身に目を向けた。
俺はハッとして雅章を見たが雅章は俺の目なんか気にしないみたいで腰を振っていた。
なんだそのセクシーダンスは…

雅章は俺の太ももに自分の股間を擦りつけていた。
恥というものはないのか…恥は…。

「…ッ、…」

突然ガチャガチャと何かをしたと思ったらまた顔を掴まれて固定された。
な、なんだよ…、今度は…
そう思いながら雅章の顔を睨みつければフ、と笑う雅章。

「…?…ッ!?」



ビチャリ、という嫌な音に鼻を突く嗅ぎなれた匂い。
とっさに目を閉じたのでよかったがもし眼に入っていたらと思うと、やっぱり別れて正解だったと再確認した。


「は、…いい気味だぜ、…サイコーに似合ってる」

顔を触られてソレを塗り付けられる。
目を閉じたまま俺は眉を寄せてそのままでいた。




「…ンの、クソ野郎…ッ」

俺は全身全霊でタックルをかましてその場を逃げた。
あっちは全裸、こっちは服を着たまま。
…当然、勝ちは見えていた。




見たか雅章、俺を見くびるなよ!
途中コンビニに寄って顔を洗わせてもらった。
あのままじゃ大変不快だったし、なんだか顔がカピカピしてる気がしたから。

あの後、そのままセックスになだれ込もうとした雅章を静止して、風呂に入りたいからと言った、が…何故か風呂でヤろうと言い出した雅章にちょっとかわいこぶって「ハズカシイから、先に入って。」と俺的には嫌味入りでそういったところ雅章は納得して一人先に脱いでくれて、…まあ後はさっき言った通り。

結局荷物は何にも持ってきてないがちゃんと身体があるのでまあ、良しとしよう。
しかしなんで雅章はあんなに暴走しだしたんだ…、やっぱ溜まってたのか。
性欲はサル並にあるもんな



「…ただいま…。」

無事家に帰るとそこは真っ暗で誰もいなかった。
…藤塚は…?
まさかアイツも怒ってどっか行った、…とか…?
…ツバサちゃんのとこでも行ってたりして………。
いやいやいや、ないないない。うん、…多分…。
 

「…ミヤ…?」

突然聞こえた声に驚いて振り向くと案の定藤塚だった。
その瞬間ホッとした自分がいてやっぱり俺も藤塚に惹かれてるのか、と再確認。
なんて言うかこれも情、っていう奴か?

「…よかった、ミヤッ…」

持っていた荷物をドン、と床に落として俺に駆け寄ってきた藤塚に俺は少し踏ん張りながら藤塚を抱き留めた。
途端ふんわりと香るお揃いのシャンプーの匂いと藤塚の匂い。
この匂いを嗅いでいるとさっきのことすら忘れそうな気すらする

「…藤塚、…」

俺は藤塚を熱っぽい瞳で見つめた。
なんでだろう、今ものすごく藤塚が欲しい。
藤塚も、思ってくれてるといいけど

「…ミヤ、…愛してるよ、」

そう言われて俺は笑った。
そしてそのままキスを、…



「…ミヤ?」

「え、…?」

バッ、と身体を離されて驚いた顔で顔を見つめられる。
な、なんだ…?
キスをすると思っていたのに、なんだか肩透かしを食らったようだ。

「…なにこの匂い、…誰?なんでこれ、…誰が、?」

藤塚はなんだか混乱したように誰、となんで、を繰り返す。
俺はそれをただ黙って聞つめていた、
どうしたんだ、藤塚は…?

「ミヤ、もしかして俺を裏切ったの…?」

「へ、」

なんとも間抜けな声が漏れ出て俺は藤塚と視線を合わせた。
裏切る…?なにが、…!
俺はその意味に気付いてバッと藤塚から身体を離した。


「み、や…?」

「ちが、違くて、」

きっと藤塚はさっきの雅章の匂いにそう言ったんだ。
やっぱりあの時雅章に着いて行くんじゃなかった…、なんであんなことしたんだ…

「さっき、」

「…やっぱり、言った通りだったね」

そう藤塚は口を開いた。
俺は驚いて藤塚を見たが藤塚は気にも留めずにそのまま話し続けた。

「俺の言う通りにしてれば、こんなこと…、もしかして俺に心配して欲しくてそんなことしたの?」

それとも嫉妬して欲しかった…?そう聞きながら近づいてくる藤塚に俺はムカッとして顔を顰めた。

「ミヤはおバカさんだね…そこも好きだけど」

「…俺は命令とか、強制とか…嫌いだから。」

じりじりと距離を詰めてくる藤塚に逆らって俺は一歩ずつ後ろへ下がった。

「じゃあいいよ、もう」

クルリと回って俺に背を向けた藤塚に俺はえ、と声をあげてまさか振られた…と一瞬でどん底に落とされた気分になった。
だが藤塚はぴたりと止まって落ちていた紙袋を掴む。

「…藤塚、…?」

「…」

そのまま此方を向いた藤塚はなんだか様子が変で、少し、…少しだけ怖く感じた。
その手に持っている紙袋も、異様で…

「…ふ、じつか…っ」

喉に張り付くような声を必死で出すが藤塚は何も答えずに俺に歩み寄ってくる。
慌てて後ろに下がれば壁。
なんだか、デジャブ…?

眼前まで近づいてきた藤塚に目を閉じれば首に冷たくてズシンと重みがある何か。


「…うん、似合うね。」

凄く可愛いよ、
そう言ってカチャン、と部屋に響く音。
へ、…?

「大丈夫、もうほかの男には絶対にミヤを触らせたりしないよ」

こめかみにキスをされて抱きしめられた。
自分の首から続く鈍色に光るものを辿っていくと、


「ふふ、どこ見てるの。ミヤ」



「ふじつ、か…。」


藤塚がにっこりと俺を見ていた。


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