休日、用事を済ませて寮に帰る途中、見覚えのある顔がストリートACTをやっているのを見つけ、周りの観客に混じって見ることにした。決まった台本と決まった役に縛られないで周りの観客の反応を見ながら進められるストリートACTは、普段の稽古とはまた違った役者の一面が見れて嬉しくなる。周りの人に負けないくらいの拍手をしているとこちらに気付いたようで1人は少し恥ずかしそうに、もう1人は怪訝な顔を向けてきて、同い年なのに対照的だななんて笑ってしまう。



「なまえさん!見ててくれたんですね!」

「何してんの客に混じって」

「えへへ……たまたま見かけたからさあ。すごいよかったよ、椋くんの王子様!」


普段から王子様に憧れているだけあって、流石というか研究され尽くした王子様の所作と、それに合わせてお姫様を演じていた幸くんの女性らしさはとてもお似合いで、舞台の上で演じる2人の王子様とお姫様を観たいなと感じさせた。


「うわあ……!ありがとうございます!……はっ!幸くん、僕先に戻ってるね!」

「え、オレも行くけど」

「いいからいいから!2人でゆっくり帰ってきてね!」


何かに気が付いたかのような素ぶりを見せた後、逃げるかのように先に寮へと戻って行く椋くん。去り際に噛ませ犬がなんとかって声が聞こえた気がしたけれど。



「……なんか気使われちゃった?」

「椋はほんとこういうことに関してはお節介というか……まあいいけど」

「たまにすごいキラキラした目で見てくるよね……というか幸くんわたしに対して塩対応じゃない?お客さんに混じってたらファンサくれるかなーって思ったんだけど」

「はあ?するわけないじゃん」

「え〜幸くん結構神ファンサしてるって話聞くからわたしも神ファンサ欲しいよ!ずるい!」

「ファンでもないのに何言ってんの」

「えっ……!わたし……幸くんのファン第1号のつもりでいたんだけど……認知されてなかった……つらい……」


そう言って両手で顔を抑えて俯く。別に本気で落ち込んでるわけじゃないけれど、幸くんが普段ファンに向けてる顔を一度でいいから向けて欲しいなと思ったのも、旗揚げ公演の稽古の時からずっと幸くんのファンだっていうのも嘘じゃない。早く適当に流してくれないと、本当に泣きそうになっちゃうな、なんて思い始めたところで手首を掴まれ引っ張られる。と、同時に目の前に広がった幸くんの顔、手首を掴んでいない方の手で前髪をかき上げられ、柔らかくて少し湿った何かをおでこに感じた。

「……えっ、」

「……ファンにこんなことしないでしょ。ほら、帰るよ」

「ゆ、幸くん……!」


掴まれた手首をそのままに、ぐいぐいと引っ張られて歩かされる。先程の衝撃に正直全然頭がついて行かないけれど、手首を掴んだその手がいつもよりも熱くて、自然と頬が緩む。
付き合い始めてから、確かに距離は以前よりも近付いたしお互い好意を隠すこともなくなったけれど、部屋に2人で居たとしてもこうして触れ合うことは本当に稀で、だからこそこうやってたまに爆弾を落とされるとどうしたらいいのかわからなくなってしまう。でもそれはわたしだけではないみたいだから。もう少しこうやってゆっくり進んで行ってもいいかななんて。かすかに覗く赤く染まった耳を見ながら思った。







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