休日の昼下がり、MANKAI寮の一室。幸くんと天馬くんの部屋。今は天馬くんはお仕事に行ってて、他の団員もそれぞれ稽古や用事で出かけてしまっていて、寮全体が静かだ。そんな中、幸くんだけがいるであろう寮の部屋にノックをして小さく声をかける。


「幸くん、」

「なまえ?どうしたの?」


もしかしたら休んでいるかもしれない、と思いながら声をかけただけに返事が聞こえて安心する。手に持ったトレーを傾けないように気をつけながらドアを開ける。


「幸くん、ちゃんと休めてる?衣装デザイン考え出してから上の空だから、ちゃんと眠れてるかなって……はい、これココア」

「ありがと……大丈夫。そんなやわじゃないよ」


そう言いながらココアを啜るけれど、いつもよりも陰のかかった目元が気になってしまう。


「……でもちょっとクマ、できてる」

「大丈夫だって」

「……衣装作りは手伝えるけどデザインは手伝えないから、心配くらいはさせてよ」

「……じゃあちょっとここ座って」

「?なに?」

「いいから」

「……これでいい?って、な、なに!?」


言われるがままに幸くんの隣に用意されたクッションの上に座る。と、幸くんがすかさず私の太ももに頭を乗せる。びっくりしすぎて身動き取れずにいると、そんなの知ったこっちゃないというように淡々と言葉が返ってくる。


「何って膝枕。そんなことも知らないの?」

「膝枕は知ってるけど!なんで!」

「ちょっと眠いから寝かせて。誰か帰ってきたら起こして」

「え〜……普通にベッドで寝たら……?」

「起きれないから無理」

「……しょうがないなあ、」


そう言いながらサラサラの綺麗な髪を流れに沿って撫でる。驚いたのか、少し肩を跳ねさせた後、ボソッと呟く。


「子供扱いすんな」

「子供扱いじゃなくて恋人扱いですよ〜」

「……ならいい」


そのまま撫で続けているとすぐに、か細い寝息が聞こえてくる。やっぱり疲れてたんだな、と思いながらふと幸くんの前に置かれていたデザイン画が目に入る。不思議の国のアリスは新生春組の二回目公演の題材だ。かわいいものが好きな幸くんはいつもより張り切ってるように見えた。

本当は、幸くんの作った衣装を着て舞台に上がれるみんなを少しだけ、羨ましいなんて思ってしまう。わたしも男だったら、MANKAIカンパニーの団員になれたのだろうか。なんて、今まで何度考えただろう。でも、団員だったらこうして幸くんのぬくもりを感じることもなかったのだと思うと、舞台に立てない自分の不甲斐なさを少しだけ許せる気がした。みんなが帰ってくるまで、あとどれくらいだろう。もう少し、幸くんの時間を独り占めさせてくれないかな。




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