望まなかった展開
最近、なまえの態度が妙に引っ掛かる。
単なる反抗期なのか、自分が何かしてしまったのか。
嫌われたくない父親の心理なのか、なるべく彼女が不機嫌でいるのは避けたいと思ってしまう。
「ちょっと、真木ちゃん。」
「………」
「真木ちゃんってば!」
「っ、どうした。」
「大丈夫?何かあったの?」
紅葉に心配されて、今は任務の最中だということを思い出した。
激しく動くような任務ではなく、相手の出方を窺うようなものだからよかったものの。
「仕事中にぼうっとするなんて珍しいわね。」
「すまない。」
「別にいいけど…そろそろ動くわよ。」
「あぁ。」
集中しなければ。
動き出した標的の意図を探るべく、真木は思考を切り替えそちらに意識を向けた。
***
「おい。」
「ん?」
「大丈夫かよ、お前。」
授業がすべて終わったのに気づかずぼうっとしていたなまえに、隼人が声をかけてきた。
真木が出ていった日から、毎日同じことを繰り返している。
「え…あ、ごめん。」
「別にいいけど、何かあったのか?」
前の席の椅子に座り、隼人はなまえを見据える。
なまえは窓の外をちらりと見て、しばらく間を置いたあと何でもないと答えた。
これも毎日繰り返されるやり取りだ。
何もないわけがないのだが、なまえが話さない以上隼人には内容はわからない。
だからこれ以上踏み入ることができないのだ。
「………」
「帰ろっか。もうみんな行っちゃったよ。」
「…そうだな。」
なまえが表向き住まいとしているマンションと隼人の家はそれなりに近くにある。
そのため一緒に帰るというのはよくあることだ。
2人共が話さないため、ただ無言で歩いていく。
ようやくなまえが言葉を発したが、既に学校からだいぶ離れた曲がり角に差し掛かったところだった。
「あ、先に帰ってて。」
「え、…何で?」
「ちょっと本屋さん行ってくる。」
確か、今日辺り好きな雑誌が出る。
真木がいない間に起こる出来事の唯一の楽しみなのだ。
「じゃあ俺も行く。」
「いいよ、わざわざ付き合ってもらわなくても。」
「ちょうど俺の欲しい漫画も出たんだって。」
いつも曲がる角を通り過ぎ、同じ道を来た隼人。
そういうことならと、なまえもそれ以上は何も言わずまた無言で歩いた。
「あ、あった。」
雑誌コーナーの少女漫画のスペースに、目当ての本を見つける。
先月号を読んでからずっと楽しみにしていたのだ。
レジへ持っていき、購入する。
既に見終えたのか、隼人はレジ近くでなまえを待っていた。
「何買ったんだよ。」
「好きな雑誌。」
「もしかして、少女漫画?」
まだ好きなのかよ、と笑いながら彼は言うが、この話は他の同級生にも結構人気だ。
本屋に行く前よりは少し会話も増えたが、なまえは買ったもののこと以外考えていなかった。
今回の号で、物語が大きく動く。
好きな相手が先生なのか、同級生なのか、先月の話ではまったく予想できなかった。
アジトに帰り、ランドセルを少々乱雑に扱い買ってきた本の封を開ける。
パラパラと読み進め、中盤辺りでついに明かされた。
主人公が自覚したのは、同級生への恋心だった。
「………」
物語としてその方が可愛らしいものになるだろうし、読者の大半もそれを望んでいたと思う。
だけど、何故か残念な気持ちになってしまう。
年の離れた相手にも恋をするというのを描いてほしかったのかもしれない。
「っ、別に私のは、そういうのじゃ…」
違う、恋じゃない。
それは1年以上前に悩み結論を出したはずだ。
なのに心がザワザワする。
あんなに読みたかったのに、後半はどうでもよくなってしまっていた。
「真木、ちゃん…」
きっとしばらく離れているから寂しくてそんな錯覚を起こしているのだ。
早く帰ってきてほしい。
ベッドに寝転び、感情を押し込めるようにしてなまえは固く目を瞑った。
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