24th


 朝。
 日の出と共に目を覚ました。腕の中にいるクラルを起こさない様、気配を消して起き抜ける。夜を過ごした後の彼女の寝顔はあどけなく、扇情的で、つい後ろ髪を引かれる思いが宿るが服を着て外へ出た。
 日課の三十分ワークアウト。それが終われば直ぐにシャワーを浴び、ガウンのまま寝室へ向かう。
 クラルはさっきと変わらず心地良さそうに寝息を立てていた。しかし、今は僕の枕を、抱いて寝ていた。

(…………僕が、部屋を出る前と違うな)

 ベッドサイド腰掛け、彼女へと手を伸ばす。……やっぱり、僕が離れた時に一度起きていたのか。触れるより先にその目蓋が眠たげに開く。

「……ココ、さん、」
「まだ、寝てて良いよ」

 おはようございます。と、言いかけただろう彼女の唇を、頬へと滑らせた指先のひとつで塞ぎそのまま、親指でふふふと微睡み笑う唇を撫でる。柔らかく、愛らしい唇。

「僕ももうひと眠りするから、さ。枕に縋って眠るより、断然良いだろ?」

 キスをしたら察しの良い恋人は、僕が、滑り込めるだけの場所を開けてくれた。彼女の体温と、彼女の香り。味わいと呼吸。心音。「朝寝坊をしよう」と言ったら、「それは、素敵」と、喉を鳴らしたクラル。柔らかく健やかな腕が僕の体へと絡む。
 今日はお互いの予定まで、この家でゆっくりと過ごす。そう、二人で決めた。



 昼過ぎ。
 ティータイムがてらクラルとリビングで映画を観る。画面にはとある一族の晩餐会が映し出されていた。コメディだ。あえて薄暗くした部屋の波長に、ぴかぴかと光るツリーライトの波が重なっている。チカチカする。相性が良くないのかもしれないな。

「あの、ココさん……」

 ソファの上で寄り添っていた彼女が、不思議そうに僕を見上げた。

「もしかして、眩しいですか?」
「……なんで?」
「眉間が少々、険しくなっていらっしゃいますから」

 よく見てる。

「……よく見てるね」

 思ったら声に出ていた。まあ、悪い言葉でもないから良いか。実際言葉を受けたクラルの表情は、心なしか嬉しそうだ。誇らしそうでもある。

「あなた程ではありませんが、そのくらいなら私にも視えます」
「へえ」
「電気をお付けましょうか? それとも一度、映画をお止めした方がよろしいでしょうか? ココさんの視力は特別ですから、大切にしませんと」

 彼女の、映画の台詞よりもすっきりと心地よく聴きやすい声は今、心なしか頼もしい。

「そうだな……」

 可愛い。薄暗い部屋で混ざり合う、テレビから溢れでる波長とツリーについたLEDの波長。僕の目をチラつかせていたそれが今は、僕の恋人を、クラルをより可愛らしく見せている。纏められていないブルーネット。柔らかなベージュのニット。ゆったりとしたスエードのスカート。

「じゃあ……場所、変わってもらえるかな?」
「構いませんが……それだけでよろしいの?」
「いや、それだけじゃない」

 やや、置いて。

「だらけている様子で、みっともないと思ってしまうかもしれないが……クラルに、横になった僕の、その上へのって欲しい」
「…………え?」
「駄目かな?」

 クラルは、二度、三度と目を瞬かせたものの、僕の要望を承諾してくれた。それは本当の解決法なのかしらと言わんばかりの表情を見せているが、可愛く慎ましい僕の恋人は疑わない。勿論映画の見心地はさっきより最高で、断然良くなった。


 夜。
 早い時間から調理に取り掛かかり、少し豪華な夕食を摂る。クリスマスディナーの本番は明日だが、それでも、今夜の雰囲気も大切だ。そうして日付が変わる前にそれぞれ訪れる予定の為の準備をする。
 クラルは街にある教会のミサへボランティアのしに行く。僕は、貧困地域の子供達へのプレゼントを配る為、IGOへ。僕だけじゃない。四天王全員の職務だ。
 初め、彼女は僕の手伝いを申し出てくれたが長距離の移動をキッスに頼まざる得ない為、断った。凍傷にはしたくない。何より治安の良い場所でもない。

「君の用事が終わる頃、迎えに行くよ」
「ありがとうございます。……お気をつけて」

 日付が変わるよりも前。近隣だからこそ可能な低空飛行で送り届けた教会の近くで、彼女を抱きしめる。凍えない様に配慮をしたが、それでも夜露に冷えてしまったその身体を温めるように少し、長く抱きしめた。こめかみに唇を寄せる。愛を囁く。と、クラルも同じ言葉を返してくれた。クリスマスの前夜。
 IGOで今日に相応しい衣装へと着替える時、サニーに彼女の不在を揶揄われた。だから、これが僕等の関係の形なんだよ。と、話をした。常に一緒であることだけが、お互いへの愛の、証明じゃない。




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