春の空の色



銀色のホイール。黒色のタイヤ。新品の自転車に君を乗せて麗らかな堤防沿いを。さあ今日は、何処迄行こうか。
風に春の色が混ざって、日差しも柔らかくなって来たからきっとずっと、何処迄も行けるよ。梅の花を探して、地面から顔を出した若い土筆が犇めく畦道まで下ろうか。

後ろに乗った君は笑う。タイヤが少し潰れています。って。僕はちょっと拗ねた風を装って答える。それはしょうがないよ。って

良いからちゃんと捕まってな。お願いしたら君は間延したお返事と、くすくす笑い。僕の臍の少し上の辺りで絡んだ左右の指先。背中に、ぎりぎり届いたと笑う君の柔らかい体の感触…ん?あれ?

「…なまえ」
「はい。確り捕まっていますよ」
「いや、そうじゃなくて…」
「何ですか?」

肩甲骨辺りに感じた丸い角は君の顎。肩の上から僕を伺っている事なんてもう、見なくても分かる。悪戯心が芽生えたのかそこに有る、僕の筋肉の窪みをつんつんつんて。押している。くすぐったいのは体より、心だ。僕と付き合って増えた、君の行動と、

「なんか…胸、大きくなってないか、ぐえ!」

ぎゅう。て。腹回りを締め上げられて轢過された両生類の声が出た。君はむくれて僕を最低ですと言ったけれど。でも君は結局、僕の後ろに座ったまま(僕の服を掴んだまま)僕の傍に居てくれたから、僕はそれなら、最低のままでも良いと思う。君は、呆れた!と、僕に笑う。

陽気に目映く銀色の車体。飛礫を弾き上げる黒色のタイヤ。
君と2人で酸素で出来た小川のせせらぎを泳ぐ。空の高い所ではキッスが後からついて来る。だから僕等は、何処迄も行ける。隣近所の商店街も、遠くで見えているあの山岳の奥迄も。君が僕の背中に頬を擦り寄せてくれるから。

「なまえ」
「はい。」
「…好きだ」
「はい?」
「…なまえが好きだ。大好きだー!」

君は、僕の後ろで笑っている。

「…私もあなたが、ココさんが、だーい好き!」


それはつまりは、春の空の色をしたある日の午后。





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青春・∀・!



(12.01.19/掲載)
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