壁に穴を開けました
タバコで殺人は可能であるか。
タバコには、三大有害物質と呼ばれるものが含まれているのをご存知だろうか。なにか、この字面だけで人を殺せそうだ。
ニコチン、タール、一酸化炭素。その他に、発がん性物質60種以上、有害物質全体で200種以上も含まれているというのだから驚きだ。
脳はニコチンによって支配され、肺はタールでドロドロ。一酸化炭素はヘモグロビンとラブラブだ。
それでも、吸ってる本人は死なないし、煙を吸った周りの人への影響は顕著に出ない。
「ニコチンパッチじゃ限界だ!」
僕の脳はとっくの昔にショート寸前だ。
でも、禁煙すると弟に言った手前、そうやすやすと両手を上げてたまるかと耐えに耐え抜いた結果がこれだった。
そわそわガタガタ落ち着きなく部屋を歩き回る。
途中電源コードに引っかかったが、そんなの気にもとめないくらい落ち着かない。
ちょうどよく弟がリビングに来たので、肩を掴んで向き合った。
「この惨状を見てわかるだろう?頼む、裏口で吸うからタバコを返してくれ。でないと狼男にだってなれそうだ!」
なるべく取り乱さないように心がけて話したが、欲求が強すぎて若干荒くなってしまった。しかし、これでこの不快感は伝わっただろう、と足を揺すりながら詰め寄る。
「タバコは駄目だ」
「わかってくれ、必要なんだ。ニコチンで思考回路を繋げなきゃこの仕事は…」
「その代わり、」
もう慣れっこだ、とニコチンパッチをもう1つ渡してくる。結局はそうなるのか…と落胆しながらも、無いよりはいいだろうとそれを受け取った。
「それと」
切れる前に仕事に戻ろうと半身捻った所で声が掛かる。顔はまだ弟へ向いたままだ。
彼はそっと呆れたように僕を指さした。
「残ってればいいね、データ」
じゃ、と後ろ手を降って部屋へ戻っていく弟。このストレスを全てタバコのせいに出来たなら、僕は永遠に禁煙できるのだろう。そうしたらきっと世界は平和だ。