肉と男女関係の因果関係について


焼き肉に一緒に行く男女の関係は深いっていう結果が出ているらしいの。
慎也くんはどう思う?
え?なに?そんなの興味ないって?
なーんだ、おもしろくないわね。

それでね、慎也くんに質問なんだけど、キスする時って口臭を気にしたりしない?
は?どうでもいい?
んなわけないでしょ、気にしてる。
は?よく言い切れるって?
当たり前でしょ。ポケットにブレスケア入れてる人間が気にしてないわけないじゃない。
えーと、なんで知ってるかって?そりゃこの前ゴミ箱の中のレシート見ちゃったわけよ。
ちょっとまって、言っとくけど私、慎也くんのストーカーとかじゃないからね。
掃除してたときに、たまたまみただけだから。
そう、たまたまだから、そこんとこ外さないでね。

で、話戻すけど、体外の人間気にするわけよ。もちろん私も気にするわよ。
ニンニクなんて食べちゃった日にはキスなんてもちろん息が吹きかかるような距離で話なんてできないでしょ?
私は無理。だってどんなにかわいく「狡噛さん、おはようございますッ」なんて言ってもニンニク臭もわんとしたら「くっせーコイツ。ぜってー昨日焼き肉かなんか行きよった!」とか思わない?
私だったら思うよ。そして気付かれないように息止めて、口で息しようと必死になるね。
ってかそんな経験あるし。
は?それよりもさっきの全然かわいくないって?
うっさいわ!

もう!話進まないじゃない!
だから!とにかくどちらかが臭かったらキスする木にもならなければ、キスしようとも思わないわけ。
ここまでオッケー?
だけど、焼き肉みたいに2人で口臭臭ければ問題ないのよ!
まずこれ1つ目の理由ね。

待って待って、慎也くん興味なさそうに1人で焼き肉つつかないで。
あ、ちょっと、それ私が育ててた焼き肉だからやめてくれる?
だからそれ私のだって!もう!

まあいいわ、それよりも話の続きよ。
んでね、2つ目の理由言うわよ。
なに?もういいって?
慎也くんっていつも私の話そうやってないがしろにするわよね。
私が話さなかったら結構慎也くんだまりんこだからしんとしちゃうじゃない。
・・・ちょっと突っ込んでよ。ひとりでだまりんことか言って恥ずかしいから。
慎也くんそう言うとこだめね。
・・・
ごめん、嘘だからそんな顔しないで。ほんと謝るから。

もう、慎也くんそろそろこの私の性格分かってほしいと思うの。
仮にもこうやって食事にふたりで来るような仲だし、それもこれが初めてとかじゃないでしょ。
それに毎日のように仕事同じくしてんだから。
いい?アーユーオッケー?
・・・はい。さて、もう話し戻していいかしら。
なに?俺のせいにするなって?
悪うございました。私が話それまくってんのよね。ハイハイ分かってますって。
・・・だからそんな顔で見ないで。

だから!話すわよ!
んで、2つ目の話なんだけど、焼き肉ってさ、結構性格出ると思わない?
例えば慎也くんってさ、結構自分の肉って自分で焼きたい人間でしょ。焼き肉奉行っての?
自分がこの肉は絶対に食う!って決めた肉には絶対に誰にも触れさせないよう、自分のテリトリー入れるでしょ。
そう!この肉よ!
私を見くびらないでね、これでも結構いろんな者見てるし考えてんのよ。
・・・だから、そういう痛い人を見る目はやめてくれる?
私もそれなりにガラスのハート持ってるんだから。
そんで、話またそれたから戻すけど、だからと言って潔癖ってわけでもなく私がつついてる肉も平気で食べれたりするし、つまり、焼き肉ってそれぞれの箸でつつき合っている者をそれぞれが共有するわけ。
男女間で来てたら多少なりともそういうの気にするじゃない?
付き合う前のオドオドドキドキカップルが焼き肉来て肉食らうと思う?
私じゃ絶対できないね!
だから、やっぱり肉を食らうってのは恥ずかしめを伴うわけだけど、それを平気でしちゃえる男女は親密な関係以外にあまりないと思うの。

それにね古代から1つの火を囲んで食事をするって言うのは神聖な儀式だったわけよ。
そんな感じに1つの火を囲んで食事をするスタイルの焼き肉、男女間の仲を深めるのにばっちりな食事、どう?
ちなみにこれは私の友達の話だけど、焼き肉やの近くにはラブホがある可能性が非常に高いらしい。




「なんだ、最後のどうでもいい話」
「いや、なんか結局私が言いたかったのはそこなの」
「・・・お前の友達大丈夫か?」
「結構頭のいい子なんだけど、時々こういう変な情報仕入れてくるの」

そう言うと心底楽しそうに笑いをこぼし、名前はそのままビールジョッキを豪華に煽る。
ああ、世の中こんな女ばかりになってしまえば、世も末だ。



名前は俺と同じ監視官で、所属先は違うにしろ同じ職業としてよく顔を合わせ、こうやって食事に行く仲である。
初めてであったのはかれこれ1年ほど前で、同い年で同じ職業、かっちりしてそうな見た目なのに結構くだけた性格ですこしバカっぽいところが俺は嫌いじゃない。
今日もスーツのボタンを1つなくし、前を開けたまま仕事をしていてそのせいで潜在犯逮捕のときにその上着が引っかかって危うく大けがするところだったとか、本当に情けないドジなところもあるのだが、宜野座に負けず劣らずの冷静な思考も持ち合わせる、一言で言えば食えないやつだった。
そんな名前とは付き合っているわけではない。
ただ、キスをしたことはある。

焼き肉屋に来るのはかれこれ5回以上を重ね、仕事に疲れると自然と2人とも肉を食いたくなり定期的に焼き肉に来ることが多くなったりする。
普通に飲みにいくこともあるのだが、外食というと焼き肉という思考にこの頃とくにそう考えてしまいがちだ。

疲れているのか、もしくはさっきから名前が訴えるように、そういった仲に発展したいという願望を実は持っていたということなのか。
まあ俺から言わせれば、両者とも正解だった。
それは聞かずとも名前も同じだろう。


「で、お前は俺とセックスがしたいのか?」
「・・・なんで慎也くんはこうも直球なの?」
「つまりお前もこういいたいんだろう?」
「・・・だから慎也くんはやりずらいのよ」

そう言った名前の顔は焼き肉から発する煙によってしっかりと見えない。
ただ、少し困った表情の名前の頬は、いつも酒を飲む時よりも赤く染まっている気がする。
俺はそんな風に名前をさせることが嫌いじゃない。
言い方を変えてもっと分かりやすく言うのであれば、照れた名前を見るのは好きである。

「で、どうなんだ?本当のところは」

そう聞いてやると名前は必ず俺の上を行った発言を返してくるだろう。
負けず嫌いな女なのだから。

「それをさらに聞き返すけど、慎也くんはそうやって平然と回答してくるってことは、乗り気なんだ?」

名前には今の時代死語であろうが、小悪魔と言われる、ちょっと大人のお姉さんを演じようとする時がある。
そう、今のようにわざと相手が困るような質問を投げかけ、自分は高見の見学をしようと上がりを決め込むような発言をする。
今までこうやって何人もの男を落としてきたのだろうと察しがつくような、そんな言葉で。

ただ、俺も今までの男と同じように考えられては心外だ。

「俺はやってもいい。名前と付き合うということになってもイエスと答えれる」
「どうして?」
「俺たちはただでさえも一般人にとって理解されにくい職業だ。そんな職業同士が恋人関係になるってのは利点だと俺は考える。それにさっきのお前の話じゃないが、こうやって気を張ることもなく、気兼ねなく食事ができる異性ってのはそう言う対象に十分なり得る」
「なんだかつまんない回答ね」
「もっと言わせたいのか、俺に」
「なによ、他にあるの?」

そう言って頬杖を付いて俺の方へ視線を向けてくる名前の瞳は、気のせいかいつもより潤んで見える。

「あるよ。名前のそんなちょっと強気な態度も、時々ちらりと見える胸元にドキッとするところとかな」
「・・・ふうん」

あまり表情変えずに聞いているようで名前はこれでも結構、いや、かなり照れている。
が、名前はそれを表に出すのを極端にいやがる。
名前はいつも相手の立場よりも上にいたい人間なのだ。

「じゃあ次は俺からの質問だ」
「何?」
「さっきから意味深な発言をしているが、分かりやすく直球で答えてくれ。わざわざ焼き肉を2人で食べてそんな話を聞かせられ、俺と何がしたい?むしろ、どうなりたい?」

その質問を繰り出すと、俺は目の前の名前の瞳をじっと覗き込む。
先ほどまで黙々と煙を上げていた七輪からは殆ど煙も上がらず、名前の顔が先ほどと比べよく見える。
ぴくりと動かした眉は、彼女が挑発に負けないように気を張った証拠である。
いつも自分の意見に食いつかれると、名前は右眉毛をぴくりと動かす、分かりやすい人間なのだ。

「そのまんまよ。キスまでして、中途半端にこのまんまの関係はつまらないでしょ。私も慎也くんのことは好きよ。もちろん、仕事の面でのパートナーとかじゃなく、男女間のパートナーとして。
それに私こう思ってるの.

慎也くんと私、きっと体の相性もいいだろうって」


艶のある声で、程よいピンク色の唇がにこりと弧を描く。
きっと宜野座がこんな名前を見れば即座に顔を背けるだろう顔でそう言う。


おいおい、お前、誰に向かってそんな言葉を向けてんだ。
俺をそこらの男と一緒にすんなって。

「じゃあ話が早い。店を出よう」

俺がそう言うと名前は一瞬視線を合わせ、ゆっくりと立ち上がった。
その視線からはまるでこの場に似合わないような、コングがなる前のプロレスラーのような闘志がにじみ出ていた。







店を出るとまるでギャグのように店から右手奥から激しいネオンに照らされた趣味の悪い建物が見える。
まるでこれを狙ってこの店を選んだのかと名前に問いたくなるようなシチュエーションだ。
しかしそれとれとは別だろう。
この焼き肉屋は初めて焼き肉に行ってから今まで通っているずっと同じ店で、今のこの時を狙うためだったなんて仕込んでいるにもほどがある。
ふと名前もこの状況に気付いたのであろう、ネオンに導かれるように視線を向けると、ゆっくり俺を見上げ、ゆっくりと俺の右腕に腕を絡めた。

「何、慎也くん今、何見た?」
「何って、いま名前が見たものと同じだ」
「あっそ、じゃあ話は早いって言いたいところだけど」

そこで名前の手が俺の手をするりと俺の目の前にすっと立つ。

「ごめんなさい。私ラブホでセックスしようなんて安っぽい考え持ってないから。そんなゲスい場所は嫌いなの」

まるで勝ち誇ったような笑み。
名前の背中からは勝利のコングが鳴り響いているようだ。



だが、コイツも甘い。
俺を安く見すぎている。

「これ、何だと思う?」
「へ?」

俺のポケットから出てきたのはホテルのルームキー。
それも、ビジネスホテルなんかのものでなく、グレードなんかで置き換えるともちろんAランクという場所に位置するような、誰もが知っているような高級ホテル。

「悪いな、俺の方が一枚上手だったようだ」

そう言って指の間で回っていた鍵をぎゅっと握って、もう片方の手で名前の腰に手を伸ばしながら道を歩き始める。
今日は名前からあんな話をされ挑発されてそれに乗る以前に、俺自身が仕掛ける気満々だったってことだ。
名前のことはよく知っているつもりだ、ちゃんとした場所とシチュエーションを用意したつもりだ。



「・・・だから慎也くんはいやなのよ」
「なんか言ったか?」
「何にも言ってませんー!」

さっきまでかわいく話をしていたかと思えば急に態度を一変してなんとかして俺の上に立とうと一生懸命になる彼女がかわいくて仕方がない。
もう1つ言えば、こうやってまかしてやった瞬間のこのすねた一瞬が一番かわいい。

「名前のそのすねてる姿が一番好きだぞ、俺は」
「私はその今の慎也くんの勝ち誇ったような笑顔が一番嫌いよ」



ギラギラした安っぽいネオンを背中に俺たちはゆっくりと街の仲へと消えていった。







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