夜中にふと目が覚めた。
今のように夜中にふと目が覚めることはよくあることで、いつもそれを私はまるで現実に引き戻される瞬間のようだと思う。
夢の中に足を突っ込んでいる私を、引き戻すようだと。

ゆっくりとベッドから体を起こす私は何も身に纏っていない。
昨日は仕事が上がるままこの部屋に転がり込んで、一緒に食事をして寝室に入ったと同時にいつものように行為に及んで、気付けば気持ちよい疲労感のまま寝てしまっていて、今に至る。
時計を見れば2時過ぎ、眠りにつく前に時計を見たときには1時頃だった。
だいたいこの時間に目が覚めてしまうと、私は30分は寝ることができない。
近頃仕事が忙しいというのに睡眠不足になってしまっては元も子もない。

ベッドの柵へと体を預けると、ベッドサイドに置いてあるタバコへと手を伸ばした。
ゆっくりと音を立てないように気をつけながらタバコを手に取ると、お気に入りのジッポを使って火をつける。
すっと息を吸い込むと、不健康な煙が肺の中まで入り込み、私の心はなぜか自然と穏やかになっていく。


いつからだっただろうか、おいしくもないタバコを好んで愛用し、気付けば手放せなくなってしまったのは。





私は縢と同期で、同じ時期にこの公安部一係に配属された。
潜在犯となったのはちょうど半年ほど前で、原因は仕事によるストレスに加え、家族が事故に巻き込まれたことが引き金になったようだ。
対人的な仕事についていたのだが、なんせそこはクレーマーが多く、共に働く友人もサイコパスの濁りに対しセラピーを受けている人が殆どだった。
ただ、会社もそれを分かっている上で雇っていたので、セラピーを受け持つ先生は腕のいい先生で、その先生にセラピーを受ければだいたい問題ないほどに下がることが殆どだった。
半年前、家族が交通事故に巻き込まれなくなる事故があった。
元々父親と2人だったこともあり、父親がそのまま帰らぬ人となった瞬間、私の運命は決まっていた。
通夜が終わったと同時に私は施設行きだった。

父も失い、職も失っていたので、未来もうしなわれたとしても大して取り乱すこともなく、施設で半年近く暮らしていたとき、お迎えが来たのだ。
その時の狡噛さんと宜野座さんの姿は一生忘れないだろう。
あのとき見えたのは光だったのか、むしろ暗闇だったのかは分からない。

ただ、あの瞬間に狡噛さんに何か特別な気持ちを抱いたことは覚えている。
見た瞬間、ああ、この人に深く関わってはだめだと、頭の中で警報が鳴り響くような。
この人はだめだ、これ以上近づいてはならない。

逆にその警報は近寄ってみたいと思わせる動機にもなり、私は自然と狡噛さんに引かれていった。




ピンク色の煙草をくわえ、もう一息吸い込むと、また胸の中に煙が送り込まれてさらに私の心は落ち着く。
隣へちらりと顔を向けると、私と同じく上半身裸のままの男が横たわっている。
目を閉じて静かに胸を上下させる狡噛さんは寝ていると年齢相応に見え、てをのばせばすぐに触れられるような近い存在だと感じれる。
でも、現場で声を張り上げターゲットしか目に入らない狡噛さんは、あまりにも遠い。

こうやって煙草を吸い始めたのも狡噛さんの影響だ。
どうやれば近づけるのか、まず私が起こしたのはタバコを吸うことだった。
女性らしくピンク色のパッケージのかわいいタバコを選んだ。
はっきり言って、今でもタバコはまずい。
おいしいとは嘘でも言えない。
でも、今やタバコはなくてはならないものとなっている。
タバコを吸うと、なぜか心が落ち着くのだ。


カタリと音がして、驚いて狡噛さんの方へと振り向いたが、どうやら寝返りを打っただけで、起きたわけではないらしい。
私は一瞬強ばらせた体から力を抜き、小さなため息を付いた。
夜中に1人で起きているというこの現状、なんだか後ろめたいのだ。




『名前、本当にその人と付き合いたいのなら、寝ちゃだめよ。先に寝ちゃったら結局その後も寝ることを目的とした関係にしかならないんだから。経験者の言うことよ、気をつけた方がいいわ』

そう言って真っ赤な唇が弧を描き、私と同じように煙草を吸っているが、私の何倍もそのタバコが似合う志恩さんはいつだったかこう言った。
思い出すたびに胸が痛くなる。

そのアドバイス、遅いから。
もう既に、寝ちゃってるから。



ふと、私はまた息を吐く。
私の未来は、人生も、恋愛も、真っ暗だ。



「・・・!」
「なんだ、起きているのか」

ふと腰に指先が触れ、私は驚きとともに体を震わせた。

「こ、狡噛さん、危ないから・・・」
「こんな時間に煙草を吸うお前が悪い」

狡噛さんは寝そべった体を私の方へと転がし、そのまま私の腰に腕を巻き付けにくる。
私はあわててベッドサイドの灰皿へとタバコをもみ消し、狡噛さんの頭に手を触れた。
手に狡噛さんの堅い髪質の感触が伝わる。

「寝れないのか?」
「起きちゃって」
「そうか」

そうだけ言うと、狡噛さんは私の腰を強くつかんだかと思うと、そのままベッドの中に引きづりこまれる。
そして、何の言葉をかける間もなく、狡噛さんの胸の中に引き寄せられた。
反論の声をかけようと思ったものの、こんな状況になってしまえばもう、何の言葉も出て来ない。
ただ私は広くて熱い胸に抱かれるだけだ。

ふと、頬に大きな手のひらが添えられたかと思えばぐいっと強引な力で上を向かされ、そのまま触れるだけのキスをされる。
離れていくときにぺろりと唇を舐められて、肩がぶるりと震えた。

「名前、おやすみ」

狡噛さんは寝ぼけている時、普段は考えられないような甘え方をする。
その甘えは私を驚くほどに喜ばせる反面、心をぎゅっと握りしめるような苦しさも味わうこととなる。


狡噛さんの胸は、大好きだ。
でも、ものすごく苦しい。

ゆっくりと目を閉じたがまだ寝られそうにもない。
私は狡噛さんに気付かれないよう、また1つため息をこぼして、いやに耳につく時計の音に耳を傾けた。







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