視界の明るさに私は少しずつ意識を戻し、眠りから覚めた。
うっすら目を開けるが眩しすぎて目をしっかりと開けることができない。
まだ覚醒しきっていない頭の中ではこの後起きた後にすることは何だったっけとか、夢の内容は全く覚えてないので深く眠りについていたのだろうとか、いろんなことが駆け巡る。
起きたばかりの体には妙な気怠さがつきまとっているが、不快というわけではない。
適度な運動をした後のような、少し疲れたような状態。
私は体を動かすことが基本好きなので、今の感覚は嫌いではない。
スーツが素肌に気持ちよく、光が眩しいので目を瞑ったまま頭を朝日が射す混む反対側へと動かすと、頭をズキリと痛みが走る。
ああ、そう言えば私は昨日結構飲んでいたような気がする。
ということは今日は土曜日だと、もっとゆっくりできるなと、ごろんと体ごと太陽の光に背を向けた。
ベッドの端っこまで転がったようで、だらりと腕がベッドの下へと重力によって垂れ下がる。

と、はてと私は自分の頭の中にいくつもの疑問が浮かび始めた。

私の部屋は朝、こんなにも明るかったかと。

私はあまり朝に強くないため、というか朝の眩しい光が苦手なので、寝室はなるべく直接朝日が入り込まないようにしてある。
それが今、私が目を開けるのもおっくうなこの状況、何かおかしい。

それに私の部屋のベッドには柵がある。
小さい頃から愛用していたベッドを今もそのまま使っているので、柵があるのだ。
だらりと手が垂れ下がらずに、柵によって阻まれるはず。

それに、何なのだこの体の気怠さ、そしてその気怠さは腰を中心に全身に感じている。


嫌な予感しかしない。
この場所に対しても、昨晩のことに対しても、というかそれ。

昨晩のことを覚えているかと聞かれれば、私はノーと答えたいのだが、残念ながら、イエスだ。
私は今まで気持ちよくシーツにくるまれていたのんも関わらず、今や変な汗が噴き出してきた。
夢ならばさめてくれと願うのだが、もぞりと背後に人の気配を感じ、もう目を背けることもできないと覚悟を決めるしかない。
だと言っても私は怖くて目を開くことはできない。


と。



「ひゃああ!」
「んだよ、今更そんな声だして」

腰に手がそっと添えられ、私は驚いて思わず大きな声を上げた。
私は叫びながら目をぱっちり開けて、振り返る。
本当は振り返りたくないけども、振り返る。
人間の本能としての反射的行動なので、しょうがないのだ。

「おはよう、ナマエ」

なんでこうも、彼は余裕な笑みを浮かべられるのだろう。
目の前で意地の悪そうな笑みを浮かべる男、ユーリはもちろんのこと、上半身に何も着用していなかった。
昨日の私も同じで、私は思わず自分の胸元のシーツを引き寄せた。
昨日のことをふと思い出し、体が固くなりなんだか火照る。

「・・・お、おはよう」

ユーリと私は、中学からの友人だ。



もう1つ詳しく説明すると高校では部活仲間であり、家もご近所さんの幼なじみに近い存在である。
高校の頃はよく部活帰りにコンビニによっておでんを食べたり、土日にはジムに一緒に通ったり、高校卒業後も月に何度かの見に行くような仲だったりする。

私は今、自分がそんな状況になってやっと思うのだけど、それぞれのことをよく知っていて、今までさんざん遊び尽くしてきた友人と寝てしまうほど恥ずかしいことはない。

「何固まってんの?」
「・・・いや、だってさ」
「だってなんだよ」
「いや、ちょっとまって、私、ついていけない・・・」

私は思わず頭を抱えるように、枕に頭を埋めた。

今願うことはただ1つ、昨日の夜に時間を戻したい。

「オイ!」
「ひいいい」

ユーリの指先がむき出しの私の肩に触れて、私は反射的に体を引いたのだが、その瞬間もともとベッドの端に横たわっていた体がぐらりと揺れて落ちる。
私は思わず目をつぶったのだが、衝撃のかわりに柔らかい感触。
肩に腕をまわされていて、私は裸のユーリの胸の中にいた。

「ちょ、ま、まって、やだ!」
「何だよ今更」
「だ、だって、わ、わたし、付き合って・・・」
「ないけど、何か?」

あまりにも潔いユーリに私は思わず顔を上げる。
近距離で見るユーリの顔は相変わらず美しかった。



中学になり、ユーリがすんでいる場所の斜め前に転校してきた私はユーリの存在を知りながら、実は卒業間近まで話を一切したことはなかった。
ユーリは斜め前のアパートに一人暮らししていた。
中学校から一人暮らしなんてあり得ないと思ったけど、実際にユーリは一人暮らしをしていた。
1人で、この街で生きていた。
ユーリと初めて話をしたのは家の前だった。
家に帰ってきたときにユーリは私の家の前を通った。
ただ、「こんにちは」というあいさつをしただけだったのだけど、なんだか妙な気分になった。
ああ、この人と私は仲良くなるんだろうって。
嘘みたいだけど、本当に思って、実際にその後そうなるんだから、直感って怖い。

その後、高校では剣道部に入った。
なぜ入ったのかと言われたら、なぜだろうと言い返すだろう。
高校入学直後、部活の勧誘の掲示板でなぜか剣道部のチラシが目に入って、誘われるように剣道部に入った。
そしたら、そこにユーリがいたのだ。
中学の頃からユーリのことは知っていた。
ユーリは男にしては長い黒髪に、女の子なら誰もが振り向くような容姿を持っている。
それにちょっとすれているようで、実は正義感に満ちあふれた青年だった。
中学の頃からユーリは有名で周りの女の子はみんなかっこいいかっこいいと話題をかっさらった人物だった。

「お前、こういうの、慣れてなかった?」
「な、慣れてないとか、そういう、問題じゃないし!」
「そうだよな、高校の頃も、つい最近までも彼しいたし」
「そんなのどうでもいいから、ちょっと、うで、離し・・・!」

ユーリの胸に思わず腕を伸ばして手を突っ張るのだが、力を入れるほど、ユーリの力が強くなる。

「今更そんなに恥ずかしがんなよ。昨日なんてアンアン声上げてたじゃねーか」
「ぎゃーーー!ありえない!」

私は思わず自分の耳を塞ぐ。

「言ってやろうか?お前が俺に言った言葉」
「大丈夫、必要ないから」
「涙浮かべて気持ちいいって言ったの誰だよ」
「だーかーらー!やめて!!」

私は大きな声を出すのに疲れて、力を抜いて大きなため息をついた。


「覚えてないとか言わせねーぞ」

覚えているのだ、本当に残念ながら。
ユーリに向かって思わず口からこぼれた愛の言葉も、ユーリが私の耳元でささやいた心が満たされた愛の言葉も。




昨晩は1ヶ月ぶりにユーリとご飯に行った。
なんだかんだ、高校で同じ部活に入ってから気が合った私たちは高校を卒業し、大学に入り、そして社会人になった今も1ヶ月に1回以上の交流を重ねていた。
それが珍しく1ヶ月以上連絡がとりあえず、今回は1ヶ月半ぶりに飲みにいったのだ。
その1ヶ月以上合えなかったのが、私の仕事の忙しさで、その仕事の愚痴を言っているうちに私はどうも飲み過ぎてしまって、そんな私を担ぎ込んだのがユーリの家だったのだ。
ユーリは仕事についてから家を越して今よりと真に近いところに引っ越した。
私の家まで30分以上掛けて送るより、10分で付くユーリの家に酔っぱらいの私を運ぶのはメリットが大きすぎる。
それよりもとにかく終電を逃していたのだ。

そしてユーリの部屋に入るなり、なんだか妙な雰囲気になって、玄関先で見つめ合ったりしちゃって、ああ、ユーリってみんながきゃあきゃあ言ってたみたいにやっぱり男前だなって近距離で見たら思っちゃって、ユーリが私の頬に触れたと同時に熱いキスがスタートしちゃって、そのままなだれ込むように寝室に入った私たちは案の定もう止められなくて、そのまま最後までしたと同時に、3回もしちゃうなんて高校生みたいなセックスをしたわけである。
はっきり覚えてますとも。

「友達と寝るほど、恥ずかしいものはない」

私はユーリの胸に抱かれながらポソリとつぶやいた。

「・・・友達やめれば?」
「は?」
「だから、友達やめればいいじゃん」

思わずユーリへと顔を向けると、思った以上に真面目な顔をしたユーリと目が合う。
わたしは、妙に体に緊張感が走って、ユーリと合った目線を外せない。

「お前、だから俺に何って言ったか覚えてる?」
「え?なに?」
「・・・じゃあいいわ」

気のない返事をしたユーリは私の方へと体を向けていた体をごろんと仰向けに倒した。

「ユーリ?」
「・・・」

反応しなくなったユーリに思わず体をおこした私は、そのままユーリの顔を覗き込む。
目絵を閉じていたユーリがゆっくりと目を開けると、私の方へと視線を向ける。

「・・・ユーリ?」
「・・・」
「どうしたの?」
「・・・胸見えるんだけど、誘ってんの?」

私は思わず体を低くして自分の身を隠そうとするとそんな私に気を良くしたのか、ユーリはまた体を起こして私の方へと向ける。
私が睨み返すと、なぜかうれしそうな顔をしたユーリは私の頭へと手を伸ばす。


実は私はユーリがさっきから言わせようとしている言葉の真意を知っている。
でも、なんだか悔しくて言いたくない。

「ナマエ」

そう言ってユーリにまっすぐと見られるとどうしようもなく愛おしい気持ちが溢れ出てきてしまうのだ。
今までこんなことはなかったのになんでだろう。
たった一度、今までの距離からグンと近づいてしまった私はユーリに取り付かれるように、引き寄せられてしまってどうしようもないのだ。

そんな私の心はユーリに気付かれているんだろうけど、でもあがきたい。

だっていま、折れてしまっては。

「まるで、私が昔からユーリが好きだったみたいじゃない」
「なんか言ったか?」
「な、ん、も!」

ユーリがさりげなくまわした私の腰に添えられた手も、ユーリの心地よい温度も、優しく見つめる視線も、私を楽しませるユーリの言葉も。

結局は昔から好きだったのかもしれないと気付いたのは、こんな状況になってしまった偶然なのだろうか。


ユーリの指先が先ほどから嫌らしく私の腰を伝い、ユーリの視線が熱く私を見つめていることも何もかもが愛おしい今、取り返しがつかないことを感じていた。
それと同時に偶然のこの状況を、私は待ち望んでいたことも悟る。


ユーリの熱い唇を受け入れながら、私はごちゃごちゃ考えた今までの考えを捨て、とにかく目の前の暖かさに手を伸ばしていた。







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