「コウはユウレイ、信じる?」

そうやって聞いてきた名前の瞳はいつもより大きく見開かれ、少し潤いを感じる。
ずいと顔を寄せて俺の瞳を覗き込んでくる姿勢に、思わずキスしてやろうかと考えたのだが、怒って回し蹴りでもされたら困ると思いとどまった。

今は夜中2時、いきなり叩き起こされたかと思ったらこの状況だ。
このお嬢さんは冷静で落ち着いた雰囲気を持っているのだが、不意に妙な行動をすることがある。

今日のようにいきなり夜中に起きて何か考えを巡らして寝れなくなったり、仕事中でも一つのことが気になるとどうしても集中力が欠けてしまうこともある。
それは名前のまっすぐすぎる意思であったり探究心という言葉で片付けられることもできるのだが、そんな簡単な言葉で片付けるには少し癖が悪い。

「どう、思う?」

答えない俺に、再度質問を投げかけてきた。

「・・・どうしてそうなった」
「質問に答えて!」

こうなってしまってはもうしばらく寝ないだろう。
俺はあきらめたように一息つくと、横になっていた体を起こし、ベッドの上に座り直して、まっすぐに名前へと向き直した。

そして一つ、面白いことを思いついたと俺は一言口にした。

「俺は、ユウレイを見たことがある」

その一言を聞いたとたん、名前の顔に好奇心と恐怖が入り交じった表情になった。
が、どちらかと言えば恐怖の割合の方が大きい気がする。
あまり感情を表情に出さないのだが、俺と一緒にいる時は少しずつ、表情が出てくるようになった。
いいことだ。

「おれは、見たことがある」

もう一度念を押すように言うと、シーツの上にあった手がこわばり、ぎゅっと握りしめて固まった。
表情をこわばらせる名前とは対照的に、名前に俺の表情はいやに笑顔にうつっているに違いない。













「そうだな、あれはまだ俺が監視官になったばかりの日だった。そのとき住んでたアパートは4階にあったんだ。4階の角部屋だった。
その部屋に住み始めて数日した頃、女の声が聞こえてくることに気がついた。何を言っているのかはっきりとは聞こえなかったが、俺は特に気もとめず、普段通り生活してたんだ。
しかし、あることに気がついた。俺の部屋の隣はつい最近引っ越しをした。しかも住んでいたのは男だ。
女の声が聞こえてくるのは決まって・・・」
「ちょ、ちょっとまって・・・!」

青い顔をした名前は俺の方に手を置いて、話を中断しにかかる。

「なんだ、まだ話の途中だ」
「やっぱりやめよう。こんな夜中にこんな話、不謹慎だ」
「怖い話は夜にするから面白いんだろう」
「そ、それにコウ、明日仕事だし」
「いや、俺は昼からだ」

なんとかして口実を見つけようとしているようだが、もう何も出てこないようで、喉に何か詰まらせたような表情で俺の顔をまっすぐと見ている。
形のいい唇が歪み、なんだかかわいそうになってきたが、それが面白くて仕方がない。
残念ながらサディスティックな心が刺激され、追い討ちをかけるように涙を浮かべる瞳を見てしまえば完全にノックアウトだ。

「さ、寝るか」
「・・・」
「寝れそうにもないか?」
「う、ん」

俺の方にのせている手を手に取り、握り返すと驚くほど冷たくて、本気で怖がっているのだと思うと、少し気の毒に思えた。
手の甲を上にして手を握ると、そっと唇を寄せた。
小さくリップ音を立てて唇を話すと、名前の肩が小さく揺れた。

「大丈夫、すぐ忘れさせてやるさ」

そう言って、頬へと手を通わせてゆっくりなでてやると、おずおずと視線を俺に合わせた。
何を俺がしようとしてるのかわかっているだろうが、拒否反応をしないところを見る限り、合意と見なしていいのだろうか。
ゆっくりと顔を近づけ、かわいらしい口づけを繰り返す。
もう片方の手が俺のシャツをぎゅっとつかんだ。

口づけが深くなり、ゆっくりと話すと、息を弾ませて相変わらず潤んだ瞳で俺の目を覗き込んだ。
この大きな瞳にどうも俺は弱い。

「忘れさせて・・・」

頭を何か重いもので殴られたような衝撃と、下半身が一気に熱くなるのを感じ、俺は本能のままに名前を押し倒した。


コイツの予想外の行動にはいつも頭を抱えるがたまにはいいかと思いながら、目の前のかわいくいじらしい女にキスを繰り返す。
こんな夜更けに盛る俺もどうかしてると自分自身をあざ笑いながら。








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