偶然合った御坂と初対面の名前、そんな珍しい3人での買い物は思った以上に楽しいということを佐天涙子ふと感じた。それは名前が佐天が考えていた常盤台中学校の生徒らしくなかったことが大きな原因だろう。
佐天は御坂との初対面も高飛車なお嬢様が来るものとばかり思っていたのを、御坂によっていとも簡単に打ち破られ、御坂は思った以上に関わりやすく受け入れやすい人間だった。
それは今会った名前にも言えたことだった。さっきから同じように行動していて、名前は常盤台の制服を着ているものの、中身は普通の中学生、むしろどちらかと言えば男らしい部類に入るほどの適当っぷりを発揮していた。

買い物の中ではノートやペン、小物を書こうとするところでも御坂がいちいちかわいいものへと引き寄せられていく御坂がいる反面、名前は黒や青、紺色のものを好んで手に取るばかりで、まさか御坂のような花柄や動物柄のものに手が伸びることはない。
喋り方もどちらかと言えば女性らしさは低い。御坂自身もどちらかというとさすがに常盤台に通う中学生らしく、佐天にとって嫌らしさはないほどの丁寧なそれなりの言葉遣いをするのだが、名前に至っては大きな口を開けて笑ったり、軽い喋り方と表すのが最適な喋り方だった。
転校ということを思い出し、どういった経路で転校してきたのかが逆に気になったが、この短時間で佐天は名前に対しての始めの印象が180度変わったことに気づいていた。

しかし、名前はきっと付き合いやすい人間なのであっても、常盤台中学校に転校してきたほどだ。能力の方で言えば白井以上、いやもしかするとレベル5目前レベルなのではないか。そう考えると佐天はやっぱり変なジェラシーを捨てきれなかった。
自分自身のコンプレックスであるレベル0という事実を持っている限り、能力を認められ、あの常盤台中学に転校を進められるような人間は妬んでもどうにもならないことをわかっていながらもそんな妬ましい目を向けてしまうことを避けられなかった。
自分自身は選ばれなかった人間であり、彼女は選ばれた人間で優れた人間であると。
佐天はそこまで考えて自分自身に嫌になるが、その感情を抑えることはできなかった。

「名前さんは、どうして常盤台中学校に転校してきたんですか?」
「え?そりゃ転校しませんかって言われたからだけど」
「常盤台から声がかかるわけでしょ、相当能力の方も高いんじゃないですか?」
「ちょっと、佐天さん・・・」

急な突っ込んだ質問に御坂が焦った様子を見せたが、佐天は気に留めず、名前をまっすぐと見る。
名前はどんな反応をするだろうか。佐天は名前はどう出てくるかと顔を覗き込んだ。
いくら付き合いやすい性格をしてるからって能力を自身の自慢として佐天に対し、高い目線から話をし、心の中ではそう思っているかもしれないと思っていた。
しかし、そんな佐天の心もすぐに消え去ることになる。

「やめてよ、私レベル0だよ」
「え?」
「そう、レベル0。無能力者、常盤台中学校に編入できたラッキーな女の子なの」

そう言って冗談めかして御坂に同意を求めている名前を見て、佐天は返す言葉がしばらく出てこなかった。
目の前の常盤台中学校に転校してきたという女の子は自分と同じレベル0だと言う。信じがたい事だが、それを否定しない御坂を見、それが事実なのだと認めるしかなかった。

「レベル、0?」
「そう、レベル0。全く自分の能力知らないんだよね」

そう言ってレベル0だと言うことに劣等感もなにも持っていないような素直な笑顔の名前は、佐天にとって受け入れやすいという事実を通り越し、信じがたい事だった。

「学校はきっと私に変な期待を抱いて編入させたんだろうけど、私自身自分の能力に何の期待もしていないし、むしろ手に入れたところでちょっと便利になるのかなーって言う程度だし。変な話でしょ?」
「はあ」

名前のあっけらからんとした態度に着いていけない佐天は手に持っていたマグカップを静かに棚に戻した。
話はここまでと言ったように名前は佐天が先ほどまで手に持っていたマグカップの横にあるマグカップへと手を伸ばし、これにしようかななどと言っている。名前がゆっくりと他の棚を見つつ、佐天のもとから離れていくのを見た御坂がゆっくりと佐天へと近づいていった。

「不思議な子でしょ?」
「御坂さん・・・」

御坂は名前へと視線を向けたまま、佐天へと言葉をかける。

「あの子、能力の事に関しては全然興味がないらしいの。めずらしいでしょ」
「めずらしいっていうか・・・」
「今まで育った環境も関係してるんだろうけど、能力というものに利点をあまり感じていないみたいなの。なくても生活はしていけるって言うのが名前の言い分みたいでね」

それは佐天が考えた事もない考えだった。

「私の口から言うのもマナー違反なのかもしれないけど、名前は武術の方ですごく有名だったらしくって、そんな名前が能力を持ったら相当な能力者になるだろうって言うのが、学校側の考えらしいの。そんな学校側の思惑に反し、名前はそんな事全く思っていないし、むしろ社会見学に来たつもりって言ってたわ」
「常盤台に社会見学・・・」
「そう、笑えるでしょ。まあ名前ってそういう子なのよ。珍しいというか、変わってるっていうか。学校に来てからはいろんな人に能力に関しての質問をされて、その度のレベル0って答えてる。まったく能力に関して劣等感を抱いていないかって言われれば否定はできない、名前自身が今の自分を自分で見下しているのかっていったら、それは全くないわね」

御坂はそう言うと、佐天へとにっこりと笑みをむけた。
ああ、私御坂さんに変な心配と迷惑をかけていると直感で佐天は気づいた。
レベル0である事に劣等感を感じていることにきっと御坂さんは気づいているだろうし、そんな私にもできることがあると今まで勇気づけてくれたのも御坂さんだった。

「レベル0、か・・・」

佐天はそのとき、肩の力が少し抜ける事を自分自身感じ、それと同時に名字名前という人間をもっと知ってみたいと思っていた。

















「ジャッジメントですの、おとなしくしないとわ・・・」

私が・・・と続けようとした言葉は目の前の光景を見たとたんに途切れた。
黒子が到着したとき既に、拘束すべき対象は皆、床にひれ伏していた。
近くに腰を抜かしたようにへたり込む友人である佐天涙子。そして床にひれ伏している男たちの間に立っている人物はいつもと違う。本来ならば黒子にとって大好きで、いつも自分自身で解決してしまう強くたくましく大好きな“お姉さま”がいるはずなのに、この日は違った。
ふとひと息をついて、足下に落ちた鞄を持ち上げるその仕草も見覚えがあるのに対し、その人が違う。いつもその立場である“お姉さま”こと、御坂美琴はその人物の奥に突っ立ったまま、驚いた顔でその人間を見つめていた。

「ん、あれ?黒子ちゃんだ、仕事終わったの?」
「い、いえ、仕事をしてきたんですの・・・」
「あ、黒子」
「白井さん・・・」

黒子に背を向けて鞄を拾った人物、名字名前は汚れが付いた靴下をパンパンと叩き、にっこりと笑みを向けた。

「あ、もしかしてコイツら黒子ちゃんがやっつけにきたの?ごめん、我慢できなくてやっちゃった」

そう言って語尾にハートマークをつけそうなほどの様子だ。

黒子はジャッジメントの腕章へとのばした腕を力なく降ろし、御坂と顔を見合わせると思わず苦笑いを浮かべる。
そうだった、この人は能力は別として武道の道ではスペシャリストだったのだ。












「は、初めまして!!初春飾利と言います!」
「どうも、名字名前です」

場所はよく4人が使うファミレスに移動していた。初春も仕事を切り上げ、合流してきている。
黒子はいつものメンバーに名前が加わった5人でいることに対し、大して何も違和感を感じていないのが逆に気持ち悪いほどに思っていた。
御坂も表情もよく、機嫌が良さそうだし、それに対しては嫉妬をせざるを得ない状態であるが、佐天すらも気を許しているような雰囲気を出していることに関しては気持ち悪いとしか言いようがない。佐天自身、御坂のことは未だに名字で呼ぶのに対し、名前のことを既に名前で呼んでいるのも気を許していることがうかがえた。
自分が仕事をしている間にいったい何があったのかと気が気でなく、初春のあいさつも程々に、黒子は御坂へと質問を切り出した。

「お姉さま!さっきのはいったいどういうことですの?!」
「ああ、私がやっつけようとしたところを名前が突撃してっちゃうもんだからびっくりしちゃって。気づいたときにはみんなやっつけちゃうんだもん。びっくりしちゃった」
「ホント、名前さんすごいですよ!すっごくかっこよかったです!」
「やめてよ、あんなのどうってことないし」
「ええ、何があったんですか?!佐天さん、教えてください!」

今到着したばかりの初春は何が怒ったのか全く知らないため、興奮した様子で佐天に詰め寄っている。初春のその興奮している様子の中にはちょっとした名前に対しての勘違いが含まれているだろうが。
黒子が黙っている中でどんどん話が進んでいく。 話を耳に入れつつ、黒子は佐天の隣に座る名前へと目を向けていた。

「名前さん、レベル0?」
「そう、レベル0」
「初春、名前さんそんなの関係ないから。すっごく強いんだから」
「ホントびっくりしたわよね。1人で5人の大きい男を倒してっちゃうんだもん。かっこよかったよ、名前」
「美琴にそう言われると、いい気分にもなるなあ」
「美琴・・・かっこいい・・・」

黒子はいつの間には御坂と名前が自分が知らないところで予想以上の仲になっていることに驚くと同時に、自分の心の中で大きな黒い渦ができていくのを感じていた。
大ろくほど黒い妬ましい気持ちを感じつつ、御坂にはそんな感情を剥き出しにしているところを見られたくないと、気持ちを押し殺す。

名字名前、恐るべし。

「でもさ、黒子ちゃんのテレポートはいつ見てもかっこいいよね」
「え?」
「私能力がもし上がったとしたら、自分の能力はテレポートが良いな」
「どうしてですか?」
「楽じゃん。テレポートがあったらすごい早さで移動できるし、寮を抜け出し放題だし」
「名前ってばそんなことしか考えてないんだから」
「武術にもいかせられるかも。あー、でもそれは私の武道に反するなあ」

黒子の腹の中の気持ちに気づいているのか否か、名前は無邪気に話を続ける。
だからこの人は少し苦手だと黒子は心の中でつぶやく。大好きな御坂といつの間にか仲良くなったと思えば自分はそれなりに時間がかかったのに、気づけば名前で呼び合う仲。しかも2人でお買い物なんて、黒子にとっては妬み以上の感情は湧いてこない。
しかし、その妬みの対象である名字名前を妬みきれないのだ。
それは名前自身の持つ雰囲気であったりなじみやすい人柄が原因なのだろうと思うのだが、それが逆に黒子に壁を作っていた。

「名前さんは、欲しいものを買えましたの?」
「買えたよ。あ、これ黒子ちゃんに」

そう言って黒子に名前が差し出したのは黒子がかつておいしいと言っていたお菓子だった。
はて、黒子は名前にこれがおいしいと言っていただろうかと思い返す。
すると、黒子の方へと体を乗り出した名前は、黒子の肩を引っ張ると、耳元に口を寄せた。

「あのね、これは美琴が恥ずかしがるから内緒だけど、ボソってお菓子を見て黒子がおいしいって言ってたやつだっていってたんだ。買うか迷ってたけど、佐天さんに呼ばれてそのまんまになっちゃってさ」

そう言って黒子の耳元から口元を離すと、黒子に向かって名前はウインクをした。
ああ、この人に私はかなわないのだろう、そう黒子は直感する。
この人はきっと私のこともよくわかった上でこれをこうやって渡せば私が喜ぶことも知っているし、そんな私も受け入れてくれているのだと黒子は感じる。
黒子は口元がほころぶのを自分自身気づいていた。
名前の心遣いもうれしいが、やっぱり黒子にとっては“お姉さま”が一番であり、自分の知らないところで御坂がそう言うことを言っていたことがうれしくてたまらないのである。

ふと御坂へと黒子が視線を向けると、御坂は初春たちと話をしていた顔を黒子へと視線を向ける。

「なに?どうしたの、黒子」

黒子は思わず耐えられなくなり、御坂へと飛びついた。

「お姉さま、私、もう耐えられませんわ!」
「な、何なのアンタ!ちょっと、やめなさいよ!」

黒子は御坂へのスキンシップに満足しつつ、目の前で笑顔を浮かべる名前へ少し心が開いていくことも感じていた。

ライバルとは少し違う、変な感情。
でも名前とこれからの学校生活を共に過ごしていくことに何の反論もない、むしろ楽しくなりそうだとも思える。


これから良い関係を気づいていけるだろうと黒子も含め、誰もが笑顔を浮かべていた。







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