名字名前という人間は、自分に能力がないことに関して何の不自由も思っていなかった。
能力がなくたって生きていけるし、普通の人間として生活することができる。名前は今までの生活で何の不自由も感じていなかった。

がらっと生活が変わることとなったのにはもちろんきっかけがあった。
名前は昔から武道に励み、体を動かす全般が大好きで女の子とお人形遊びをするより、男のこと外で木登り遊具で走り回ることが大好きな女の子だった。当然外で遊ぶことが多ければそれなりの体が作られ、兄が武道に励んでいたこともあり、本当に小さい頃から引っ付いて名前も学んでいた。
そして、ただそれだけではなく名前にはその才能があった。
名前は練習すれば練習するだけ自分が上手くなっていくことを身を持って理解ができるほどの成長を感じ、同時にそれは自分自身がわかるほどの大きな成長をしていた。小学生ながら中学生の大会に出場し、優勝できるほどに。
柔道を始め、剣道や合気道、空手と活躍の場を広げていた。そんな名前は周りから武士の娘と言われるほど、その道では有名であり、注目を浴びていた。

そんな時だった。
そんな名前に学園都市から声がかかったのは。














「あ、これいいなあ。動きすそうだし」

そう言って名前が両手で持ち上げたのは、足にフィットする形のスキニーパンツ。紺色の生地にストレッチがきいている。名前は昔から武道を励んでいることもあり、スカートを普段はかない。制服であればしょうがないのだが、基本は履きたくない。
しかし残念ながら常盤台中学校は基本的に制服着用を義務づけられているため、名前は今も短めの制服スカートを着用している。もちろん中には黒のスパッツをはいている。
常盤台中学校への編入を一番渋ったのは、実はこれが1番の原因だったりする。

「やめときなよ、結局着る機会なんてほぼないんだから」
「それ言わないでよ〜、私ホントスカート苦手なんだって」
「でもうちは基本制服着用だからね。あきらめなさい」
「あー」

そう言って名前は変な声を上げながら、手に持っていたパンツをきちんともとの場所に戻した。

「さ、行くわよ。名前は生活用品を買いにきたんじゃないの?」
「そうだよ、その通り。服なんて、制服で事足りてしまうんだから」
「わかってるじゃない。私服はうちの学校に必要ないの」

そう言って名前は御坂に引きずられるようにして服売り場から遠ざかっていった。



名前が常盤台中学校へ編入した理由、それは能力開発という理由、ただそれだけだ。
常盤台中学校は最低でもレベル3、そしてレベル5になると御坂を含め2人もいるという超エリート学校であり、お嬢様学校。
そんな常盤台中学校に名前が招かれたのは、将来的に名前が超能力を手に入れたとき、名前自身が元々持つ身体能力の高さも持ち合わせると相当な能力者になるだろうという、仮定をもとにした判断であった。
名前は少し前まで能力検査とやらを一切しておらず、もちろんレベル0なのだが、逆を言えばそれなりの教育も一切行われていない。そのため教育を行えばそれなりの能力が開花する可能性も大いに考えられた。

初め、名前はその誘いを断った。理由は簡単、私に能力はいらない、ただその一言だ。
しかし親や周りの人間は学園都市、それもその中でも屈指のエリート校である常盤台中学校への編入を目の前に名前のその意思を尊重するものはまずいなかった。誰もが名前を常盤台中学校へ編入させることに賛成を記した。
始めは名前自身その賛成を怪訝に思っていたのだが、感謝をしている両親や兄弟のすすめを断りきれず現在に至る。
ただし、声がかかったのは実は小学生の頃であり、そこから1年間、常盤台中学校は勉強の方もレベルが高かったため、すぐ編入するわけではなく、特別な教育指導を受け学力を同等まで上げることとなった。その結果2年生からの編入となった。
名前自身、あまり気にしてはいないが勉強はあまり得意ではなく、やったらできるタイプなのだが興味がないので身に付くまでそれなりに時間がかかったのも原因の1つである。

名前は2年生だが能力開発としてはほかの常盤台の生徒とは違い、全く受けていない。そのため、名前は放課後に特別授業が行われることになっている。
それは名前が生活に慣れてきた編入から1ヶ月後からとされており、今はまだ普通の常盤台の生徒たちと同じように授業を受けている。名前自身わからないことも多く、授業中に寝てしまいそうになるのを今はまだ、我慢している。



「あれ、佐天さん?」
「御坂さん?!びっくりした、こんなところで」

名前が声のした方へと振り向くと、セーラー服をきた女の子と御坂が話をしている。どうやら言葉遣いからして年下なのだろう。
御坂の友達ならきっと良い子だと、名前は紹介してもらおうとそっちへと足を進めた。


「御坂さんお友達ですか?白井さん以外の人といるなんて、珍しいですね」
「最近常盤台に転校してきたのよ。名字名前さんよ。名前、この人は佐天涙子さん、柵川中学校の1年生」
「よろしく、名字名前です」
「名字さん、ですね。よろしくお願いします」

名前は佐天のちょっとした行動と、そこから感じた感情を見逃さなかった。自分自身をすこし距離を置いたような雰囲気がしたのだ。

「で、御坂さんは今日は何を?」
「名前ね、まだ転校してきたばかりだから、買い物に付き合ってるのよ」
「ふ〜ん、そうなんですか」

ふと名前と佐天の目が合った。佐天は作ったような笑いを向けた。

「佐天さんも一緒にどう?お買い物にきたんだったら、みんなで一緒の方が楽しいじゃない」
「でも邪魔になるかも・・・」
「私はいいから、美琴の友達でしょ?気にしなくていいから」

名前があっけらからんと喋りだすと、佐天は意外そうな顔をして名前の方へと視線を向けた。
名前はそのとき何となく佐天がそんな仕草や視線を向けるのかわかった気がする。それは自分自身がその気持ちを少し感じていたように、彼女はもしかしたら時分以上にそんな感情を持っているのかもしれないと思ったからだ。
佐天は名前に対し、常盤台中学校のお嬢様という偏見を持っている。そしてそのお嬢様を佐天は好んでいないということ。
名前は心の中で逆にそれを好ましく思っていた。だってそれはきっと佐天と自分が仲良くなれるということだからだ。私はお嬢様でも女の子らしくも全くない、きっと仲良くなれる。
名前はそう考えて佐天に対し、にっこりと笑みを返した。










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