東風氷を解く



昨日のまで降り続いていた雪はまだ草木の上に残ったまま、冬の景色を保っている。
しかし昨日と打って変わって今日の気温はこの時期にしてはとても暖かく感じる。
立春を迎えた今、少しずつ春が近づいているのかもしれない。



授業を終え、浜田と河原を自転車で二人乗りをしながら進んでいた。
浜田がこいでいる荷台に、背中をくっつけるようにまたがって座る。
今日はいつもより風が暖かく、浜田に手袋を貸してやったけどあまり気にならないほどである。

南から春の風が吹いている。
河原に残った雪が、少しずつ溶ける音が聞こえそうだ。

「ねえ、浜田んち、行っていい?」
「いいけど、なんか買ってく?」
「飲み物はこの前の残ってるでしょ?」
「昨日田島と三橋が来て飲んでった」
「え〜、じゃあコンビニよる」

私は案外べたべたくっつくのが好きな方で、寒い日は人肌恋しいなどというが、私は暖かくなってもくっついていたいと思う。
これから日も長くなる中、もっともっと一緒にいたいタイプだ。

「なんかDVD借りてく?」
「あれみたい。ドラえもん」
「なんで?」
「今日さ、水谷くんとドラえもんの話しててさ、ドラえもんがなんで青くて耳がないのかって」
「なんでなの?」
「え、浜田知らないの?」
「え、名字知ってんの?」

私が思わず振り返ったので、浜田はバランスを崩しかけ、思わず自転車のブレーキをかけた。

「あっぶね!」
「あ、ごめん」

そう言って一度自転車の荷台から降りると、前向きに座り直す。
私が座り直したのを見て浜田は進み始めた。

「浜田、知らないんだ〜」
「そういや俺、ドラえもん派じゃなくてクレヨンしんちゃん派だったし」
「いや、私どっちも結構見てる派」

なんだそれ、そう言って浜田が愉快に楽しそうに笑うので思わず浜田の腰に腕を巻き付けた。

「ちょ、おまっ!何いきなり抱きついてっ!」
「なに〜、浜田動揺しちゃって」

また浜田は自転車にブレーキをかけた。
抱きついたままの私を首だけ振り向き、浜田は私の顔を覗き込む。
上目使いに見上げてやると、ふと顔をそらした浜田は大きなため息をついた。
ちょっと、耳、赤くなってる。

「名字さ、男ってそんなことしたら、期待しちゃうのよ?」
「期待?」
「それと、これを期に言っとくけど、男の一人暮らしの部屋入るのだって、完全アウトだからな?」
「アウトって何が?」
「・・・」

浜田は今度こそちゃんと私を振り返り、じっと顔を見返してきた。
ごめんね、浜田。実は私、アンタの言いたいことも全部わかってるんだけど、こうやってわからないふりしてかわいい女、演じてるんだ。


「つまりだ、お前そんなことするってのは、男に自分のこと好きなのかって期待させてんだよ。家になんて入ったが最後、襲われてもおかしくねーんだぞ」
「浜田は、期待してんの?襲わないの?」
「・・・期待するっつーの。あと、俺はそう簡単に手を出すとかやだし、順番は守りたいから」

浜田の魅力的なところはこんなところだ。
春のように明るい気持ちを私の心に届けてくれる。

「期待していいし、私は手を出されても良いと思って行ったんだけど」
「え?」
「だから、私だって女としてそれなりの覚悟、してるんだよ」

体をゆっくり起こして真っ正面から浜田の顔を見つめる。

「なんだよ、両思いかよ」
「気づくの遅いんだよ、バーカ」
「誰が馬鹿だって?」

そう言うと浜田は私の方に腕をまわして私を引き寄せた。
思わず声に出して笑うと不意打ちでキスされた。

思わず体を固くした私に、今度は浜田が笑う番だ。
悔しくて今度は私からキスをすると、浜田は心底うれしそうな顔で私のキスを受け入れてくれる。




春の訪れを感じ、雪解けの音が聞こえる気がした。







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