目の前の女の子(いや成人しているから女性と言うべきか?でも女の子と言った方がしっくり来る)、とは近頃定期的に会ったりする。
豪快にビールを喉に流し込む姿はいつ見ても男前だと思う。
近頃よく連絡を取り、よく2人で居酒屋(主にこの年で立ち飲み屋が多い)に行ったるする。
俺にとって、名字名前は大切な女の子であった。





























「で、その自称IT企業の幹部候補とやらは?」
「すごくいい笑顔をしていたよ。この前写メの娘さんの写真を送ってきた」

そう言うと、その写メを俺に見せようとしているのか、携帯をいじり始めた。
俺はそんな彼女を見、無意識に溜息を漏らしていた。

目の前の顔を真っ赤に染めている目の前の女の子はあまり酒が強い方ではない。
けども酒が好きで、一緒に出かけるのはいつも飲み屋だ。
こうやって飲み友達となったのは、高校の元クラスメートであり、今家が近所という偶然が重なって今に至る。



高校の時の名前の印象と言えば、どのクラスにもいるような元気で明るい女の子だった。
教室にはいつもギリギリに入ってきて、仲の良い女の子たちに挨拶し、隣の席の子にはいつも自然な挨拶をしていた。
あまり、普段話をしない友達には挨拶をしないのに、近くの席に座る人にはいつも必ず挨拶をしていた。
誰にでも同じように接し、誰でも受け入れられるような、他の女の子と比べると不思議な空気を持った子だったと思う。
そんなところに引かれていたと言えばその通りで、俺は当時名字名前に惚れていたらしい。
そんなことに気づいたのは名前が2年になり、俺が1年として初めて会った瞬間だった。

『あはは、浜田だ。ひさしぶりだね!』

その時の名前の様子だとか、どんな場面だったとか、結構はっきりと思い出せる。
そう、それは4月が始まり半分以上が過ぎた頃だった。
放課後俺はゴミを捨てに校舎内をゴミ箱を持って歩いていた。
捨てた帰りに階段を歩いていた。
西日が階段の踊り場から降り注いでいた。
1階から踊り場へと足を進めていた俺の頭上から聞こえた、かつてよく聞き慣れた柔らかく少し女の子としては低めの声は、俺の胸にすんなり入ってきた。
見上げたそこには少し、大人びて見えた名字名前がいた。

その時、落第した俺に同情も見下しもせず、ただ名前はかつてのクラスメートとして明るく声をかけてくれたことは、その時の俺にとってとても衝撃的だったのだ。
名前の存在はそのとき急に大きくなった。

しかしそこで何か起こったわけではなく、ただ先輩と後輩という立場になって構内ですれ違えば挨拶をするような仲だった。
俺はほんのり、その後の発展を祈ったものだが全くそんな気配はなく、むしろ違う噂すら流れてくる状態にそんな夢を頭の中から抹消することとなる。
名前は俺が魅力的に感じた以上によくモテたし、しかし逆になぜか長続きしなかった。

「私は別に傷ついていないし、悲しくないんだから」
「それが変だと思うんだけどな」
「私も変だと思う、だけどホントなんだから。みんな帰っていっちゃうのよ、女の元に」

そう言って、ビールのおかわりを頼みだしたので、俺の分も一緒に頼んでもらう。
生2杯おかわりねー!そう元気に言う名前に、カウンターの中のおっちゃんは笑顔で答えた。


そう、名前はなぜか男と恋人同士という関係に発展しない。
それは名前の持つ雰囲気、彼女の男運、そして名前自身の男の子と付き合う姿勢がまず問題があった。

名前と再会したのは今から半年ほど前、たまたま飲み屋の前でばったり出くわし(2人とも1人だった)、そのまま飲みに行こうと誘われ、懐かしさと心地よさで今に至る。
そして毎回飲みに行くたび繰り返される会話は、高校の頃の思い出話と近頃の名前の男の人たちとのおつきあいの話で大半を占める。

名前はなぜか、彼氏ができないし、むしろ彼氏をほしがっている様子もなかった。
結局いつもなぜか部屋に行くか招き入れるかで順番を間違え、中途半端な関係になる。
そして不思議なのが、なぜか名前のもとにやってくる男はいつも別のちゃんとした女がいて、名前のもとで何らかのパワーを蓄えるとみんな、別の女の元へ帰っていってしまうのだという。
名前はなにか羽休めのような女なのだ。
そして名前自身もその事実を否定せず、受け入れ、そんな男たちをあやすように付き合っている。

はっきり言って俺には理解ができない。
もちろん俺も初めての見に行ったあの日、本当に自然な言い草で家へ誘われた。
誘われたというより、誘導されたというべきかもしれない。
俺はそのとき驚いて否定したが、そんな俺をまるで始めてみる生き物のように見る名前の表情は思わず吹き出してしまいそうな面をしていた。




そんなことを考えていると、目の前にビールジョッキが置かれた。
少し漏れだすほどのビールの泡に思わず口を付けると、口の中をビールのキンと冷えた苦い味が口の中に広がり、思わずおっさんのような声が出る。

「私は何が面白いってね、男っていう自分と違う人間がすごく面白いと思うの」
「おうおう、なんかすごく深い話になりそうだな」
「とにかく聞いて」

そう言うと、右手に持っていたビールをカウンターに置いたら、隣に並んでいる俺に体後と向き合った。

「人間って面白いのよ。その中でも男の人ってすごく面白いと思うのよ。1階寝ただけで男の人って自分が優位に立ったような気分になるのね。自分のことだったり、会社のことだったり、人間関係のことだったり、今の社会情勢のことだったりいろんな話をしてくれるのよ。もちろん退屈な話もあるんだけど、結構それが面白かったりするの。けどね、一通り離し終えると、なんでか満足したように、自信もってその人の場所へと帰っていくの。
 私はそれを止めたいとも思わないし、その人にとってそっちの方がいいし、とか考えちゃうんだけどね。
 つまり、私にとっても相手にとってもいい関係を気づけているでしょ?私の何が行けないのかがわからないのよ」

そこまで喋りきり、満足したようにまたビールに手を伸ばす名前に、一瞬開いた口が塞がらなくなった。
ぶっ飛んだ思考というか、珍しいという言葉で濁せばいいのか。

「損得問題じゃないだろ?」
「恋愛ってそういうもんじゃないの?」
「ちげーよ」
「じゃあなによ」

ふと、心に浮かんだ言葉を口に出そうとしたのだが、喉まで出て俺はぐっと飲み干した。
それは名前にとって理解できないもののような気がしたし、俺自身損なことを言うことに恥じらいを感じたからである。

「・・・いわねー」
「なによ!」
「もうちょっとお前が大人になったら話するわ」

その後も少しぷりぷり怒っていた名前だったが、途中でお酒の力で上機嫌になった名前はそんなことも忘れ、気づいたら高校の頃の懐かしい話に花を咲かせていた。








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