フレンが騎士団で出世してからというもの、あまり同じ時間を過ごすことができなくなった。
そんな私をよくユーリがからかいにやってくる。
始め、そんなユーリの思うつぼといったように、反論をして喜ばしていたものだが、今となっては上手くあしらう術を学び、そんな私が面白くないのか、ユーリはあまりからかおうとすることは無くなった。
会えて月に数回、一緒に眠りにつけることなんてホントに稀だ。

昨日の午後、フレンが下町に珍しくやってきたかと思うと、今日夜にやってくるとだけ言って、勤務中だったらしく、せわしなくまた去っていった。
途中ユーリと偶然会って話ができたらしい。
ユーリ曰く、少し疲れていたと言っていた。
近頃実績を着実に積み上げているという噂を聞く一方、仕事量が増えてとても忙しいらしい。
それを聞いて少し不安になったのだが、今から3時間ほど前に私の前に現れたフレンを見たら、そんな心配も吹き飛んだ。
優しい笑顔で私のもとへとやってきてくれたフレンは、やっぱりいつも通りだった。
私が大好きなケーキと、私の大好きな笑顔と共に。




事前にフレンが来るということがわかっていたので、2人分の料理を用意し、食後にはケーキを食べた。
終始私たちは前回会ってから今日までに起こったことを報告する義務はないものの、それぞれの話をすることとが日課になっている。
私の場合はだいたいユーリの話が中心になってしまう。
普通なら自分と違う男の話を聞くなんて男としてあまりよくは思わないだろう。
しかしいつもフレンはそんな私の話もにこにこと笑顔を浮かべて聞いてくれるのだ。
フレンは心が寛大なのだ。


「さて、もう寝よう」
「そうだね、もうこんな時間なんだ」
「久々に会うと時間も忘れて話し込んでしまうよ」

そう言ってフレンは私の腰に手を添えて、寝室へと足を進めた。












フレンくんと過ごす、就寝前





フレンは腕枕をするよりも、背後から包み込むように抱きしめるのが好きだ。
ベッドに入ると私をくるりと自分と同じ方向へと向けて、背後からだきしめるのだ。
以前、なんでこうするのか聞いたことがある。
そのとき答えたのが、
「こうすると僕が守ってあげている感じがして、すごく気持ちいいし、安心する」
らしい。
今日もベッドに入るなり、私の背後から腕をまわす。
おなかの辺りで両手を交差し、時々動くものだから、少しくすぐったい。
頭にフレンの暖かい息が少し当たるので、気になってドキドキしてしまう。
当然、全く寝れそうにない私に気づかれてしまわないだろうかと、少し体が固くなってしまう。

「ナマエは寝れないのかい?」

フレンのいきなりの言葉にどきりと一瞬体を揺らすと、そんな私を見てか、くすくすと笑い声が聞こえた。

「だ、だって、久々だし。寝るのもったいなくない?」
「よかった。僕だけじゃなくて」

フレンの言葉に思わず体を反転し、正面を向くと、にこっと笑ったフレンの顔が目の前にあった。
今度はそのまま背中に腕をまわされ、引き寄せられる。
フレンの胸はいつも広かったけど、ここのところがんばっているらしいし、また広くなった気がした。
私も思わずフレンの背中へと腕をまわしたが、広いと思った胸は意外に違うのかもしれない。

「フレン、痩せた?」
「どうして?」
「ちょっと今、そんな気がして」

そう言ってフレンの顔を見上げると、一瞬驚いた顔をしたと思うと、すぐにうれしそうな顔をして、さらに私を抱き寄せた。

「ナマエにはかなわないな」
「正解なんだ」
「本当に少しだけだから。心配するまでもないよ」

きっと騎士団は私が思う以上に大変なんだろうということは、騎士団をやめて帰ってきたユーリからも、今現在がんばっているフレンからもよくわかった。
人間関係もそうだし、任務も操舵し、日々の訓練ももちろん大変だろう。
私もユーリと同じように下町警備員をしているため(ただし、ユーリと違ってちゃんと仕事も持ってる)、日々、剣術の練習は欠かさなくしているつもりだが、そんなもんじゃないだろう。
しかもまだ若いのに実績を積み重ねているフレンだ。
人間関係はきっと、複雑なものに決まっている。

「心配してくれてるのかい?」
「もちろん。フレンがガリガリになっちゃったら抱き心地が悪い」
「ならないよ、ちょっと最近は任務が立て込んでね。食事をとらずにがんばってたことが多かったから。すぐに元に戻るよ」
「ならいいけど。ちゃんと食べなきゃだめだよ」

フレンはふと、顔を近づけてきたかと思うと、私の唇にそっと触れるだけのキスをした。

「ナマエが毎日手作りの料理を差し入れしてくれるんなら、喜んで食べるんだけどね」
「したいんだけど、私そんな目立つこと苦手だから」
「ナマエが来るんだったら僕の彼女だって自慢するのにな」

そう言って私の頬に手を添えた。

「ばか」




思わず笑みを漏らした私を引き寄せ、柔らかい、暖かいキスを繰り返してくれる。

眠れない夜はまだまだ続きそうだ。







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