私は昔から、寝る時はカーテンを閉めずに寝る習慣がある。夜になっていつもカーテンを開けているとか、そういうのじゃない。一人暮らしを始めてからは3階の部屋だということもあり、明かりが着いている間はちゃんと閉めている。
でも昔から寝る時は真っ暗にして月明かりで照らされる部屋で寝るのが昔からの私の決まりごとで、それは今になっても変わらない。
月の明かりは私を落ち着かせ、安眠の世界に連れて行ってくれる気がするのだ。
だからなのか、私は新月の日が苦手で、どうしても目が冴えてしまう。月明かりがなく星の明かりだけでは私の部屋は照らされない。
それに、今日に限ってあいつがいない。
引越しを期に買ったセミダブルのベッドはあいつが隣にいることが多くなった今、私にはただ無駄に広いベッドでしかない。
いつも私の右隣で眠るあいつの姿は、今はない。仰向けに寝ていた体をごろりと右側へと倒したが、そこには静けさしかなかった。そっと伸ばせば触れられるすべすべの肌も、思いの外たくましい肩も、何もない。
ただ、あいつにユーフォーキャッチャーでとってもらった、好きでもないキティーちゃんのぬいぐるみの存在がやけに大きく主張してくる。

しょうがない、涼太は今、仕事で海外にいるんだから。

そう思えば思うほど孤独感を感じ、ベッドの中で体を丸くした。黒子くんのオススメで買ったシーツは本当に肌触りが良くて気持ちいいはずなのに、ちっとも気持ち良くない。
なんでこんなにもおセンチになるのかと考えながら、もうすぐ生理が近いからかなんて考えて、さらに気分が滅入ってくる。
それに今日は、さっきから言っているように私の苦手な新月の日だ。

このまま、涼太が帰ってこなかったらどうしよう。あっちでかわいいモデルさんと仲良くしてたら嫌だな。
メールをしたって今の私の気持ちは伝わんないだろうし、結局私はこうやって一人で過ごすしかない。

そこまで考え、なんだか私は贅沢な悩みをしていると逆に自己嫌悪に陥る。
かっこいい彼氏がいるのに。しかも相手はモデルだ。運動神経も良くて、顔ももちろんかっこいい。気遣いもできる、良い彼氏だ。それに中学からの知り合いで、互いのことはよく知っているし、私たちを支えてくれる友人だってたくさんいる。
何を悲劇のヒロインのような感情になってるんだと、さらにベッドの中で体を丸くした。

バッカじゃない、私。

ベッドの中でぎゅっと足を抱えて丸くなった。ぎゅっと目を閉じて布団に潜り込んだ。自分の息遣いしか聞こえない、真っ暗な世界。
情緒不安定になる私にいつも涼太は優しく髪を手でといてくれた。それがすごく好きで、すぐに落ち着いた。その感覚を思い出そうと強く目をつぶった時だった。

カチャリと遠慮がちな音が布団の中にも届いてきた。ワンルームの部屋は玄関の音も良く聞こえる。私は思わずびくりと体を強張らせた。
まさか、涼太が帰ってきたのかと思ったが、それはあり得ない。だって明日の昼に空港に着く予定だって言ってた。それに今はもう夜中の1時前だ。
じゃああの音は他の誰だって涼太意外にあり得ない。合鍵を持っているのはあいつだけだし、鍵だって寝る前にちゃんと確認した。妙なところで心配性の涼太はしつこいぐらいに鍵の確認をするのだ。
すると、あり得ないけど選択肢は一つしかないのだ。でも、あり得ないはずなのに。

ゴロゴロと小さな音を立ててスライド式の扉が開く音がした。私は息を殺してその音に耳を立てる。ふと、布団の外から息遣いを感じた。何年も一緒にいたらわかる、誰のものでもない、彼のものだ。

「・・・っ!わっ!名前、起きてたっスか?!」

暗い室内で慣れない目は、目の前の人をすぐには認識できない。
がばりと起き上がった私に驚いたのは、まだはっきり見えなくても涼太以外の誰でもなかった。

「・・・名前?どうした?」

何も言わない私の前にやってきて、涼太は体をかがめて私の顔を覗き込んできた。きっと情けない顔をしていたのだろう、涼太はにっこりと笑って小さな子どもみたいなキスをした。

「おかえり」

発した声は掠れていて、そんな声を聞いて涼太は満足したようにはにかむと、私の肩に腕を回して、髪の毛にくしゃりと触れた。

「ただいま」

途端になんだかなんとも言い難い幸福感に包まれ、私の鼻がツンと疼く。そんな私に気づいているのかどうか、またぎゅっと私を抱き寄せると、涼太は続けて言葉を耳元でつぶやいた。


「大丈夫っスよ、一緒に寝よう」

外から現れた涼太からはいつも付けている香水の匂いと、外の匂いがして、なぜだかそれが私をひどく安心させた。









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