※真琴がかわいそうなお話です。よければお進みください。



























遙の部屋は質素である。和室のような部屋だが、床はうすい紫色の絨毯がきっちりしいてある。教科書の1つも置いていない机の上はとてもきれいで、小さなタンスが1つ、そしてベッドの頭の先にはイルカが2頭、楽しそうに泳いでいるポスターが貼ってある。ポスターに描かれたイルカは2匹がまるで円を描いて泳いでいるように見え、シンプルなそのポスターはなんだか遙らしい。

「はあ、んっ・・・」

つながれたては汗でべっとりと湿っていて、私に触る手は驚くほどに熱い。そして私はその熱に影響されるように体の心から私の体温も上がっていく。少しずつ息が浅くなっていく、脇腹をかすっていったその熱に思わず息をのんだ。
遙の唇が私の鎖骨を丁寧に舐め上げる。何がイルカだ、水の中にいる時はただ泳ぐことしか考えていないピュアなやつかもしれないけど、一度陸上に上がれば完全なる肉食獣だ。水を取り上げられたイルカは更なる快感を求め、女の体をまさぐる。それがたとえ、常識の中で言えば手をかけてはいけない女であっても。

遙はすごくねちっこいセックスをする。体中を骨までむさぼるように舐めていく。今も片手は胸を丁寧に撫で上げながら肩口をぺろりとなめる。

「ハル、っ・・・跡は」
「わかってる」

短く答え、肩口から可愛らしく音を立てて唇を話すと、そのまま胸の突起へと吸い付く。片方を手でこね上げるように触り、もう片方を少し痛いぐらいに歯を立てて食いつかれる。

「ぁあっ・・・んっ」

少し痛すぎるほどの快感に思わず私は内股をこすり合わせ、両手で布団をぎゅっと握りしめた。







時々、こいつとセックスをしながら自分がいったいいつ何を誰とやっているのかすごく遠いところから観察しているような感覚になる。
名前は感じている時ほど切なげに顔を歪ませるので、その表情が見えたとたん俺はその行為を続行させ、涙がこぼれるほどに追い込んでしまう。やめてと言ったってやめてやらない。

「あっ、ああ、ハルっ・・・んっ!」
「ここ、気持ちいいの?」

そう聞いてやると素直にこくこくと首を振る。俺はもう一度覆い被さると、さっきよりも強い力で重点的に中を刺激し始める。

「ああっ!や、は、ハルっ!あ、あ、ああっ」

自分には跡を付けるなというくせに、俺の方をつかむ手は跡が残ってしまうんじゃないかというぐらい強く握りしめている。俺はその腕をつかんで放すと、両方の手首をつかんで名前の頭の上に縫い上げた。
名前の顔に一瞬恐怖の色がにじむ。俺は表情を変えぬまま耳元に唇を寄せてこう言ってやる。

「ヘンタイ」







ハルのセックスはしつこい。私が嫌がることをピンポイントで攻めてくる。私が嫌がるというのは刺激が強くて体が驚いているということを知っているからだ。

「あ、ああ、あっ、い、あ、あつっ」
「っ・・・、はあ」

手は頭の上に束ねられ自由が利かない、足を恥ずかしいほどに大きく広げさせられ、私の上に跨がっているハルは色っぽく息を吐き出す。ハルが泳ぎきったあと、ゴーグルを外して水を切るその姿も色っぽいけど少し違う。水の中でのハルの色をさわやかな水色に例えるのなら、今のハルには紫色が似合う。あまり表情も変わらない、淡白に見えて頭の中では何を考えているのか分からない。
ふと、そんなハルのことを考えていると、いつもあの人の顔が浮かぶ。始めこそ自己嫌悪で毎回落ち込んだものだが、こうも回数が重なってくるともうその感覚も麻痺してしまった。結局私はハルから与えられる快感に打ち勝てなかったのだ。
真琴は今、何をしているのだろう。
こんな最中にそんなことを考えている私は最低だ。だけども、いつも挿入されハルが動き出すまでのその瞬間、そして最中にちらりちらりと真琴の顔が頭に浮かぶ。それはまるで呪いのようだと思う。

「んっ、あ、あっ、ハルっ、きもち、いっ・・・ああっ」

ハルは表情を変えないまま私の目をまっすぐ見ている。いつもハルは私の目をまっすぐ見つめながら動くものだから、私もハルから視線が外せなくなる。そうして少しずつ、私の頭にいる真琴がだんだん薄れていく。

真琴と付き合い始めたのは2年になってすぐだった。もともと小学校から仲が良かった私たちは男女の関係なんて考えもしないで高校生になった。そんな中、変化をまず表したのは真琴だった。真琴は少しずつ変わっていった。私が違う男の子と仲良くしているといい顔はしなくなったし、妙に私との距離が近づくと体を固くした。その変化が私にはいったいなんなのか分からなかったけど、ハルには分かっていたらしい。
結局私たちはこのハルの計らいで付き合うことになったのだ。といってもハルはたいしたことをしていない。クラスも変わってしまい、いつまでもいじいじしていた真琴を見かねてハルは私の前で暴露したのだった。
結局私は付き合っているのだけど、真琴が一番好きなのかと言われても今になっても結局、どうか分からない。

「あ、っあ、は、ハル!い、いき、そう、あ、あっ」
「・・・イきなよ」

そう言ってハルは私の耳裏へと顔を埋めると、手首を持っていた手を外し、そのまま自分の首へと私の手を誘導した。私はそのままハルの首にしがみつき、 激しくなっていく行為を受け止める。

「あっ!だめっ、いちゃ、や、やだっ、あ、あ、イく!」

私はその瞬間、子宮がきゅんと縮小し、その直後にびくびくと全体が痙攣するのを感じ、その痙攣にあわせて体を小刻みにふるわせた。そんな私からハルはゆっくり体を離したかと思うと、私の両膝に掌を起き、ぐいっと大きく開いてまた、動き始める。

「や、ハルっ!ちょっと、まって、や、やあっ、あっ!」

ハルは私の声を聞き入れず、さっきと同じぐらい激しさで私の体を貫き始める。ハルはいつも私がイってから本気を出すように行為を行う。
逆に真琴はとても優しく私に触れた。割れ物を扱うような手からは愛されていることを痛いほどに感じられたが、私を満たすものには変わらなかった。







名前のことを女として好きかと言われれば、俺はどっち付かずな反応しかできない。ただ、現にこうやってセックスをしている時点で、俺は名前を女として見ている。所詮、人間なんて動物である。異性を見れば性の対象として受け入れるか受け入れられないかだ。そういう前提で答えるならば、完全に俺は名前のことを女と見ているのだ。
だがしかし、人間というものはただ本能のまま行動を起こすわけでもない。俺の中にも理性という名のストッパーがある。結局はこうやって名前とセックスをしているわけだが、俺たちふたりの間には真琴という名のストッパーがあった。
真琴という、俺も名前も失いたくない大きな存在が。

真琴は俺にとっても大切な人間だ。真琴がいなかったら今頃俺は学校に来ていないかもしれない。真琴には悲しい思いをさせたくない。
なのに、こんなことをしてしまってはもう、取り返しは付かないのだ。





ハルは私の腕を引くとそのまま上半身を起き上がらせ、ハルがあぐらをかいた上に座った。こうやってハルの上に乗っているというのに、私の視線はまだ下にある。
近い距離で見つめ合った私たちは、もう10センチもない距離なのだけど、私はそのまま顔をハルの首元に埋めた。
ハルの大きな手が私の腰をつかんで上下に揺さぶる。恥ずかしいほどのいやらしい音と、私のいやらしい声で部屋の中が充満する。まるで何かの麻酔にかかったようだといつも思う。ハルに抱かれると私たちは歯止めが利かない。
でも、いつも私たちはキスは絶対にしなかった。しないなんて約束は一切していない。でも、ふたりともキスが最後の歯止めになっているような気持ちになっていた。

キスをしてしまったら、それこそもう何もかも、失ってしまいそうだと。





俺は中に入れてから殆ど視線を名前の目に焦点を合わせる。名前の目を見ていれば何となく、考えていることが分かるような気がした。時々、遠いところに意識が言っていることに気付く時がある。ちゃんとこっちを見ているのに、焦点はあっていない。
そう言う時は決まって名前は真琴のことを考えていた。
なんだかそれが気に入らない。
つかんだ名前の腰は驚くほどに細かった。俺の首に巻き付いてくる腕も細くて今にも折れそうだ。ふと覗き込んだ目は、今ここにいない。
俺はギリッと奥歯を噛み締めると名前の耳に唇を寄せた。

「こっち見ろよ」

そう言って優しく舐めずに噛み付いた。







「なんで耳に噛み付いたの?」
「・・・何となく」

ハルがセックスをしているときに私が違うことを考えていることを嫌っているのは、何となく分かった。私の目を見ているハルの目を覗き込むと、何となく機嫌が悪い時が分かるのだ。

「どうすんのよ、ちょっと歯形のこってるんじゃない?」
「ちょっと残ってる」
「はあ?サイテー」

ベッドにふたり寝転んだまま天井を見上げていた。行為が終わった後は抱き合って眠るなんて甘い雰囲気は一切ない。ただ、いつものハルといつもの私に戻るだけだ。ただ、服を着ていないというだけ。

「今日は帰るのか?」
「帰るよ。明日、真琴迎えにくるって言ってたし」

そう言って私はゆっくりとベッドから上半身を起こして足の裏を絨毯の上におろした。
部屋の中はクーラーがちょうどいい温度を保ってくれているので裸でも寒さは全く感じられない。でもハルとの行為のあとは、妙に心に冷たさを感じ、背筋がひやりとする。
それは私の唯一の罪悪感からなのか。
ハルは私が衣類を拾って着替えている間、いつもめをつむったまま天井に顔を向けている。その時に何を考えているのかはわからない。

「じゃあね、ハル」
「ああ」

ハルの部屋を出れば私にも、もちろん私たち二人の間には甘さも余韻も感じられない。ただ、いつも通りの真琴の彼女である私、そしてその友達であるハルになる。

ハルは一体何を考えているかはわからないけどただ一つ言えるのは、私もハルも、馬鹿で愚かだということだ。







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -