俺にキスしろ | ナノ
2


「いやぁ、悪いことは言わねぇからさー、もうやめれば?」
「それ、何回も聞いた」
「何回も言ってるし」
「俺だって何回も言ってる」
「…、」
「やめられるわけないだろ」

やめられたとしても、俺はきっとやめないだろう。今やめてしまえば、俺と古谷君の接点なんてまたなくなってただ眺めて過ごす日々に逆戻りだ。前はそれでよかったけど、今は違う。

古谷君は麻薬のような男だ。一瞬でも俺を求めて動く彼に触れてしまえば、元になんて戻れない。期限が切れるまでは無様に古谷君との関係に縋り付くさ。彼が俺に飽きるまで。

「だけどさ、ソイツ、お前だけじゃないんだろ?」
「…そうだよ」

友人の問いに、間をあけて頷く。自分にも言い聞かせるみたいに。

さっきも言った通り古谷君は麻薬のような男だ。それも、媚薬混じりの。
そんなパッケージがとびきり美しい薬に飛びついたのは何も俺だけじゃないんだ。性別なんて関係ない。みんな、彼に抱かれたいと思うのさ。だけど古谷君は恋人をつくらないと有名だし、だったら、身体だけでもって、俺みたいに考える人は少なくない。

それに加えて、古谷君は案外快楽主義者だった。男だ女だなんて考えることなく相手を抱く。

その結果、一度きりか続いているのか、回数はさておき、彼のセフレを名乗る人が大勢出てきた。
その中の一人に俺もいるわけだが、俺は友人以外には名乗っていない。だけど、周りは気付いている奴もいるだろう。何せ俺は古谷君が珍しく自分から声をかけた男だと一時的に噂され妬まれたわけだから。
そも、彼と親しくする人で肉体的関係を持っていない人間なんて、中学からの腐れ縁だという彼の友達くらいだ。

「そんなの仕方ないんだ、だって、彼は古谷君なんだから」

片手に持っていた缶をコト、とテーブルに置いて、立てていた膝に額を乗せた。
はぁ、と息を吐くと、側でごそごそと音がした。

「…なに」

隣に来た友人が肩を組んできて、顔を上げると、すぐ目の前に友人の顔があった。

「…確かにお前綺麗な顔してるけど」
「おい、酔ってるのか」
「まだだよ…なに、男同士ってそんな良いもんなの?」

興味本位で聞いていることは分かっているが、なんとなく腹が立って咄嗟に側にある肩を殴った。
対して痛くもない癖にイテテ、と肩を摩る友人を睨んでビールを煽った。

「そんな怒んなよ、冗談だろ」
「分かってるよ、だけど俺はヘテロだ。好きになったのも身体を許せるのも男は古谷君だけだよ」
「へぇ、一途だねぇ」

飲み終わった缶を揺らした友人は心底不思議そうな顔で何度か頷いて、だけど、と続けた。

「セックスはするけどキスはしてくれない男に、期待はしないほうがいいんじゃねぇの?」




***




「んぁっ!……ふ、ぁ、なに?」
「ぼーっとしてる。考え事?」

昨日の友人との会話を思い出して、少し意識を飛ばしていたらしい。一度後ろで達した後だったから、思考がふわふわしていて意識を保っているのが困難だ。そんな状態の俺を、じっと見つめていた古谷君が、繋がったままの身体を深く穿つことによって現実に呼び戻した。
せっかく古谷君に触れているのに、勿体無いことをした。

「ぁ、ごめん、古谷君…」
「悩ましげな君の顔は綺麗だけど、あんまり俺のことを放ったらかしにするなよ」
「んんっ…はぁ、ああ…っ!」

深いところで緩やかに腰を動かす古谷君。敏感なところが何度も擦れて、堪らずに声が出る。恥ずかしくて口を塞ごうとした手はすぐに絡め取られて、古谷君は喘ぎ声を漏らす俺に顔を近づける。

「それに…」
「え?…あっ、ん…はぁ」
「こうしてるときは、名前で呼べと言っただろ、蓮?」
「ひ、ぁあっ」

不意に名前を呼ばれて、奥を締め付けてしまう。突然の締め付けに小さく眉を寄せた古谷君は、俺の髪を梳くと、そのまま腰の動きを速めた。

「ああっ、あ、気持ちい、正樹っ、ま、さきぃ」
「イキそう?」
「んぅ!あ、い、く…あ、イく!」
「いいよ」
「ああっ、あ、ん、ね、キス、して…ん、キス、したぃ…あっ」
「…フッ」
「え、ぁ、ひぁああ、激し、あ、あ、んんぁ!!」

びくびくと痙攣する俺の身体。直後、小さく呻いた古谷君の熱が俺の中で爆ぜた。

結局今日も、古谷君は俺にキスをしなかった。



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