俺にキスしろ | ナノ
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対人間には色々付き合い方ってものがある。幼い頃からの幼馴染みでずっと一緒にいたり、顔見知り程度のクラスメートじゃ交わす会話なんて数えられる程度。恋人同士なら甘酸っぱいやりとりをするんだろうし、すごく仲の良い友達が出来たらお互い切磋琢磨して成長しあったりするんだ。

大人になればその枠はぐんと広がる。歳だけでいうなら大概の成人は酒やタバコの味を覚えるものだ。とくに酒は交友を深めるために一役も二役も買うケースだってある。飲み仲間なんてものがあるほど。
タバコは賛否両論だが、きっと喫煙室での出会いだってない訳じゃない。
それと、あと他に例を挙げるとすれば。

セックスフレンド、とか。



【俺にキスしろ】




「お前まだ古谷クンと会ってんの?」

プシュ、と二本目の缶ビールを開けた友人が、切れ長気味の目を務めて丸くして、意外だ、とでも言いたげな表情を作ってみせる。

大学が違うこの友人は、偶に缶ビールとつまみの入った袋をひっ提げて一人暮らしの俺の家を訪ねてきては、酔い潰れてそのまま俺の家の床で朝を迎える。わざわざベッドになんて運んでやる気はなく、適当に毛布をかけて自分だけベッドで寝るのはいつものことだ。

「だったら何?」

アホ面でビールを煽る友人に、そう返してまだ一本目の缶ビールを口許で傾けた。

友人のいう古谷君とは、俺と同じ大学のミスター。簡単にいうと一番かっこいい人。艶やかな黒髪に涼やかな目元。高く通った鼻梁に、薄く引かれた唇。完璧に整っているのは顔だけではなく、細身ながらにしっかりと筋肉のついたモデルばりな八頭身半の身体。性格はクールだけど決して優しさがないわけではない。割と気さくな人だ。学年は俺と同じ三年で、俺と同じ経済学部で成績優秀。


そんな古谷君と俺は所謂セックスフレンドだ。


完璧な古谷君は、俺の憧れだった。いやきっと、彼に憧れていたのは俺だけじゃないんだろうが、俺もその中の一人で、よく彼を見ていた。
よく連んでいる友達と話してる姿を、ああ今日も輝いているなぁ、なんて眺めているうちに、憧れの他に恋愛感情を抱き始めたがそれもおかしくないくらいに古谷君という人は魅力的だった。

男同士だし、相手は人気の古谷君だし、はなから結ばれようなんて考えは浮かびもしなかったから、ただ恋心を抱いて日々彼を眺めていた。

確かに眺めているだけで満足していたんだ、あの時までは。

そうでなくなったのは、いつだったか。いや忘れもしない。彼よりも後ろの席に座った講義中、いつものように彼を見つめていた、講義が終わったあと、唐突に話しかけられたんだ。

『このあと、一緒に遊ばないか?』

幻だと思った。古谷君が俺に話しかけてくれるなんて。疑いつつも、俺の首はちゃっかり何度も縦に振らさっていた。

そしてその日の夕方、彼が好きだと言っていたバーで一緒にお酒を飲んだ。驚いたことに、彼は彼の友達を誘わなかった。二人だけでポツポツと会話をしながら慣れないカクテルを飲んだ。話の内容なんて、休日の過ごし方とか、好きな本の話とか、ありふれたものだったけど、自分が今、古谷君を独占しているのだと気付いて、嬉しすぎて、すぐにふわふわと良い気分になった。
良い気分というものは、一度知ってしまえばまた味わいたくなるものだ。
これまた驚いたことに、彼はそのあとも何度か俺を誘ってはお気に入りのバーで二人でカクテルを飲み、またポツポツと会話をした。

手に入れば入るほど、さらに次のものが欲しくなる。

俺は、古谷君にもっと近付きたくなった。

また二人でバーに行った日、いつも別れる場所まできて、俺は彼の服の裾を握った。黙って俺を見下ろした彼に、震える声で告げた。

『まだ、古谷君と一緒にいたい』


そう言った俺の腕を掴んだ古谷君は、迷うことなく歩き出した。混乱して何も言えず、黙って腕を引かれて辿り着いたのはラブホだった。驚いて目を見張る俺に一度小さな笑いを落とし、パネルで何かを操作し終えるなり古谷君は、そのまま部屋についてすぐに俺をベッドに押し倒した。

混乱し過ぎてパンクしそうになった頭はそれでも、俺に触れてくる手に歓喜した。まさか、こんなことがあっていいのかと。

適度に慣らされた後孔に古谷君が入ってくる頃には、初めて味わう違和感と快楽にぐずぐずにされていた。
生理的に出てくる涙で歪む視界の中、腰を振る彼にしがみついては、ひたすら意味のない嬌声をあげることしかできなかった。


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